第一話 サービス終了のその日に
皆さまは、オンラインゲームのサービス終了の時をどのようにお過ごしでしょうか?
一人寂しく静かに最後の時を待つ?
それとも、思い出の場所を巡ってみる?
あるいは、懐かしい仲間とチャットで語らいながら思い出話を?
人それぞれ、思い出のゲームの最後の迎え方にはいろいろあると思います。もしかしたら、しばらく引退していた間に気が付いたらサービス終了していたなんて人もいるかもしれませんね。
して、ボクの場合ですが……そうですね、大戦争ですよ。
サービス終了のその一瞬まで、寝る間も惜しんで一心不乱の大戦争、これに尽きます。
ボクのやっているオンライン戦略シミュレーションゲーム『ラストバタリオン・オンライン』ですが、本日でサービス終了となります。
プレイヤーが一国の主となり、魔法文明とか科学文明とか、それぞれの文明を発展させながら内政したり、戦争したり、いろいろやりながら国家を発展させていくというこのゲーム。
戦略ゲー好きのボクの感性にぶっ刺さったゲームで、サービス開始から今まで三年間、高校に入学した時から、卒業する今の今まで毎日欠かさずやり続けてきた、それこそボクの青春ともいえるゲームです。
気が付けば最古参プレイヤーの一人になっていたくらいにはやりこみました。
懐かしいですよ、夏休みのバイト代はすべてこのゲームの課金に費やしましたし、休日だって一日たりともこのゲーム以外のことはやってないくらいですから。
そんなゲームがいよいよ終わってしまうんです。
けど、ボクも含めて悲しんでいる人はきっといないと思います。
だって……。
「うぉおっ! やばい、第一艦隊がやられたっ! 敵の上陸部隊は……よし、第三艦隊が迎撃に入ったっ!」
悲しんでいる暇がないくらい忙しいのだから。
運営からこのゲームのサービス終了が言い渡されたのが約一か月前。
急な知らせに混乱するボクたちプレイヤーだったんですけど、まあ、終わってしまうものは仕方がないと最後の最後に一つの祭りをしようと計画したんですよ。
それが大戦争、全ての国家が燃え尽きるまで戦い続ける最終戦争です。
無数のプレイヤー国家が、切磋琢磨しながら内政や外交、戦争を繰り広げていく『ラストバタリオン・オンライン』。略してラスバタ。
通常であれば、それぞれの国家が全力を出し切るような総力戦をするなんてことはめったに起こらないんです。
だって、そんなことをすれば勝っても負けても損しかないですから。
負けてしまえば再起不能の大打撃、勝っても疲弊したところを第三国に襲われて、ちーん。漁夫の利を得ることは、戦略ゲーの基本中の基本です。
ですから、全力を出し切らないとそもそも戦いにすらならない、と言うくらいの圧倒的国力差がない限り全てを出し切っての戦争なんてしないものなんですよ。
けど、この時だけは話は別です。
どうせ、サービス終了するんだから、後の事なんて一切考えず積み上げてきた国力を全て溶かし切る大戦争をやってみたい!
ボクの居たサーバー……最古参のやばい連中が作った超大国しか生き残っていない通称「カオスサーバー」ではそう言った話が上がって、最終戦争の準備が進められたんですよ。
最終戦争委員会、なんていう明らかに頭がおかしそうな組織が作られたりして……あっ、ちなみにボクはこの委員会の常任理事です。
ほらボクって、他のプレイヤーからは「ラスバタ界のブリカス」、「強襲上陸してくんなカス」、「死の商人かよ」と呼ばれるようなプレイをしていて結構有名だったんですよ。
他のプレイヤーから二つ名なんかもつけられたりして……まあ、大学受験に失敗したことがばれて「美大落ち」とか「総統閣下」とか酷いあだ名でしたけど。
てか、ボクはどこぞのちょび髭と違って美大に落ちたわけじゃないですよ? 普通に第一志望校に落ちただけです。
……こほんっ、そう言うわけで、サービス終了まで最後の一週間、ぶっ続けで止まることなく大戦争。同盟もクソも何もない、全ての国が敵のバトルロワイヤルが開催されたんです。
そして、現在。
「あぶなっ、上陸されるところだった……。けど、敵主力艦隊撃滅成功! 次の国は……」
ここ一週間眠ることなくゲームをプレイ。だいぶテンションとか感覚がおかしくなってきていますが、まだやめるわけにはいきません!
何故なら……ここまで結構うまく立ち回れたから!
すべての国が人的(人的資源の略、これが無くなると兵隊を徴兵できなくなる)を完全に失うくらい激しい戦争を繰り広げているのにボクの国『大和帝国』はまだまだ戦えますっ!
まあ、海軍国だからほとんど陸戦してないからなんですけどね。
ボクの作った国『大和帝国』はこのサーバーで最強の海軍国家です。
大洋のど真ん中にある島を拠点とする海洋国家で、その地形を生かし、海軍力のみに一点特化し、一度たりとも敵を本土に上陸させたことはない防御型国家。
てか、このゲームってボクの国家『大和帝国』みたいに孤島に国を作らない限り、基本は隣国との陸戦ですから、あまり海軍に力を入れられないんですよね。
そう言うわけで、周りが陸戦に力を入れている間に世界の海軍の半数は大和海軍なんて言われるくらいには、極めた海軍力。
サーバー内で取り決められた海軍軍縮条約の影響で、ド級戦艦は作れませんがそれでも数十隻の前ド級戦艦からなる最強艦隊。
圧倒的制海権から時折、嫌がらせ感覚で行われる奇襲的強襲上陸は「大和病」と呼ばれ、畏れられたものです。
この最終戦争でもその海軍力は十分に発揮され、敵を一人たりとも本土に上陸させず戦い続けることができているんです。
……陸軍が貧弱すぎて敵地に上陸するとすぐ死んじゃうんですけどね。
まあ、陸戦は最初からあきらめているのでいいんですよ。問題は海戦です。
「どこだ!? どこにいる? あと、共和国の艦隊を潰せば、ボクの艦隊以外消滅するのに!」
全世界の艦艇の半数を保有するとまで言われた我が海軍。
こいつを極限まで使うとなれば……そう、全世界の海軍を撃滅するほかないんです!
『終了まで残り10分、いまだに大和帝国落とせないんだけど? 誰か艦隊残ってない?』
『ないよ。俺の艦隊は三日前に消えた』
『じゃあ、俺だけみたいだな。流石に全国家からの猛攻を受ければ、あのブリカスも疲弊してるだろ? 潰しに行って来るぜ』
全体チャットを見れば、ふむ、どうやら生き残りの艦隊が攻めてくるみたいですね。
索敵に敵影は……来たっ!
装甲巡洋艦8隻、防護巡洋艦12隻ですか。戦艦すら持っていないとは笑わせないでほしいですね。
連戦に次ぐ連戦で、こちらの艦隊戦力も半減しましたが……まだ、戦艦だけで10隻は残ってるんですよ。
弱小巡洋艦艦隊なんて蹴散らしてくれるっ!
本土周辺海域に稼働艦艇を集結、まだ50隻は残っていますね。この全艦隊を敵にぶつけて……海戦。
艦隊同士がぶつかり合い、どんどんマップ上から消えていく。あっ、こっちの戦艦が一隻沈められてしまいました。
この船一隻作るのにどれくらいの資源が必要だったか……。
この最終戦争、敵も味方も含めれば、戦艦だけで40隻は沈んでいると思います。その他艦艇も含めれば……想像もしたくない。
サービス終了直前の最終戦争だからこその大盤振る舞いですね。
そうこうしている間に、最後の敵艦隊も撃滅。一隻残らず海の底に送ってやりました。こちらの被害は軽微、悪くない結果です。
『挑んでみたけどさ、戦艦13隻も残ってて草、一隻沈めてやったけどこっちは全滅。全然大和帝国疲弊してないじゃん』
『全世界でぶつかってこれかぁ……こっちがうまく連携取れれば勝てたかもしれねえけどなぁ』
『全世界バトルロワイヤルの真っ最中だから無理な話だ。おい、みんな、もう本当に艦隊残ってないのか? 駆逐艦一隻でもいいぞ』
『ないよ、本当にすっからかんだ』
サービス終了まで残り1分。
チャットを見つめるが、ボクの国以外に残存艦艇は一隻もない模様。
やり切った。
勝利を確信すると同時に、急な眠気が襲って来る。そりゃ、そうだよね、もう一週間も戦い続けているんだから。
……おやすみなさい。