8話 アズリア、女将の料理に舌鼓を打つ
「今日の主菜は時間がかかるから、まずはコレを食べてお腹を満たしておいてね」
そうアウロラと料理を手伝ってる町の女の人がテーブルに運んできたのは、串焼きとサラダだった。
女の人は忙しそうだ、と様子を見てると料理をテーブルまで持ってきて貰ってるのはアタシだけで、男連中の分はカウンターに置かれた料理を自分で運んでいかされていた。しかも酒も。
……うん、頑張れ。男連中。
ちなみに皆が飲んでる酒だけど。王国では麦酒や葡萄酒が定番だったが、砂漠の人間はヤシ酒やキビ酒など酒精の強い酒を好む。
強い酒なので大半の連中は水なんかで薄めて飲んでいるが、中にはコレを薄めず飲んでる連中もいる。
「その串焼きはキョフテ。オログが持ってきてくれた角ウサギとウチで放牧している羊の肉の細かく叩いてから色んな香辛料を混ぜて、丸めて串に刺して焼いたものよ」
「それからこっちのサラダは野菜を千切って、ライムと酢を混ぜたものを上からかけてあるわ」
目の前に置かれたキョフテにライムと酢のサラダ。サラダはともかくキョフテは初めて見る料理だ。前に砂漠に来た時は口にする機会がなかったんだな、とまずは一口。
「……う、美味い!辛いけど……美味いっ!」
串焼き(キョフテ)を一口頬張ると、ジュワッと口の中に直焼きした肉の表面の香ばしさと一緒に肉の汁が溢れ出してくる。その後口にピリピリっと肉に混ざってる香辛料の辛味と後味が脂のしつこさを消してくれる。
気づいた時には目の前に出された串焼きを全部平らげていた。
「じゃあこっちのサラダも……うんうん!酸っぱいけど美味いっ!」
最初ライムと酢を入れたと聞いて、そこまで酸味を重ねる必要あるのかな?と思ったが。食べてみると酸味はそれほど強くなく、ライムの皮の苦味と清涼感で食べるほどに腹を空かせてしまいそうになる。
野菜も色々入ってる。砂漠と言うと、農業が不毛な印象があるが実際は意外と砂漠に住む人は野菜を食べているし、水が湧いていたり土がある場所でしっかり畑を耕し野菜を栽培していたりする。
しかし一つ気になる歯応えの食材をアタシは見つけてしまう。味はそこまで強くないが、ヌチャっと粘るような食感。
「……んん?何だこの野菜……なのかなぁ?」
「砂漠の名産サボテンのお味はどう?砂漠だと食べられるサボテンは野菜扱いなのよ」
「んー、味はともかく……この食感がねぇ……」
「最初口にする人は大概そういう反応するわね。だけど、慣れるとクセになるのよ」
「へぇ〜。それにしても、あのサボテンをこうして食べちゃうなんて砂漠の人は逞しいんだねぇ」
「毒のある種類もあるからサボテン全部が食べられるわけじゃないのよ?」
あらかたテーブルの上の皿が空になった頃に丁度良く次の料理が運ばれてくる。
今度は、丸められた野菜?上に白いソースがかかってるけど。
「これはドルマっていってね、キャベツの葉で叩いた肉や野菜を刻んだものなんかを包んで蒸し煮にしたものよ。羊の乳を発酵させた発酵乳と塩を混ぜたものをソースにしてるの」
早速ドルマを半分に切ると、説明通り中には細かくなった肉と野菜が包まれていた。中身がこぼれないように慎重に口に運ぶ。
「んん〜!キャベツがトロトロで甘ぁい♪」
口に入れた途端に柔らかく煮られたキャベツの葉は溶けていき、中身の細かな具材がほぐれ渾然一体となって混じり合い、口の中から消えた後もキャベツの甘味と具材の旨味が残って楽しませてくれる。
それを発酵乳の酸味がキリッと口の中を締めて、またドルマが食べたくなる。
砂漠の料理は酸味の使い方が絶妙だ。きっと暑さで食欲がなくならないよう工夫されてるんだろう。
「あれ……?この叩いた肉からほのかにいい匂いがするんだけど……」
「ああ、それは薔薇水ね。砂漠ではよく肉の臭み抜きに使われるの」
「……薔薇水って?薔薇の香りがするの?」
「そうよ、ちょっと待っててね…………ほら。これが薔薇水よ」
持ってきてもらった薔薇水とやらは、確かに見た目は水と変わらないが花の香りがする。
これを使って肉の臭み抜きだなんてちょっと贅沢に思えるが、やはりこれも砂漠は暑いので肉が匂いやすい対策なのだと話してくれた。
「女の人はこれでヤシ酒やキビ酒を薄めて飲むこともあるけど……飲んでみる?」
「ああ、お願いするよ」
アウロラの料理を味わう回でしたが。
長くなりそうなので二回に分けて投稿します。
次回は夕方にでも。




