40話 アルマナ防衛戦、その火蓋が切られる
「────聞けッ!我が国の民よッッ‼︎」
城門から立派な体型の軍馬に跨った太陽王ソルダの声が、これより戦場となるであろう城門前に布陣している全員に聞こえてくる。
それは声を拡大する魔法などではなかった。その大声に恐慌を起こしかけていた宮廷魔術師らが注目したことで一旦は部隊の士気が瓦解する最悪の事態は免れた。
「今この央都アルマナに魔物の大群が攻めてきている。信頼出来る情報によれば、その数およそ5千!……対する我ら防衛のため集った兵は2千にも満たない……数的な不利は否め無いだろう」
数の不利をあらためて王に言われ、兵士たちは皆一様に不安の表情で曇り始める。
「だがッ!……集まってくれた兵士たちはこの国の民選りすぐりの精鋭たちであり、央都とその民を守護する最後の砦である!」
その言葉を聞いた兵士や騎士、そして先程まで恐慌しかけていた魔術師らも王の演説に呼応するように歓声と太陽王の名を連呼していた。
「今、余は余が冠する「太陽王」の名に誓い、生命を賭けてでもこの国と央都、そしてこの国に住まう民の生命と生活を余が守り抜いてみせよう!」
王は腰に挿しているいつもの剣ではなく、仰々しい黄金の鞘から黄金の剣を抜き放つとそのまま天に向けて翳し。
煌く黄金の光が徐々にその光量を増していく。
「刮目せよ‼︎────コレが人が神より授かりし12の魔剣の一振り、太陽の魔剣クラウソナス!そして……余が見せる希望の煌めきだ!」
太陽の魔剣が秘めた炎と熱、その魔力を宿した閃光が剣から魔物らの大群へと解き放たれると、光をマトモに浴びた魔物の身体が炎に包まれていき、やがて黒く焼け焦げ崩れていく。
その閃光の一撃によって、魔物らの第一陣はほぼ壊滅していた。
そして。
王が放った閃光の一撃を合図に戦場は魔物と人間の雄叫びが響き渡り、互いに隣接するために動き出し始めた。
「……月、天の上にありて我らを見守るモノなり。その魔を秘めたる煌きの三欠片を今こそ我の手に授けたまへ」
壊滅した第一陣の背後から次なる魔物の大群が顔を出してくるが、城壁の上で詠唱していた宮廷魔術師らと王妃の大魔法が前線で味方が魔物に隣接する前に放たれていく。
「────三日月煌く光刃‼︎」
王妃の月魔法が完成すると空が突然夜が来たかのように暗くなり、三日月の形をした光の刃が空から降り注いでいき魔物を切り裂いた上に、その刃で致命傷を避けられても傷口から凍りついていきやがては死に至る。
「────怒れる大地の墓標‼︎」
『火炎爆破!』
『嵐刃!』
宮廷魔術師長の魔法で地面から岩の柱が何本も隆起し、魔物を吹き飛ばし柱に押し潰されていき。
またある魔物は魔術師らの起こした炎の渦に焼かれ、巻き起こる竜巻でズタズタにされたりしていた。
魔物らの悲鳴と断末魔が戦場に響き渡る。
「近衛騎士部隊は前進せよ!魔法で怯んでいる魔物の連中を一気に殲滅する!」
「冒険者と兵士の混合部隊は騎士部隊が討ち漏らした魔物を確実に仕留めていけ!」
「いいかッ!砂漠の兵の強さを魔物らに存分に見せつけてやれ!」
魔物らの第二、第三陣は城壁からの大魔法によって戦線を維持出来なくなってしまっていた。
そこへ間髪入れずに、騎士部隊と兵士、冒険者の部隊が魔物らを少しでも央都から離すために前進、前進していき。統率が取れていない上に魔法で傷ついた魔物らは士気の高い騎士たちによって次々と討ちとられていく。
魔物らの第四陣が出てくる前に好機とばかりに、騎士部隊はジリジリと戦線を押し上げていく。
「……な、何だ……あのデカい魔獣は……?」
戦況はアル・ラブーン軍の優勢で進んでいた。
「もしかしたら勝てる」と、皆の心の中に僅かながらの油断が生まれたその時。
人型の魔族や比較的小型の魔物の群れで構成されていた第三陣の背後から、大型の魔獣で構成された第四陣が姿を現したのだった。
「三日月煌く光刃」
命中すると凍結する三日月の形の光の刃を広範囲に無数に召喚する月属性の超級魔法。
太陽が炎と生命の象徴ならば、月は氷と死の象徴とされ、人間の世界と死の世界を繋ぐ扉とされている。
「怒れる大地の墓標」
地面より二枚一組の複数の大きな岩の壁を隆起させて、二枚の壁で対象を挟み込み押し潰す地属性の超級魔法。