42話 アルマナ防衛戦、雷鳴と白薔薇
「この連中……どこまで湧いてきやがるんだっ」
「おいっ⁉︎……畜生め、もう腕が上がらねぇ……」
あれからどの位の時間が経ったのだろうか。
皆の疲労が顔に色濃く現れ、負傷により戦線から脱落していく数も目立ってきている。
俺たちの周囲には倒した魔物や魔獣の死骸が転がって積み重なっていたが、倒しても倒しても奥から魔物と魔獣の増援が現れる。最初は増援の回数を数えていたハティも、5回目の増援から先は数えるのが億劫になり止めてしまった。
「おいラジール、まだ戦えるか?……ラジール?」
弓に持ち替える際に護衛を買って出た副族長のラジールに何度か声をかけるが、いずれも返事は返ってこなかった。
先陣を駆って出た騎士らも、今戦場で何とか踏ん張っているのは王率いる近衛騎士隊だけだ。あまりに大量の負傷兵を後ろに退がらせたこともあり、ユメリアたち治癒術師も戦場に残っている様子はない。
「このままじゃ戦線が保たないぞ……」
そう呟きながら、もう何十体目の魔獣に矢を放ったように着地している飛竜目掛けて弓を射ろうとすると、矢を番ようとした右手が空を切る……矢筒にはもう矢が残っていなかったのだ。
「くそおっ!こんな時に矢が切れるかよッッ!」
殺意を向けられた飛竜がコチラを睨み、翼を羽ばたかせて空へ逃げようとする。
この状況で空へ飛ばれたら万事休すだ、だが今から剣に持ち替え斬り掛かっても間に合う間合いではない。
だが、退却する選択肢はない……やるしかない!
────と、覚悟を決めた瞬間。
背後から人影が俺を飛び越えていき。
目の前の飛竜の首が飛んだ。
「……アズ?」
「はっはは、アズリアじゃなくて悪かったね。それにしても……飛竜ごときにこんな苦戦してるなんて、砂漠の男たちも存外だらしないねえ」
最初はアズかと思った人影は、よく見れば全然違う初老の女戦士で、振るっていたのはアズが持っている大剣ではなく大きな両刃斧だった。
だが、纏う雰囲気は何処となくアズに似ていた。
「おっと、名乗るのが遅れたねえ。私はメノア、シルバニア王国冒険者組合の幹部だよ」
すると、いつの間にか央都に入らずに戦場近くに停めてあった十数台の荷馬車から百人近くの冒険者らしき連中が飛び出してきて、魔物の群れに武器を構えて突撃したり、後衛から攻撃魔法を撃ち込んでいく。
「あの連中は私らに一旦任せて、倒れてる負傷者を引っ張って退がるんだよ!私らもあまり長くは戦線を維持出来ないからね!」
メノアの言葉に従いまだ身体の動くハティは、同じく身体の動く部族の人間を引き連れ、負傷者を背負い央都の城壁まで退却していく。
必死に戦っていた時には気付かなかったが、まともに立っていた部族の戦闘要員は、最初の2割も残っていなかった。
一方で魔物との最前線では────
「王よ!ここは我らに任せて一度央都にお下がり下さい!このまま最前線に立ち続けては消耗が激しすぎます……」
「何を言うか……ここで余が退けばお前たちを見殺しにすることになる事くらいは理解出来るぞ。太陽に誓った以上、余は退くわけにはいかんのだ!」
太陽王に率いられた近衛騎士隊も、さすがに魔物と魔獣が混合した軍勢の第十二陣を撃破した頃には、部隊の損害率がまともに戦線を維持出来ない程に消耗しきっていた。
王が魔物らに討ち取られるような事態は是が非でも避けねばならない。だが、太陽の魔剣を持つ太陽王が部隊の最大戦力なのもまた事実なのだ。
王なくして戦線の維持はもはや不可能だった。
「お────っほっほっほっほっほ!……無様!まったく無様ですコトよ、太陽王!この程度の敵ごときに背中を向けて退こうとするなど愚の骨頂ですわッッ!」
場違いすぎる高笑いとともに騎士らの背後から砂漠を一直線に駆けてくるのは、白馬に乗った金髪に白い薔薇の紋章が刻まれたら聖騎士の鎧を纏った女騎士の姿だった。
「いいですか魔物どもよ!伝統と歴史ある北の大国ドライゼルの三大公爵が一人、白薔薇のエーデワルト公爵家当主、ベルローゼ・デア・エーデワルトとは……私のコトですわ!お──っほっほっほ!」
馬の鞍の上に立ち上がり、突然名乗りと高笑いの入り混じった演説を始める白薔薇姫。
もちろん空気を読めない、いや読まない石化鶏がベルローゼに名乗りの途中に襲い掛かっていくが。
「……ふぅ。やはり魔物とは風情も何もない下等な連中なのですわね。
神よ、我に仇為す者に鉄槌を──白銀の腕」
力ある言葉をボソリと紡ぐと彼女の身体が白く輝き、一瞬にして腰の細剣を抜き放ったかと思うと。
演説途中で襲い掛かってきた魔獣の身体が幾つかに分断されてバラバラになり地面に落ちていく。
「……帝国の刑法では不敬罪は即、死刑ですわ」
ポイントが欲しいというより、作品を読んでくれているという反応が欲しいです。




