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宰相は死にたがる姫君を愛する  作者: 雪形駒次郎
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「宰相殿がヴォロス高原の事故調査にあたっていることに不満がでている事はご存知か。」

「知っております。」

 国境に一番近いヴォロス高原は東部軍の管轄である。今回は出火という不測の事態があったため関わってしまったが、本来は東部軍に通報し、そのまま王都に出発すべきだったのだ。

 しかし第四放牧地の封鎖を主に行ったのはスファル旗下の近衛隊で、初期消火がおわったあとも二つ先のシュロム渓谷で停車し、調査に部下を送っている。

「…実はセレナからきた女が一人生き残っておりまして、」

「報告はうけていますよ。重要参考人を捕らえる際に手こずったそうですね。」

 表向きは近衛兵の落ち度ということでスファルが収めてくれている。

「類焼しなかったのは公爵殿らの迅速な対応のおかげでしょう。宰相殿直々に地鎮めを行って下さったことも感謝します。ですがこれ以上は越権行為になり、看過できません。」

「引継ぎに手間取り申し訳ございません。女は無事にとらえて王都の軍部省本部に移送しました。」

 目を伏せ、軽く腰を折って謝意を示す。

 ルシアスも、後先考えずにアリシアを保護したわけではない。

 私兵として抱える諜報部隊にいる者で、水の民の女を嫁にもらった男がいた。黒い髪と茶色の目をしており、アリシアが帝国の間者の目を逃れるために偽っていた姿と容姿が似ている。しかも微々たるものではあるが、水の加護もちなのである。ルシアスの実家の侯爵家本邸で家政婦見習いをしていたのだが、片田舎のヴァールブルク領で育ったせいか、女だてらに熊を倒すような娘で、身代わりとなってくれるなら知り合いの商会の護衛となれるように推挙すると言ったら、二つ返事で頷いてくれた。

 セレナの返礼の品は大量の金貨とワインだったので、今回は荷運び人を多く伴っていたと聞いている。そのうちの一人という事にして、何も見ていないし知らないと答えるよう、言い含めてある。手荒な詰問がされぬようスファルの配下がこっそり様子をみてくれるというし、彼女も肝が据わっているほうなのであまり心配はしていない。被害者としてすぐに釈放されるだろう。


「引き継ぎましょう。…おや、目が覚めたようだ。」

 寝台に目をやれば、アリシアが目をあけていた。

 状況がよく分かっていないのだろう。

「だいじょうぶか、『アーシャ』」

 アリシアと目をあわせ、注意をうながすように名をよぶ。

 ぼんやりとした表情をしていた彼女が、瞠目し、ふらつく体で懸命に起きあがった。

「…すみません。こんなに長い距離を一人で竜にのったのは、はじめてで。ご迷惑をおかけしました。」

「君がいないと色々不便なんだ。頼りにしているよ。」



「...宰相殿も随分と酷な事をする。双子岩から高原まで往復するのは辛いでしょうに。ルシアス殿、私もこれから王都にもどりますので、途中まで送ります。お嬢さんは私が運びましょう。」

 アリシアの姿をじっと見つめ、長官が言った。

 わざわざ誘いを断って波風をたてることもなかろう、とルシアスが頷こうとした時だ。

 アリシアが深くうつむいたまま、きゅっとルシアスの衣の裾をつかんだ。

「宰相様と一緒がいい、です。」

 あまり自己主張しないタイプだと思っていたので、かなり驚いた。

そのやりとりを見ていたワーステルが、ふっ、と笑う。

「可愛らしいお嬢さんですな。……昼餉をおもちしましょう。」

 長官がくるりと踵を返す。

「ありがとうございます。」

 その言葉に片手をあげてこたえ、ワーステルは長い黒髪をなびかせて天幕をでていった。


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