25話 アズリア、帝国の動向を知る
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最初は評価を気にしないつもりで文章をアップしていましたが、評価やブックマークが増えるとやる気やテンションが上がります。
あの場を離れはしたが、街中で剣を抜いてお嬢とやり合ってしまったのだ。さすがに悪目立ちしすぎた。
なので人通りの少ない店の裏側なんかを通ってちょうど騒ぎを起こした反対側の区画にこそこそと移動し、近くの酒場にでも入って住民に紛れてしまえば……
「よう姉ちゃん、相変わらずいい腕してたな。しかしまあ、姉ちゃんも央都に来てるとは思わなかったよ」
先程の騒ぎを知ってる人に声を掛けられた。
いや、この声には聞き覚えがある。
「やっぱりこの声はオログだったかい。あんな事があった後にいきなり声かけられたら警戒して身構えちゃうだろ?」
「ありゃ結構な人が集まってたからな。かたや可憐な白い薔薇、かたや野性味溢れる黒の炎百合……」
「……何だいその吟遊詩人が使いそうな言葉使いは」
ちなみに炎百合とは、炎の精霊力の強いメルーナ砂漠一帯で見ることの出来る、炎のような模様と形をした真っ赤な花を咲かせる植物のことだ。
しかし、アタシを花に喩えるのは何か色々と間違ってる気がするとオログに言ってやりたいが。
「いや、この都市は色々な国の人間がやってくる関係上、ああいった喧嘩なんかは日常的に起きてるからな。みんな慣れたモンだったろ?」
確かに言われてみれば。普通なら見物人の誰かが衛兵を呼びに行って、騒ぎがひと段落着く頃にようやく衛兵が遅めの到着、といった流れなのに。
お嬢があれだけ騒ぎを起こし剣まで抜いたってのに、見物人は誰も悲鳴の一つもあげてなかった気がする。
「で。こういう時に喧嘩でどちらが勝つか、賭けが始まるんだ。もちろん俺は姉ちゃんに賭けて、タンマリと儲けさせてもらったぜ?」
「……さすがは行商人だ、しっかりしてるねぇ」
あの騒ぎの最中に見物人らは驚くどころか、アタシとお嬢をダシにして賭博まで行なっていたそうだ。
いや、逞しすぎて呆れちまうね、ホントに。
「……ま、まあせっかく姉ちゃんと再会出来たし、たっぷり稼がせてもらったお礼代わりだ。ここの支払いはオレが持つから酒でも料理でも好きなだけ頼んでくれよ!」
アタシが何か言いたそうな視線をジーッと向けると、その視線から逃げるように顔を逸らすオログが奢るのを約束してくれたので。
にこやかに笑い返してあげた。
食後の運動を済ませたとはいえ、市場通りで腹が膨れるまで料理を堪能したのだ。アタシは料理はほどほどに注文し、久々に木製のジョッキに注がれた麦酒を一気に飲み干していく。
「……ぷはぁ!おーいっ、麦酒もう一杯だ!」
「相変わらずすげぇ飲みっぷりだな姉ちゃん……その様子だと、姉ちゃんの用事は無事に済んだみたいだな」
「ん?何でそう思ったんだい?」
「いや、そりゃまあ。他に寄る場所があるって言ってたのに央都にいるってコトは、もう用事は終えたってことじゃないのか?」
「ん、いや……ちょっと厄介事が起きてね」
オログには火の部族での水の精霊の事や魔獣の話はせずに、魔族が大挙して攻めてくる、と事情をかいつまんで説明した。
「なるほど……本当に姉ちゃんの周りにいると厄介事だらけで退屈しないな。忙し過ぎて困るくらいだぜ」
「別にアタシが魔族呼んだわけじゃないからな、そこは誤解のないように言っておくけど」
「その様子じゃ、さっき姉ちゃんが負かした相手が誰なのかも理解してないんじゃないのか?」
「……帝国の白薔薇公爵サマ、だろ?」
知らないと思って高を括っていたのだろう。
見事にお嬢の素性を知っていたことに口笛を吹いて驚いていた。
「そこまで知ってて喧嘩売ったのか……姉ちゃんは大物なのか命知らずの馬鹿なのか、時々わからなくなってくるよなあ……」
「……オログのその言い方、まるであの公爵サマが何でわざわざ砂漠の国にまで足を運んでるのか知ってるみたいだね」
「みたい、じゃなくて知ってるんだよ。ついこの間、ドライゼル帝国はこの砂漠の北にあるホルハイム王国に宣戦布告した」
「……は⁉︎せ、宣戦布告……って戦争する気かい?」
オログはアタシの問いを肯定する意味で黙って頷き、
「だから今この国にも、ホルハイムから逃げてきた行商人たちが多数いる。その筋から聞いた話だから確実だ」
小競り合い程度の衝突であれば、行商人は寧ろ物資の不足や高騰により稼ぎ時でもある。それ故、行商人たちは互いに回った地域の情報をある程度交換するという暗黙の了解がある。
その連中が逃げ出してきたのなら、ホルハイムが商売にならない危機的状況に陥るだろう、と行商人は判断したのだろう。
「あのエーデワルト公爵は表向きはこの国に、南側からのホルハイムへの挟撃を要請しにきたんだろう」
「で、本当のところは?」
「要請に乗らないなら次はお前達だ、という脅しだろうな」
アタシとオログは頭を抱えて卓に突っ伏す。
お嬢の要請を受けて軍を北に動かしている間に魔族が侵攻してきたらこの国は壊滅だ。
だが、魔族の侵攻に備えるために援軍要請を断ったなら間違いなく帝国はこの国にも侵攻してくるだろう。
 




