初めてのクラン
俺は馳真也。
しがないニートである。
趣味はゲーム。それもFPSしかしない。
ゲーム業界は、VRゲーム端末、ヴァーチャルギア発売と共に大きく変容した。
一台20万円の端末が飛ぶように売れる。
空前のヴァーチャルゲームブームの到来である。
人気タイトルはRPG主体だが、俺好みの現代戦FPSも出ていた。
名前をGUNDOGONLINE。
通称GDOだ。
俺はこの波に乗るために慣れないバイトを始めた。
パチンコ屋の店員だ。
そして何も考えず初任給をヴァーチャルギアにつぎ込んだ。
「これがヴァーチャルギアか」
俺はゲーム機としては割とデカい箱を前に、感慨にふけっていた。
もちろんガンドックオンラインもセットで買ってある。
ウキウキ気分で箱を開け、ヘッドギアタイプの本隊を取り出す。
説明書をひとしきり読み、コントローラーとなる神経信号受信機チョーカーを首に、そしてヘッドギアを被って電源を入れた。
「ウウウウグンダックス! オンライン!!」
轟音と共にタイトル画面が出て、俺は胸を躍らせた。
チュートリアルをひとしきりやる。
今まではマウス&キーボードだったが、今度はそうではない。
重さこそ再現されてないが、手に銃を持ち、現実の銃のようにサイトを覗いて撃つシステムだ。
初めてのヴァーチャル操作に慣れるのに三日かかった。
俺はチュートリアルを終え、キャラクター作成の画面に。
名前は適当にメイトリクスと名付けた。
初期武器のM4A1とグレネード、コルトガバメントを受け取ると、俺は初心者サーバーに向かった。
数ゲームやったがやはりみな操作に慣れず、FPS自体の初心者も多いのか、俺は新兵をひたすら狩っていた。
すると同じチームにいた兵士の一人が声をかけて来た。
「初心者じゃないね、君。俺は氷室。クランはもう入ったのかい?」
FPSに詳しくない人に説明するとクランというのはいわば部隊だ。
FPSの大会は主にクラン同士で戦って勝敗を決める。
「クランは決めてないんだ。しばらくは野良でとも思っているけど」
野良というのはクランに入らずソロで遊ぶことだ。
「俺はクランマスターなんだ。これはサブキャラで、新兵鯖で勧誘をしてる。うちはメンバーも多いし、定期的に内戦もやってるよ? どう?」
鯖というのはサーバーの略で、内戦というのはクラン内で2チームに分かれて遊ぶことだ。
「どうしようかな……」
「なにをするにもまずは仲間さ。新兵狩っても上達はしないよ」
「俺はガチ勢じゃないんだ」
「ならなおさらウチに来なよ。ウチは緩いクランだから」
ピロン、という音と共に視界の端に文字が出る。
『クラン、BOYからの招待を受けました』
まあ、クランの雰囲気を見て合わないようなら抜ければいい。そう思って俺はそのメッセージの了解のボタンを押した。