19話 アズリア、魔族と取引する
「わ、儂がし、知っている事があればぜ、全部話す!だ、だから殺さないでくれ!その剣を下ろしてくれ!……た、頼むっ!」
あの後、エルキーザにはトドメを刺さなかったが、かといって集落の外とはいえもしこの魔族が騒ぎを起こしたら誰かが巻き込まれないとも限らない。
意識のないエルキーザを担いでこの場を急いで離れ、集落から十分に距離を置いた場所に一旦落ち着くと。
担いだ魔族を下ろして念のため水の精霊の魔法で後ろ手で拘束し、その頭を大剣の幅広の部分で叩いて意識を戻させる。
意識が戻って状況を飲み込めていなそうな魔族に、あらためて大剣を突きつけた後の反応がそれだった。
「……何だい、魔族だって正体バレてんのに命乞いだなんて。魔族とはいえあの呪術師に化けていた奴は勇ましく闘って散ったってのに」
「あ、アイツは魔法特化型で、わ、儂はず、頭脳労働型だっ!自慢ではないが戦闘力はない!ま、マフリートが勝てない相手に儂が勝てるわけがなかろうっ!」
「へぇ、人間と同じように魔族にも色々いるんだねぇ……それで、その頭脳労働型のアンタは一体何を企んでいたんだい?アンタを殺すかどうかは、それを聞いてからだよ」
「……ぐぅぅ。何故このような事にぃ……計画ではあともう少しでこの集落を支配出来たというのに……」
先程の屋敷でのリュードラを含めた三人の会話を盗み聞きした時の感覚だが。魔獣を召喚した後の集落のことは、生き残ろうが滅ぼうがあまり興味がなさそうだったマフリートと違い、この魔族は火の集落の支援を欲しがったりと人間くさい印象を受けた。
「それで?まず、コピオス様ってのは誰なんだい?もしかしてコイツも魔族とか?」
「んなっ⁉︎な、何故貴様ごときがコピオス様のことを知っているっ!大体コピオス様は西の魔王様に一軍の指揮を任されるほどのお方だっ!貴様ごとき人間が軽々しく口にしてよい名前では…………はっ?」
あれ?もしかしてこの魔族、口が軽い?
なら交渉の仕方次第かもしれないけど……突いたり引いたりしたら、もっと色々喋ってくれるのかもしれないねぇ。
「アズちゃんったら悪い顔してる〜。でも……そんな悪いアズちゃんもお姉さんは好きよ〜」
そんな悪どい顔してたかねぇ?
うん、していたかもしれない。
「なあ、魔族さん。魔獣を召喚ぶ儀式だけどさ、アレってあの呪術師もどきがいなくても出来るモノなのかい?」
「……無理だ。儂やあのリュードラという人間にはそんな知識はないし、触媒だけでは炎の魔獣どころか儂らの世界の炎すら召喚出来んわ」
「助かったねアンタ。これでアンタ一人でも儀式が出来る、なんて答えられてたらここで絶対にお前を殺っておかないといけなかったからねぇ」
今は魔族を尋問中なので表情を崩すことは出来なかったが。
これで集落の危機はなくなった、と聞かされ安堵感と達成感で思わず顔がニヤけそうになってしまった。
「だが儂は結局魔族だ、お前ら人間とは相入れない存在。そんな儂をどうするつも──」
「それじゃアタシが聞きたい事を一つだけ質問する。そいつを答えてくれたらアンタを解放して、これ以上アタシに関わらない。それならどうだい?」
魔族の言葉を遮って奴の前に指を一本立てて見せ、身柄を解放する条件を明確に提示してやった。
それさえ凌げば命は助かると踏んだのか、顎をしきりに触りながら魔族はアタシの提案に返事をする。
「……ふむ、魔族の知恵者であるこの儂に化かし合いを挑もうというのか……よかろう、その申し出を受けてやろう」
「なら早速、コピオス様とやらはお前を使ってこの砂漠の国で何を計画していた?」
アタシは別に進んで魔族と敵対したいわけじゃないのでコピオスという魔族の素性には興味がないし。
コイツらが族長の息子を煽って起きた後継者騒動は、魔獣召喚さえ止めれば後はハティたちが勝手に解決してくれるだろう。
問題なのはそのコピオスが人間に進んで攻撃を仕掛けてくる場合だ。だからアタシが知りたいのはコピオスが人間に対して何を計画しているのか。
「こ……コピオス様は人間との共存を考えていてな、わ、儂の領地にそういった考えを持つ魔族を移住させて、この国と魔族の橋渡しをしよう……という考えなのだ」
「それじゃあ、アンタが今回リュードラの側について色々と支援してたって話も……」
「そ、そうだ!これから人間との協力関係を生み出すためにやったことだ!た、ただ……マフリートはまだそこの水の精霊を邪魔に思っていたみたいだがな」
何度となく声を上擦らせながらも、自分らの立てた計画を逐一細かく説明してくれる魔族。
説明が終わると、約束通り解放してくれと言わんばかりの表情でアタシを見やる。
いいよ。約束通り解放してあげる。
水の精霊に目配せすると、魔族の両手首を後ろ手に拘束していた水の鎖が弾けて消え、自由になったエルキーザはアタシに対して憎々しげな表情を向け、そのまま自らの足で砂漠を走ってどこかへと消えていった。
「……むう〜アズちゃんってホントに悪い娘になっちゃったわあ〜お姉さん哀しいっ。よよよ〜」
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