表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宰相は死にたがる姫君を愛する  作者: 雪形駒次郎
18/61

15

 何度か瞬きをくり返す。ほぼ中天にある太陽が、その空間を明るく照らしていた。

出入り口の周囲はひらけているが、目視できる範囲まで熱帯雨林がせまっている。

大気はしっとりと水けをふくみ生暖かく、すこし息苦しい。すぐ目の前に石造りの東屋がひとつ。丸い小さなテーブルの上に、竪琴が一つおかれている。

「ここから先は龍王の居所。 我々風の民も、立ち入りは、禁じられている。ここで竪琴をならし、龍王陛下にいらしていただくのだが……もう、いらっしゃっているな。」

 ルシアスの視線につられるようにやや離れた所にある岩に目をやる。

「っ」

 変わった形のその岩が、突如、むくり、とたちあがった。


「…宰相よ。待ちかねたぞ。王都で反乱とな。大国の侵略を必ずや止めると誓ったにも関わらず、この失態。それなりの覚悟は、してきたのだろうな?」

 大鐘をうちならしたような声が大気をゆらす。

 ぐぅうっと小山のようにのびあがったのは、漆黒の鱗と大きな翼をもつ一頭の翼竜だった。

立ちすくむ彼女の一歩前にでたルシアスが、ゆっくりと片膝をついた。

「申し訳ございません、龍王陛下。この地に火の民の侵入をゆるしてしまいました」

 炯々と輝く血のような二つの赤い目玉が、彼らを射る。

「海上の大気が重い。ひどいにおいだ。我らは混沌の時代に生を受け、永き時を生きるモノ。原初の闇と光から生まれた古き龍にとっては、人の子の憎悪や恐怖もまた、極上の贄。だがあまりにも多ければ我ら龍族も病む。脆弱な小さき友たちは言うに及ばず。さて。この落とし前、どうつける」

 ルシアスは頭を深くたれ、請願した。

「ひきつづき事態の収拾に全力を尽くしますゆえ、なにとぞ、お力添えを」

「ひきつづき?」

 一拍おいて大きく息をすった龍王が、赤銅色の鬣をぶわっとひろげ咆哮した。

「笑止!人の分際で思いあがるでないぞ。手をかしたとて、もうお前の手にはおえまい!」

 さらに何かを言いかけたところで、龍王が、ぴたりと身動きを止めた。すん、と鼻を鳴らす。

「…美味そうな、においだ…」

 真っ黒な体をゆすり、龍王がゆっくりと近づいてくる。

見つめるのは、ルシアスの陰で縮こまるアリシア。

 値踏みするかのように爬虫類独特の細長い瞳孔が、きゅっと細くなった。

「我ら龍族とは比べるべくもないが……水の力をもっておるな。お前、気がきくではないか。人柱を捧げるとはなかなかだ。身に凝る恨みの気を祓うにちょうど良い。」

 ルシアスは眉をよせ、一歩前に出る。

「…お戯れを。責を負うべきは、私と兄です。この娘は関係ございません」

 龍王の闇色のたてがみが、ざわり、と不穏にゆらぐ。

「…ほう?深手を負ったその身で、ずいぶんと威勢の良いことを言ってくれるものだ。」

龍王を臆することなく見あげ、ルシアスは言った。

「すべては、腹をきめなかった私の失態。『最後の審判』の機会を、どうか私にもお与えください」

「相討ち覚悟で、いま一度戦う道を選ぶか。……まあ、よかろう。」


龍王が顎をしゃくり、背後の岩陰を示す。

「来たようだぞ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ