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一話

 親友と恋人がセックスしてるのを私だけが知らない。

 と、そんな風に思われてるのは知ってた。

 そんな訳ないのに。

 しーとノゾミの匂いがおんなじことなんて私最初から気づいてた。それでも見ないふりして、知らないふりして、普段通りの私でいた。しーが隠したいならそれでいいって思ってた。なんとなく、辛いんだろうなって分かったから。

 それにしーならいつか打ち明けてくれるって信じられる。

 親友だから。それでいいんだって思ってる。

 だからある日ノゾミがしーの歯形を付けられて私の家に来たとき、ああ、ついに来たんだなって思った。しーは私に嫌われようとしてる。言い訳なんてなく、ただ、私があなたからノゾミを取ったんだよって、そう言いたいんだって分かった。

 彼女はとっても幸せそうな笑顔を私に見せて言った。

「さくのん、わたし、しーちゃんとえっちなことしちゃった」

 今まで見たことない笑顔だった。私はやっぱりノゾミからなんとも思われてなかったんだなって少しショックだった。こんな笑顔を私は見せてもらったことがない。それが少しだけだったことは、あんまり意外じゃなかった。

 私は本当は、このときちゃんとショックを受けるべきだった。

 どうしてしーが、ノゾミは私の恋人なのに、って。

 でも、知っちゃってたから。

 上手くいかない。上手くいかないんだ、なんにも。


 ―√\ㇸ___


「~~~ッ、ッ、!!」

 私はしーの親友で、いつまでも親友で、彼女以外の誰かと恋人になって、それでもずっと親友で、そんな関係でいたい。そうすればずっとしーといっしょに居られる。そのはずなんだ。だってしーが言ったんだよ?ずっと友達って。

 だからね、しー。

 わたし、あなたを嫌いになんてならないんだよ。

「ノゾミ、あのね。お願いがあるの」

「ッ、!!ッ、っ、っ、」

「わたしね、このまま何も知らないのがいいんだ」

「、?、、っ、」

「だからノゾミは、わたしに何も言ってないの。いいでしょ?わたしはなんにも知らなくて、なんにも知らないままノゾミの恋人でいいの。ああ、もちろんちょっと冷たくしてくれてもいいんだよ。無理しないでもいいから。ただ、知らんぷりしてくれればいいの」

 恋人に冷たくされた私が親友であるしーのところに行ったってなんにもおかしなことはないよね。親友なんだから。きっとしーは慰めてくれる。そしたらほら、わたしがしーを嫌いになんてならない理由ができる。このまま大好きでいてもいい。

 そのためには、どうしてもノゾミを説得しなきゃいけない。

「でもノゾミは言うこと聞いてくれないでしょ?ノゾミってけっこうわがままなところあるから。これでも恋人だったんだから知ってるよ。だから仕方ないんだよ」

 私は言葉が上手くない。冗談だって得意じゃない。説得なんてもってのほか。

 だから仕方ない。仕方ない。だってこれはとっても重要なことだ。しーにバレたらそれでおしまい。だからどうしても、私はノゾミを信じられるようにしなきゃいけない。

「安心して、ひとつでいいから。ノゾミが頷いてくれるならそれだけでいいんだから」

「ッ!!!!、ッ、ッッ!?」

 口約束なんて信じられない。文章にしても同じ。

 だからね、ちゃんと忘れないように、私が刻んであげるんだ。

「ゆびきりみたいなものだよ。大丈夫。ちゃんとすぐ手当してあげるから」

 ノゾミの爪は綺麗に伸ばされてる。だからちょっともったいない。

 ああでもずっと、痛いなって、思ってたんだ。

 ……しーにもしたのかな、この指で。


 ぺり、り、


「~~~~~~~~ッッ!!!!!!」

 嫉妬なんかじゃないんだよ?仕方ないんだよ。これは仕方ないことなの。秘密にして、裏切ってたんだから、これくらいはいいでしょ?ずっと痛いの我慢してたの、だからノゾミも我慢してね。


 、り、ぷつっ、つ、ぢっ、。


 取れた。


「大変だったね、ノゾミ。……もう、信じていいよね?」

「ッ、ッ、ッ、」

 頷いてくれる。

 よかった。

 これで私は、わたしはなにも知らない。


 親友と恋人がセックスしてるのを、わたしだけが、知らない。

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