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「ローイエンの奥宮だ。」
そこは、巨人が一刀彫でつくりあげたような粗削りで荘重な空間だった。その佇まいは、離宮というよりは、神殿にちかい。アーチ状の正面入り口とそれをささえる列柱が左右に広がり、谷間を塞いでいる。奥宮の側面は、天然の岸壁と一体化していた。
「門楼は、『登竜門』とよばれている。」
「…白い崖。珍しいですね」
「ああ。花崗岩でできているんだ。浸食につよい岩だけが、巨大な切り株上に残ったのさ」
太陽に輝く真白な姿に、圧倒される。
正面入り口をぬける。天井はない。大理石の石畳が、日の光のなかで輝いていた。
しばらく進むと、楕円形のひろい空間に出た。
「大広間。次期王の候補者を決める御前試合や、新王の即位祭など重要な国事が行われる。」
竜で行けるのは、ここまでだ。ゆっくり降りて。
うながされ、腹部を鞍上にするようにしながら鐙、そして床へと足を下ろしていく。
これまた槍を器用に使いながらルシアスが先に立って歩きだした。
「大広間の奥が、龍王の間。どうしても人の手には負えない案件に関して、龍王さまから助言や勅許を賜る場だ」
今度は徒歩で、さらに奥へ進む。左右の壁は石柱からごつごつとした白い岸壁にかわっていた。
歩を進めるたび、頭上に覆いかぶさる岩陰で周囲は暗くなっていく。
「苔ですべりやすくなっている。足元に気をつけなさい」
長い年月で浸食された岩のすき間を利用しているのだという。
大人一人がようやっとすすめるぐらいの道を、慎重に奥へ奥へとすすんでいく。
「ここをぬけたら、龍王の御前だ。私は宰相として責を負わねばならない。そして王位へ立候補し、龍王陛下の審判をうけようと思う。風の宰としての最後の姿、見届けてほしい」
風の国の王座は世襲制ではなく競い合いによって決まると聞いている。
「お怪我が、まだ…」
「右足ひとつきかなくとも、私には槍をかまえられる両腕がある。」
もちろん上手く身がかわせなければ致命傷を負いかねない。
それでも戦わねばならないのだと、静かな金の瞳が語っている。
胸がつまる。
アリシアは、こくり、とうなずいた。
「…ご武運を、お祈りしております」
ゆくてから、明るい昼の光がさしてくる。
「出入り口は風がつよい。あおられないようにしなさい。」
「はい。」
ルシアスとアリシアは、隘路をぬけ、ついに龍王の間へと足を踏み入れたのだった。




