37話 アズリア、亡者を天に還す
遊撃隊パート、結構話を引っ張りすぎた感はありますが多分あと1話ほどお付き合い下さい。
出来れば、二章は50話いくまでに完結させたい……
アズリアとノルディア、そして騎士たちに女魔族の魅了の魔眼が効力を及ぼさなかったのには、二人それぞれ違う理由があったのだ。
ノルディアの「憤怒憑き」はその名の通り、怒りの感情で心を満たした状態である。当然ながら他の感情が入り込む隙間はない。
だから「魔族に魅了される」という余計な感情を彼女の心は受け入れなかったのだ。
そしてアズリアが魅了の魔力に抵抗出来た理由。
それは大樹の精霊と水の精霊の加護に他ならない。
アズリア自身は知らないだろうが、まさか大樹の精霊が彼女とシルバニア王国を天秤に掛けて、彼女が選ばれるくらいの寵愛を受けているとは露ほども思っていないだろう。
水の精霊にしても、6年前の火の魔獣の召喚が、まさか精霊がこの地から消え去るかどうかの瀬戸際だったことを自覚してはいなかった。
だから彼女は精霊の恩恵を一身に浴びているのは至極当然だった。
しかもその恩恵はアズリア自身だけでなく、その祝福を受けた騎士たちにも一時的な精霊の恩恵を与えていたのだ。
「くッ……こうなったら、お前たち!な、何としても私を守りなさいッ!お前たち駒と違って私に代わりはいないんだから……ッ!」
女魔族は自身の魔力が明確なる敵に効果を及ぼさないことを悟り、その魅了の魔力を味方である食人鬼や岩巨人の魔物らに対して放ち、自らを命に換えても護衛する忠実なる楯に変えていった。
だが、あの女戦士二人に向かっていった魔物らは二人が剣を振るうたびにあっけなく蹴散らされ、気がつけば私の周囲には、もう楯となるべき魔物は存在していなかった。
「は、はぁあ?さ、三〇〇はいた筈じゃない?な、何が起きてるっていうの……?は、ひ、ひひひ、そ、そうだわ……これは夢よ、夢だわ。だって、アイツらは人間よ?人間がそんな強いだなんて……」
……立ち塞がる魔物は全て倒してやった。
アタシは今全身に魔物の返り血を浴びて、漆黒のクロイツ鋼製の部分鎧や幅広剣は真っ赤に染まっていた。
それは隣で一緒に戦っていたノルディアも同じく、返り血を身体いっぱいに浴びていたが、
「ふふ、随分と酷い格好ですねアズリア様」
「はっ、そういうアンタだって同じような格好してんじゃないのさ」
捉えた女魔族を守る魔物は最早なく。いよいよその女魔族と隣の骸骨二体にアタシ達の剣が届くというその状況になり、心に余裕が生まれたのか。
互いに顔を見合わせながら、アタシと彼女は無駄口を叩き合っていた。
「ひ……ひひひ、これは夢。夢よ、だからアイツらに斬られたからって、この悪い夢から醒めれば……ひひ」
何故か女魔族がぶつぶつと小さな声を漏らしながら頭を抱えていて、斬ろうと思えばすぐに斬りかかれるくらい隙だらけなのだが。
横にいる黄色に光る骸骨が、多分に主人であろう女魔族を守るために血の涙を流しながら両手を広げ襲い掛かってくる。
「……コロシ……テクレ……」
「……モウイヤ……シニタイ……」
その骸骨の口から漏れる「人間としての言葉」を耳にしてしまった以上は、同じ人間としてその願いを叶えてやらないといけないし、叶えてやりたい。
だからアタシは戦いの最中に負った傷口から血を拭い、その血を大剣の刀身に描いて力ある魔術文字を解き放つ!
「我、勇気と共にあり。その手に炎を──ken!」
まるで今のアタシの「怒り」を具現化したように大剣の刀身が真っ赤に輝き、剣に付着した魔物の血も剣から発せられる高熱で焼け焦げて剥がれていった。
襲い来る意思はあるものの、攻撃を避けたり防御したりする気配は感じられない骸骨たちは、アタシの赤熱化した大剣の一撃を受けると斬り口から炎が上がり。
たちまち骸骨の全身に燃え広がった炎は骨を灰に変えていき、骸骨は黒い灰となり崩れ去っていった。
「……ア……アリガ……ト……ウ……」
「ヨ……ヨウヤ……ク……カエレル……パ……パ……」
炎に包まれ灰になる骸骨の口が動き、そうアタシに呟いて消えていった……そんな気がした。
「アズリア様……きっとあの骸骨は」
「わかってるよ。多分あれは無理やり亡者にされた元は人間だったモノだって」
「魔族……ますます許せません」
ノルディア。それはアタシも同じ気持ちだから。
だからこそ、その報いってヤツはきっちりと目の前の女魔族に支払って貰おうじゃないか。
引越しの影響も、もう少しで落ち着くと思います。
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