28話 アズリア、太陽王に謁見する
お嬢に膝をついて謝罪させられ。
魔族に王と謁見の際に同席させる約束をした夜から次の日の夜。
オログは昼間のうちに「アウロラ達にこの事を伝えてくる」と伝言を残して、既に央都を出発していた。
アタシが泊まっている安宿に、宮殿からの使者を名乗る人物がやってきて明日に国王への謁見がある事を伝えられた。
その夜のうちに、魔族から教えられた方法の通りにあらかじめ決めた場所に、明日謁見があると書いた手紙を置いておくことにした。
「……目が冴えて全然眠れないな」
何しろアタシの責任は重大だ。魔族の証言という説得材料が増えたとはいえ、明日の謁見でこの国の命運が決まるといっても過言ではない。
そう思ってしまうと、ベットに寝転がればすぐに寝れるアタシも全然眠気が襲ってこないのだ。
「……いざとなった時には覚悟を決めなきゃね」
結局、色々と考えている間に寝てしまったのだろう、目を醒ました時にはすっかり朝になっていた。
宿で提供される焼き立てのパンで朝食を済ませると、準備を整えてから謁見のために宮殿に向かう。
入り口で、謁見のために持っている幅広の大剣を預けなければいけなかったのだが……受け取った兵士が一人で持とうとし重量に耐えきれず、何とか二人掛かりで持ち運ぶという騒ぎになったのだが。
拝見を待つための部屋に通されると、そこには一足先にエルキーザが到着しアタシを待っていたのは意外だった。
「ふん、一応儂は領主としての顔もあるからな。王とは一、二度顔を合わせている。寧ろ一介の旅の戦士のお前に国王が面会するという事のほうが儂は驚きだがな」
「そりゃアタシの力だけなら無理だったろうけどね、残念ながらアタシには火の部族からの書状を届けた使者、って名目があるんでね」
アタシがハティから書状を貰っていたことを話すと、至極納得した表情を浮かべて、
「火の部族の後ろ盾があったのか……それなら王が会おうというのも腑に落ちたわ。儂も当初はその影響力を無視出来ないからこそ、回りくどい計画であの集落を陥すことを考えたのだしな」
どうやらアタシが思っている以上に、この国における火の部族の位置というのは高いようだ。
一度その込み入った事情を目の前の魔族なりハティなりに聞いてみたいところではあるが。
根の深い事情を聞いてしまうと、気儘な旅人の立場に戻ってこれなくなる可能性もあるので、ここは自重しておく。
「こちらが太陽王との謁見の間です。どうか御無礼のないように」
そう言われ招かれるままに案内人の後を歩いていくと、やがて広々とした部屋に通されアタシは唖然とする。
「……う、わぁぁ……な、何だいこりゃあ……目に入るもの全部が金ピカだぁ……」
その部屋は壁、床、柱、そしてその装飾に至るまで全てが黄金一色で塗り潰され、煌びやかにも程がある、といった具合だった。
呆気に取られ部屋の入り口で棒立ちになっていたアタシの小腹をエルキーザが肘で突っつかれ、その感覚で正気に戻ってきた。
「どうやら驚いてくれたようで何よりだ。他国の人間を招いた時にそうやって驚いてもらえるのが一番嬉しくもあり誇りに思う瞬間でもある。余がアル・ラブーン連邦の国王ソルダだ。そして隣にいるのが妃のエスティマ」
「エスティマです、どうか気楽になさって頂戴ね。妾も王もあまり堅苦しいのは好きじゃないの」
その部屋の一番奥の玉座に座る人物こそこの国の王、太陽王ソルダであった。
年齢は30代を超えた頃であろうか。
砂漠の民特有の浅黒く焼けたような肌の色に黒髪、彫りの深い顔ながら見事に整った顔立ち。
そして身に纏う数々の黄金の装飾品は、そのいずれもが太陽を模した形状をしていた。
比べるのも失礼過ぎるが、お嬢やランディとは貴族や王族としての器の大きさが違いすぎるように肌で感じる……これが王の持つ威厳というものなのだろうか。
王の隣りに立っている王妃エスティマはというと国王とは真逆の、砂漠の民には珍しく透き通るような一切日に焼けた様子のない白い肌に。墨を溶かしたような見事なツヤの長く黒い髪。
控えめではない肉感と露出の多い服装ながら下品には見えないのは、妃本人が醸し出す気品の賜物なのだろう。
「あ……はいっ、アタシは部族の人間ではありませんが、故あって火の部族からの使者を任されました、アズリアという一介の旅人でございますっ」
謁見前に案内人に教わった簡単な作法にのっとり、王の前に片膝をついて座り自己紹介をするのだが。
……王の威厳に気圧されて声が上擦ってしまう。
威厳というのは、戦場での殺気によく似た感覚でそれに飲まれると身体が重くなり思うように動かせなくなる。
今のアタシの状態はちょうどそれに似ていた。
第二章も30話くらいで終わるものだとプロットを組んでいましたが、書き始めてみると到底30話では終わりそうにありません。
なのでもう少しばかりアズリアと砂漠の国の旅と事件にお付き合い下さい。




