32話 アズリア、屋台を手伝う
結局、あの後筆頭騎士を退けたアタシに模擬戦を申し込んでくる兵士や騎士が後を絶たず。王妃様の願いということもあり、申し込まれた全員との模擬戦を終えるのに、実に3日を要した。
面倒くさい連戦に次ぐ連戦の3日間であったが、央都の防衛に携わるだけの腕を持つ精鋭の兵士や騎士らと剣を交えたことで、この国独自の剣術の流れや癖のようなものを肌で感じる事が出来たのは怪我の功名というやつであった。
魔族の侵攻まで、あと5日。
ようやく模擬戦から解放され、アタシは久々に央都でまだ手を付けていない屋台の料理を堪能しようと定番の市場通りを訪れてみた。
あれから魔族の侵攻の情報は、央都の住民や他の都市や集落にも伝令を走らせて可能な限り公開されていた。
なので、市場通りも前回に来た時にあった屋台が今は畳んでいたり、逆に央都に来る傭兵や冒険者を目当てに新しい屋台が開いていたりしていた。
「人が集まる場所は魔族が襲ってくるとわかっていても金儲けの場所かぁ……さすが商売人はたくましいねぇ」
そんな新しい屋台の料理を眺めていると、ふと見覚えのある屋台の女主人の姿に思わず声を上げた。
「あら、アズリアじゃないですか!」
「え?あ、アウロラ?……何で央都に?宿屋や息子さんはどうしたの?」
砂漠の入り口にある宿場町、その名もアウロラの宿屋町の通り、宿屋兼酒場の女将であるアウロラが何故に屋台を出して央都にいるのか。
ちなみにアウロラとは彼女の息子ルカが熱砂病を患い、アタシがその特効薬となる朝露草の滴を採取する依頼を受け、ルカの命を救ったという経緯があった。
そのルカらしき子供が、アウロラの横から顔をひょっこりと覗かせてアタシにぺこりと頭を下げる。
「アズリアお姉さん、ぼくのために薬草を取ってきてくれてありがとうございます。おかげでぼく、こうしてお母さんのお手伝いができてます」
「うんうん、元気になってよかったじゃないか」
うっ……少し目頭が熱くなってきちゃったよ。
宿場町を旅立つ時にはまだ完治してなかったから寝床から出てこられず、結局ルカの顔は見れず終いだっただけに。
「ついこないだ、宿屋町に来たオログが央都で魔族相手にアズリアがまたやらかすつもりだって聞いたからね。私は戦う事は出来ないけど、得意な料理でお腹を満たしてあげる事くらいは出来ると思ってね」
「で、アビーさんに連れてきてもらったんだ、ぼくたち」
と、話し込んでいる間にアウロラの料理を注文する客が引っ切り無しにやってきていた。ルカも子供ながらに料理を手渡したり手伝ってはいたが、到底人手が足りなくなり。待たされた客は他の屋台へと移動していってしまっていた。
並んでいた客同士で列に割り込んだか否かで言い争いが起きていたり、とアウロラの屋台前は大混雑だが、その彼女は料理で手が塞がっているために対処まで手が回らない。
「こりゃ、アタシが手伝ったほうがいいかもね」
「え、ちょ、ちょっとアズリア?」
「ほらアウロラは料理の手を止めない。大丈夫さ、冒険者としてこういった仕事も何度か経験済みだからね」
まずは屋台の前の客をキチンと列に並べる。
割り込んだ連中は実力行使の上、一番最後に並び直すかお帰りいただくかを選択してもらった。
アウロラの料理は絶対に美味い!
それは味わったこのアタシが保証する。だから料理に時間が掛かってもなお並んで貰えるようにパッと思いついたのが、一人前の料理を一口大くらいに切り分けて並んでいる客に味見してもらう案だ。
『うお?美味い!』『ホントだ、こりゃ美味い!』
どうやら味見は好評みたいで、さすがにアウロラの料理の手伝いまでは無理だったが。何とか屋台に集まった客を捌ききったのだった。というのもあまりに好評すぎて食材が先に尽きてしまったのだ。
「いやホント、助かったわアズリア。それにしても……ふーん、そういう格好も新鮮でいいかも」
「アズリアお姉さん、エプロン姿似合ってるよ」
あ。
さすがに今日は模擬戦もないので、もちろん鎧は宿の部屋に置きっ放しにしてある。
なので今のアタシの服装というのが、胸を最低限隠すために長めの布地を巻き付けてあり、下は民族色の強い腰布一枚という露出度のかなり高いものだった。
そこに屋台を手伝う時にルカが持ってきてくれたアウロラの予備のエプロンを着けていたのだ。
こ、この格好……下手に肌を見せてるいつもの服装よか全然恥ずかしいかもしれないね……
徐々に、ではありますが、評価やブクマが増えているのを見ると、アズリアの冒険譚をこれだけの人が見てくれているんだ、と励みになります。




