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宰相は死にたがる姫君を愛する  作者: 雪形駒次郎
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 風の国ローイエンの国土は、東大陸で、最も広い。

領土北部に峻厳な山々を、そして南西部に火山も有しているため、植生や気候は多彩だ。

北の隣国クルド共和国との間には山があるし、南部のセレナ、

東部のサーシャ公国、カシューナ国とは、河川や流路にもうけられた水門で国境を隔てられている。

それ以外はすべて海にかこまれており、標高が高いため海沿いは断崖絶壁。

風の国はまさに鉄壁の防御力を誇る山上の要塞なのである。

 セレナとの国境から主要公道である中央大河トラヴィスを西へさかのぼること3日。

船は、風の民のおもな居住地域である中央平原を移動中だ。

もう霜のおりる日は数えるほどになり、芽吹きの春をむかえて一面にやわらかなクローバーの若葉がゆれている。畑ではもうすぐ作付けだ。それでも彼方の北部山脈はいまだ真っ白で、山間部に残る雪の上を渡ってくる風は、ぴりりと冷たい。

 

 速度があがり、列車の正面からやって来る風圧は激しく、水しぶきとあいまって暴力的に荒れ狂っている。ルシアスは、風のシールドをうすく身にまとい、船列車の先頭にもうけられた見張り台で行く手の川筋を見すえていた。

 長い銀の髪を藤紫の衣にゆったりと流す姿は静謐そのもの。

葛藤も焦燥も律し、彼は風の国の宰として、いつもどおり部下の前に立つ。



 もたれあいながら天をさしてそびえる二つの巨石がしだいに近づいてくる。

『双子岩』だ。水路の分岐点を示す標の石の一つである。

 彼はぐるりと周囲を睥睨し、船のまわりを並走する竜のおおよその数を数える。

セレナ軍とともにハッバス帝国との戦いに参加させた竜は、ほぼ400頭。

セレナの列車事故で数頭行方知れずになったが、占有所有者ありの竜はいずれも無事だ。

 ルシアスは、首から下げていた銀の笛を鳴らす。風の国の民は、この笛とハミで竜を操る。

 時に浅瀬をわたり、器用に場所をいれかえながら、次第に竜たちが左岸へ集合していく。

竜だけがききとれる高音で指示をだしているので、それは他国の者がみたら不思議な光景だろう。

 彼は左手をあげた。

「帆をたため!」

 操舵室で取舵が切られる。

「停船!」

 力強く船を押していた風たちが、任を解かれた喜びそのままに天衣無縫に散っていった。

ギィィィィ、と船の身の内から軋みがあがる。

「錨を下ろせ!」

 タラップの設置を待ち、彼は部下の手をかりつつ、降車した。

 竜たちの体調を確認するためだ。 

 風の国の『竜』は、翼をもたない。しっかりした2本の後ろ足で身体を支え、背骨を大地とほとんど平行にして走る。馬よりも速く、持久力もあるが、上下の移動は不得意だ。黒々とした大きな目をもち、顔立ちは、どちらかといえば愛らしい。太く長いしっぽと鋭い爪の攻撃力はすさまじく、陸上での直接戦においては鉄器を持つハッバスの歩兵にも遅れをとらない。

 けれど竜はとても繊細な生き物だ。彼らは自分たちがここ、と決めた岩場でしか、深く眠ることができない。そして清らかな水辺で生育した牧草や果物、湧水を好む。

 つまり、環境が悪ければ体調を崩す、ということだ。

 竜たちの表情は昨夜にくらべずいぶん生き生きしているようにみえる。

「よぉしよし。ご苦労だったな。よく休め。」

 竜たちが水を飲み、体のところどころにあったすり傷や煤よごれをすすぎ、草をはみ始めたのを確認して、彼は隣国の王女を休ませている部屋へとむかった。


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