20話 アズリア、魔族の計画を知る
アタシは水の精霊に確認する。
「なあウンディーネ、あの魔族の心は読めた?」
「人間と違って魔族の心は読みにくいのよ〜……でも今回のアズちゃんの質問に関してはバッチリよ〜随分読みやすかったわ〜あの魔族は」
以前に何回か水の精霊に「考えている事を読まれる」ということがあり、その本人に確認すると実際に「頭の中で考えていることがわかる」のだという。
もちろん絶対、というわけではないらしい。
能力を知った上で「読ませまい」と抵抗されるとなかなか思考を読めない、というのは本人談。
また、思考を読めるとはいえ心の内側全部を覗けるような精度ではなく、あくまでその時一番頭に思い描いている事を大体読める、程度のものらしい。
それでも心の中まで嘘はつけない……そういった意味では十分に凄い能力なので、今回は水の精霊にしっかり協力してもらった。
「結論から言うとあの魔族の話は全部嘘よ〜。ホントのところはそのコピオスという魔族が率いる魔物と魔獣の軍勢がこの国を狙ってて、内側から色々とかき回すのがあの魔族の役目だったみたいね〜」
魔獣や魔物とは、この世界の生き物ながら魔族に寄ってしまった生き物や、そもそも魔族の世界に存在していた生き物の総称である。
そのためなのか魔獣や魔物は例外なく人間を敵視しているため、冒険者には魔物退治や魔獣討伐の依頼が舞い込んでくる。
そんなのが大軍で攻めてくるだって?
さすがに聞かされた魔族の本当の計画には驚いたが。
今回ばかりはアタシだけじゃ多分化かされて逃げられるか、勢い余って情報を聞き出せずに殺してしまってたか、だど思ったので。アタシの意図を汲み取り魔族の思考を読んでくれた水の精霊の頭を優しく撫でてあげると、何故か顔を真っ赤にして俯いたままになってしまう。
普段なら「アズちゃん愛してるわ〜」とか言って抱きついてくるのに。
さて、アタシに嘘をついた魔族は今度遭遇った時にその報いはくれてやるとして。
コピオスという魔族が率いる軍勢がこの国にやってくるのは確定しているみたいだし、さすがに軍勢ともなるとアタシ一人じゃ手に負える数では決してないだろう……となると。
「ハティ達に真相を話すのは当然として……魔族の軍勢とやらがどれほどの数なのかわからないけど、備えてもらうためにこの国の王様に進言しに行かないと……さすがにマズい事態になりそうだしねぇ……」
この砂漠に来る前にいたシルバニア王国では、思い上がった貴族のやらかしで知り合いが酷い目にあったり国を出る羽目になったりと、貴族や王族といった連中にあまり良い印象を持っていない。
だが、魔族の軍勢が侵攻してくるとなると事は王族や偉い連中の被害だけには留まらない。結局のところ、一番被害を被るのは普通に暮らしている国民なのだ。
アタシは央都に行くことを決心した。
「まあ……でも、今はとりあえず寝たいんだよねぇ……何かこう、いつもと違って、凄く身体が重くてさぁ……」
空を見上げれば、もうすっかり空の色は白じみ夜が明けてきていた。
そして身体が鉛の鎧を着けた時のように重く感じるのは気のせいではなく、屋敷に潜入している時からずっと右眼の魔術文字の魔力を使い続けていたからだ……いわゆる魔力の枯渇、というやつなのだろう。
「ならアズちゃん〜お姉さんが膝枕してあげますから、ここで身体を休めたらどうかしら〜?」
すると水の精霊はその場に座り込み自分の太腿をポンポンと叩いてから手招きしてくるが、さすがにこんな何もない砂漠のど真ん中で睡魔に身を委ねるほど緩みきってはいない。
しかし……砂漠の王の時といい今回といい、何故か砂漠へ来てからというもの、厄介事が起きる時間が夜遅くになっているのは何故だろう?
おかげで事が解決すると安堵した矢先、今度は決まって睡魔が襲ってくるのだ。
膝枕を拒否されて膨れる水の精霊のを放置して、ズルズルとした足取りで集落に戻っていった。
「約束よっ?到着したらアズちゃんは絶対にお姉さんの膝枕で寝てもらうんだからね?」
あー……わかったわかった。ハティの家に着いたら膝枕でも何でもしてくれ。




