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5.初依頼

甘エビの唐揚げが美味しかった

「それでラザール、最初の依頼はどうするんだ?」


「せっかく冒険者になったんだし、今晩中にできそうな簡単なヤツがあれば、それを受けてみるよ」


「でしたら、これなんてどうですか?」


 そう言ってラティーがカウンターの上に出したファイルの中から、一つの依頼書を見せてくれた。


「……ギルドの倉庫の片付けか」


「はい。新人のラザールさんにいきなり魔物相手の夜戦をおすすめすることはできませんし、近場で、かつすぐにできる簡単な依頼というと、正直これくらいしかありませんね」


 初依頼が冒険者らしくない、地味なものというのは少し思うところがあるが、せっかくラティーが選んでくれたのだ。

 冒険者には危険と隣り合わせの依頼も多い。

 背伸びなどせず、こういう依頼からきっちりこなす方が、リスク管理能力が身に付くのかもしれない。


「ならこれで……」


「初心者向けの安全な依頼なら、こっちのがいいんじゃねぇか?」


 俺がラティーの勧めてくれた依頼を受けようとしたところで、ゾルグが一枚の依頼書を差し出してきた。


「廃材の運搬?」


「ゾルグさん、確かにその依頼もFランク用のものですけど、パーティー向けの、それも数日かけて行うような依頼ですよ」


「だが、俺なら一晩もかからずに依頼を完遂できるぞ」


「はあ……。それはSランクのゾルグさんだからでしょう。

 ラザールさんのことを目にかけているのはなんとなくわかりますが、ご自身と同じ水準で物事を考えていたら、せっかくの才能が花開く前に潰えてしまいますよ」


「目にかけるとか、そんなんじゃねぇよ。

 ただ、こんな逸材が常人と同じペースで依頼を受けていたらもったいないと思っただけだ。

 こいつは間違いなくSランク冒険者になれる。

 本当ならドラゴン討伐でも受けさせたいところだが、実力はともかく、冒険者としては新人で、本人も戦闘にそこまで乗り気じゃねぇからな。

 これでも妥協して依頼を選んでるんだよ」


「Sランク冒険者って……。

 ラザールさんはそこまでの人物なのですか?」


「ああ、間違いねぇ。俺が保証する」


 視線を交わし合うゾルグとラティー。

 それにしても、なぜだがゾルグの俺に対する評価がやけに高い気がする。

 おそらく、昨夜酒場で俺が腕相撲の勝負で勝ったことが原因だと思われるが、あの時のゾルグは酔っていた。

 Sランク冒険者とはいえ、酔っ払ってしまえば本来の力は出せないだろう。

 そもそも、ラティーの話だと、ゾルグの強みは力よりも防御力にある様子だった。

 そんな相手にちょっと腕相撲で勝ったからといって、俺にSランク冒険者になるだけの才能があるとは思えない。


「ゾルグ、なにやら期待をしてくれるのは嬉しいが、俺はそんなに優れた人間じゃないぞ。

 田舎の村に産まれて、ずっと畑仕事だけやって生きてきたからな。

 だから、今回はラティーの勧めてくれた方の依頼を受けることにするよ」


「……わかった、ならこうしよう。

 ラザールが倉庫の片付けの依頼を受けて、俺は廃材の運搬の依頼を受ける。

 そっちの依頼が終わり次第、廃材の運搬をお前がやる。

 もし、今日中に終わらないようなら俺が引き継ぐし、完遂できたらラザールが依頼を受けたことにすればいい」


「ちょっと、ゾルグさん!

 Sランク冒険者が初心者向けの依頼を受けるなんて、そんな新人の仕事を奪うようなこと認められませんよ」


「ラティー、今回だけだ。

 なあ、ラザール。お前、天恵を授かったのはいつだ?」


「昨日だが……」


「それで、どこまで自分の天恵のことについて把握している?」


「いや、まだなんとなくしかわかってない」


「そうなんだろうな。

 お前の感じからして、嘘をついているとも思えねぇし。

 ラティー、こいつはまだ自分の持っている力をちゃんと理解してねぇんだ。

 だが、俺はラザールの中にとんでもない力が眠っていると確信している。

 力の使い方を知らない状態でラザールを放置するのは、あまりに危険だ」


「危険って、そんな大袈裟な……」


「大袈裟なんかじゃねぇよ。

 ラザール、俺と腕相撲をしたとき、お前本気だったか?」


「いや……」


「俺はその本気ですらないラザール相手に力負けしたんだ。

 言っておくが、酔っていたからとか、そんなレベルの話じゃねぇからな。

 酔っていようが、Sランクの俺がそう簡単に負けたりしねぇんだよ、普通は。

 それに、だ。

 俺だから負けただけで済んだが、もし他の奴が相手だったら、お前は相手の腕を確実にへし折っていたぞ。

 その自覚はあるか?

 お前はお前が思っている以上に、ヤバイ天恵を授かっている。

 天恵の内容まで追及するつもりはないが、せめてお前が自分の持っている力を正しく把握するまでは、俺はお前を野放しにはできねぇ。

 それがお前のためであり、無用な被害を周りに出さないためだと思うからだ」


 真剣な口調のゾルグ。

 所詮夢の中の話だ。

 好きなようにやればいい。

 そう割りきるには、あまりにゾルグの様子は真に迫っていた。


 確かに、俺は自分の天恵【夢双】について完璧に理解しているわけではない。

 今後もこの夢の世界を訪れることを考えると、この世界の住人に迷惑をかけるようなことがないよう、自分の力を確かめるのもいいかもしれない。


「正直、自分では実感がわかないが、ゾルグがからかっているわけじゃないのはわかる。

 俺も自分の天恵についてもっと知りたいし、Sランク冒険者様が付き合ってくれるってなら、こんなラッキーな話はないだろう」


「おし、決まりだな。

 ラティー、そう言うことだから依頼の承認頼むぜ」


「何がそういうことなんですか。

 ……はあ、まったく。

 こういうことして、あとでギルド長から怒られるのは私なんですからね」


「わりぃな」


 愚痴をこぼしつつも、依頼の処理を行っていくラティー。

 面倒見のいい質なのだろう。

 冒険者の無茶にも誠実に対応してくれるからこそ、こうして受付を任されているのかもしれない。


「はい、こちらが依頼の詳細になります。

 倉庫の片付けに関しては、ギルドが発注したものですし、よほどのことがない限り失敗になることはありません。

 ですが、いい加減な仕事内容だとランクアップの評価に響いたりしますから、気をつけてくださいね」


「初仕事だしね。きっちりやるよ」


「んじゃ、俺はそこで酒でも呑んでるから、片付け終わったら呼んでくれ」


 それだけ言うと、ゾルグはギルド内に併設されているバーへと向かって行った。


「自由で勝手な人ですけど、あれでも皆に慕われてるんですよ」


「そうなんだろうな」


 俺は、早速バーにいる他の冒険者と騒いでいる、ゾルグの背中に視線を向けた。

 昨日出会ったばかりの俺をわざわざギルドまで案内してくれただけでなく、依頼の面倒までみてくれようとしている。


 俺が腕相撲でSランク冒険者のゾルグに勝った。

 たかが腕相撲とはいえ、それは俺が思っている以上にとんでもないことだということは、ゾルグの話からなんとなくは理解した。

 だが、それを差し引いても、ゾルグが気のいい奴だということに変わりはないだろう。


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