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73話 ユーノら、冒険者を蹴散らす

 それでは。

 娼館を正面突破するため、見張りを殴り飛ばしたユーノとエルザは、というと。

 

 扉が破壊された娼館の入り口から、一気に建物の内部へと突入する。

 娼館は二階建てとなっており、一階部分は落ち着いた雰囲気の酒場と奥に個室が数部屋あり。二階に登る階段が酒場の両脇に配置されていた。


 悲鳴を上げて、酒場の奥の個室へと逃げ込んでいく娼婦や男性客とは逆に、二人の狼藉(ろうぜき)者を迎え撃つための冒険者の数が。

 たったの四人ほどしか出てこなかったのだ。


「……はぁ、おいおい、たったの四人でオレたちが止められるとでも思ってんのかよっ!」

「……んーと。どうしようかエルザちゃん?」


 アズリアに獣人売買の拠点と聞いていたからこそ、護衛の冒険者らが十数人は顔を見せると予想していたのだが。

 あまりの数の少なさに、力に目覚めたばかりのエルザは物足りなさに溜め息を溢し。

 ユーノはといえば、ここからは見えない娼館の上の階をしきりに気にしている様子だった。


「ならユーノ様、ここはオレに任せてユーノ様は一番偉いヤツを探して下さいっ!」


 そのユーノの視線に気付いたエルザは、この場に集まる護衛は自分に任せて欲しい、と精一杯張った胸をドン!と叩く。


 そこでユーノが少し返事を悩んだのは、エルザにこの場を任せることに懸念があったから、では決してない。

 獅子人族(レーヴェ)の族長として、同族を売り物になどした人間への制裁を譲ってもよいか、ということなのだったが。

 

「……うんっ、まかせたよエルザちゃん!」


 同族の獣人族(ビースト)を誘拐されたばかりか、エルザ自身も一度は連中に囚われの身となり、足の腱を切られるほどの酷い目に遭っているのだ。

 ならば、護衛の四人くらいは譲ってもいいと思ったユーノは、階段を数段飛ばしながら二階へと駆け上がって行く。


「待ちやがれっこの小娘え────ぶはああ!」


 自分らを無視して階段を登るユーノを追いかけようと背中を向けた男の一人へ。

 風を纏ったエルザが目にも止まらぬ速度で男との距離を詰め、その勢いのまま首筋へと飛び蹴りを放つと。

 

 蹴りを喰らった男は顔面から建物の壁へと激しく激突し、鼻を強打したのか血を垂らしながらズルズル……とだらしなく床へと崩れ落ちる。


 一撃で同僚が倒されたことで、思わず後退(あとずさ)る護衛の三人を見て。


「敵に背中向けてんじゃねえぞ……ここはユーノ様がオレに任せてくれたんだ、テメェら全員このオレがブチのめしてやるぜっ!」

「────調子に乗ってるな、エルザよお」


 気分が高揚しているからか、連中を挑発する言葉を投げるエルザだったが。

 その三人の背後から現れた、質の良い装備をした明らかに雰囲気の違う中年の男。


 その男の姿を見た途端に顔色を変えるエルザ。

 それは……焦りと不安、そして苛立ちの表情。


「……ひ、久しぶりじゃねえか、ネイルさんよぉ」

「ははっ、強がるんじゃねえエルザ。お前さんが一人前に冒険に出るまで散々世話してやったじゃねえか」

「けっ、アレを『世話』って呼ぶなら、ね」


 実はエルザは、カサンドラやファニーと最初から組んで冒険者として活動していたわけではなかった。

 冒険者に登録したてで駆け出しの頃は、小柄で魔法も(ろく)に使えないエルザを仲間として受け入れてくれる冒険者はいなかった。

 それを良い事に、エルザに「冒険者として一人前に鍛えてやる」と手を差し伸べたのが、何を隠そうこのネイルという男だったが。

 それはあくまで建前で、現実はネイルとその仲間らの使い走りとしていいように扱われていただけだった。


 最後は、魔物に囮として使われ、そのまま放置されてしまうのだったが。

 それがきっかけでカサンドラとファニーにその窮地を救われ、三人組を結成することになったので敢えて記憶に蓋をし、忘れようとしていたのだが。


 そんな憎き男がエルザの目の前に現れたのだ。


「ちょうどよかったよ……あんたがそちら側の人間でさあ」

「ははは、強がりはよせよエルザ。あれからまだ大した時間も経ってないんだ。あれからルビーノ商会の専属冒険者になったオレにテメェが勝てるわけが────な、き、消えた?」


 過去のエルザから判断したのか、長々と自分の自慢話を続けていたネイルだったが。

 油断しきっていた彼の視界から、エルザの姿が消えたことに驚き、慌てて彼女を探すと。


「なあ……誰が、誰に勝てないって?」


 その声は自分の顎の下から聞こえてきたのだ。

 そう。ネイルが豪語してすっかり油断していた隙を突いて、エルザは身体を低くして一気に間合いを縮め、彼の懐深くに踏み込んでいたのだ。

 

 この距離からでは、反撃も防御も不可能だ。

 ネイルが出来ること。それはエルザの信じられないまでの踏み込みの速度に、顔を青ざめさせ恐怖する以外残されていなかったのだ。


「が────は────……っっ⁉︎」


 エルザが真下から跳び上がるように放つ拳が、恐怖に顔を歪めたネイルの顎を直撃し。

 哀れ、ネイルの身体は大きく上へと舞い上がるが、エルザの攻撃はそこでは終わらなかった。


「コレで終わりじゃないよネイルっ!……最後にこいつを喰らいなっっ!」


 一度、背後へと大きく飛び退()くと、落ちてきたネイルの身体へと走り込み、胴体部へ勢いを付けて蹴りを打ち込むと。

 空中に浮いた状態、かつ顎を拳が直撃したことで意識が朦朧としていたネイルは、なす(すべ)もなく蹴りを喰らい。


 身体を真横へ吹き飛ばされ壁に激突してしまい、最初の護衛同様にズルズル……と床へと崩れ落ちる。


 最早、エルザはユーノから学んだ攻撃魔法の魔力を全身に均等に浸透させる「魔戦態勢(バトルモーディング)」を、初級魔法(スタンダード)の「風の刃(エアスラスト)」に限定するならば、完全に使いこなせていた。

 いわば「風刃戦態(モード・ブラスト)」とも言えようその凄まじい効果で、駆け出しの頃の復讐戦をたった二撃で終わらせてしまったエルザを前に。


「お、おいっ……さ、三人いっぺんに襲い掛かればか、勝てない相手じゃねえっ!」

「て、テメえ、三人いっぺんに、とか言って一番後ろにいやがるってどういうコトだ?」

「そ、それに最初の男が一発で、ネイルさんが二発、たった二発でやられたんだぞ……オレたちが勝てるわけ──」

「────おい、テメェら」


 参戦したらよいのに尻込み、結果的にはネイルを見殺しにしてしまった護衛ら三人を睨み、ゆっくりと歩いて距離を詰めながら。


「どうしたい?……戦意を失っても敵なら関係ねえ、かかって来ないのならオレからいくぜ────うらぁぁぁああああああ!」


 風を纏った猪人族(アグリオス)の少女エルザは、その拳と蹴りで一階に集まる護衛の冒険者らを次々と撃破していったのだ。


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