43話 アルマナ防衛戦、大勢の決着
主人公不在でここまで物語が進んでしまいました。
「……ほう、こちら側の損害が8割を超えたか。これでは侵攻をこれ以上は継続させることが出来ん……か。人間も存外やるものだな」
監視用の魔族から戦線の報告を聞いているのは、この魔物の群勢を率いている魔族、コピオス。
外見は岩巨人を超える巨体に、全身を覆う甲冑のような外殻。そして身長と同じ位の大きさの両斧槍を構えた白髪白髭の眼光鋭き初老の男性の姿をしていた。
「……太陽の魔剣か、何とも珍しい神の遺産が現れたものだ。それに加え、目標への兵力集中に別働隊によるラージェの撃破……人間どもがこうも兵力を巧みに使い熟すとは思わなかったぞ」
本来ならば徒党を組まない魔物や魔獣に集団行動を強いるのに尽力していたのが、その瞳で凝視した対象を意のままに操る「魅了の魔眼」を持った淫魔族のラージェだった。
だからこそラージェは前線には出さず、本隊からも距離を離した場所に待機してもらっていたのだが。
別の監視用の魔族から、人間どもの別働隊によってラージェが討ち取られたという報告を受けたのがつい今し方だった。
術者が消えてしまい、魅了の魔眼の効果が解除されたことで組織的な行動が取れなくなり。人間側の必死の抵抗もあり、魔物や魔獣が戦線を勝手に離脱していくのに歯止めが効かない状況なのだ。
「……だが、魔族にもこの計画を10年以上前から進めていた意地というモノがある。たとえこの砂漠一帯を魔族の領地にすることは叶わぬまでも、この国は落としていくぞ」
コピオスが座するのは魔獣に引かせた豪勢な椅子、その椅子から立ち上がって脇に構えた両斧槍を握り締める。
それを牛頭の魔族が必死に止めようとする。
「我も撃って出よう。太陽の魔剣の持ち主ならば良い勝負が出来るやもしれん」
「お待ち下さい!あれしきの人間ごとき、コピオス様が出るまでもございません!」
「……ふむ。それで?」
「マフリート、ラージェ両名は倒されましたが、まだ我ら二名の高位魔族が顕在でございます!まずは我らに……我らに挽回の機会をお与え下さいっ!」
コピオスの足元に跪き、頭を下げる牛頭の魔族。
コピオスはその髭を撫でながら少し思案に耽りながら、おもむろに持っていた両斧槍の切っ先を牛頭の魔族に向けて。
「いいだろう。だがこれが最後の機会だ」
……そんなやりとりがあった頃。
央都の手前で繰り広げられていたアルマナを防衛する人間と侵攻中の魔族との戦況はというと。
どうやらようやく魔物や魔獣の増援が切れ、シルバニアからの冒険者の増援や白薔薇姫の参戦後は、一度は後方に退がった兵士たちや自力で退却できなかった負傷兵らもユメリアら救護部隊の治療で既に戦線に復帰してきていた。
まだ強力な魔獣や魔物が散発的な抵抗を続けてはいるとは言え、もはや大勢は決したと言えよう。
「ハッ!魔族が率いる軍とはこの程度なんですの?この程度の敵に苦戦する砂漠の兵といい、まったくと言っていい程手応えがありませんわね!……これなら幾分あの女のほうが……」
王が指揮していた最前線を代わりに剣を振るい、王と近衛騎士らの撤退に尽力した白薔薇姫は、神聖魔法の白い光に包まれながら敵である魔物らどころか味方側の砂漠の兵にすら悪態を吐くのだった。
ある意味ではとんでもない公爵である。
「人間ごときが小鬼や食人鬼、焔の猟犬や小悪魔を平らげた程度で調子に乗るなあああ!我が名はアロガス!コピオス将軍配下の牛頭族である!」
いつの間にかアロガスの前には、啖呵を切った白薔薇姫の隣に火の暫定部族長ハティ、そしてシルバニア冒険者組合幹部のメノアの二人に加え、一度は退いた太陽王ソルダも復帰し肩を並べていた。
魔族側で残った大物はあと僅か。
今アロガスと名乗った牛の頭を持つ岩巨人以上の巨体の魔物と。
その背後に待ち構えているであろう、姿は見えずとも強大な魔力だけはこの戦場にいる誰もが感じているこの軍勢を指揮するコピオスという存在。
その他、人型の魔族が数体というところだ。
だからこそ、だ。
まだ魔族側の親玉が姿を見せていないのに、怯んで引き退るわけにはいかない。
────目配せで四人が同時に動く。
「光に散りなさいッ!閃光斬りですわッ!」
「燃え尽きろっ!火炎斬えッッ!」
「喰らいな!爆斧・稲妻落としィィ!」
「余の魔剣の力を受けよ!太陽の一閃」
無数の光の線がアロガスの身体を走りその剣閃から血が薔薇のように噴き上がり、怯んだ隙を突いたハティの剣で斬られた傷口が燃え上がり膝を着くアロガス。
その頭上から斧ごと飛び上がっていたメノアの雷撃のごとき一撃が頭の角を叩き折ると、ソルダの魔剣から放たれた高熱の閃光がアロガスの厚い胸板を貫通していく。
「ぐはああああ!だ……だがっ、これしきの傷で勝ったと思うには早すぎるわあっっ!」
見ればベルローゼが無数に斬りつけた傷口が次から次へと再生していた。ハティの焼けた傷口すら修復されかけていたのだ。
だが、攻撃はそれで終わりではなかった。城壁で詠唱に入っていた王妃と宮廷魔術師長が同時に地魔法の上級魔法と、月魔法の超級魔法を解き放つ。
「────墜ちる巨岩」
「────開く月界の門」
上空から人間大の岩が直撃し倒れ伏すアロガス。
倒された地面に魔法の図形が浮かび上がり、倒れた魔族の残り僅かな生命力を吸い上げていったのか牛頭の魔族の肉体が急速に衰え萎んでいった。
気がつけば人型の魔族らも冒険者らと部族の戦士たち、兵士に騎士の連合軍によって退けられていた。
残すはただ一体、コピオスという魔族のみだ。
皆さんが興味を持ってくれたおかげで総合PVが1万を突破しました!
これが凄いことなのか、全然たいしたことがないのかは相対的にはわかりませんが。自分の作品を1万回読んでもらったと思うと凄いと思います。
読んでくれた皆さんへ。ありがとうございます。




