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6話 アズリア、薬草を持ち帰る

 空洞の奥は朝露草が無数に花を咲かせていた。

 

 アウロラから滴を集めるために渡された数本の小さな硝子(ガラス)瓶を腰に下げた袋から取り出すと、滴が溜まっている花や葉を探してみると。

 ……あった。

 早速その滴を瓶に注いで詰めていくと、三本分の滴を集めることが出来た。


「これでアウロラの息子は助かるね。後は、オログ達に頼まれた分の朝露草を摘んで……っと」

 

 オログの話によると、滴ほどではないが朝露草は色々な治癒薬(ポーション)の材料として重宝されるそうだ。

 頼まれた数と、少しアタシも試したいことがあるので余分に数株採取して……出来るだけ急いで宿場町まで帰る。


 こうしている間にもアウロラの息子は病気で苦しんでるんだからね。


 岩場から出ると外はすっかり夜が明けていた。

 帰り道は黄昏に照らされた早朝のメルーナ砂漠を宿場町まで駆けて帰路に着いた。

 


「あ、アズリア……あの、滴は……?」


 宿場町の入り口ではアウロラが心配そうに待っていた。そんな彼女に滴の入った瓶を見せると、その場で膝を折ってその場で泣き始める。


「ぁ……ぁぁぁ……ありがと……アズリア……本当に……ありがとう……私……私ぃぃぃ……」

「泣いたり感謝するのは後だよアウロラ、今は息子さんに薬飲ませるのが先だろ?」

「うん……うん、そうだね……待っててね……ルカ……助かるんだからね……ルカ……」


 ルカというのが息子の名前なのだろう。泣いてるアウロラの手を引いて、すっかり町の人間が集まってる酒場に着くと、早速薬師が滴を一瓶受け取り熱砂病の薬を調合しに自宅へ戻っていった。

 しばらくして薬師が完成させた薬をアウロラに渡すと、彼女は息子が寝ている宿屋の奥へ一目散に走り出していってしまった。


「……彼女の旦那は以前、この町の子供が熱砂病に罹った時に朝露草を採りに行って……そのまま帰らぬ人となった過去があるんだ。だからキミが帰ってくるまでアウロラはずっと町の前で待っていたんだ」

「……そうか、アウロラにそんな過去が。それで今度は息子さんも、なんて考えたら普通じゃいられないよね……教えてくれてありがとね」


 その薬師は先程渡した滴の入った瓶を取り出し、


「それでキミにお願いなのだが……この朝露草の滴を一瓶でいい、売ってはくれないだろうか?今回はキミのような冒険者が偶然いたから助かったが、出来ればアウロラの旦那のような悲劇は避けたい。幸い、熱砂病の薬は調合さえしておけば保存が効く」

「もちろん構わないけど、一瓶?あれ?アウロラの息子さんの薬は……」

「ああ、この一瓶でおよそ十回分は調合出来る」

「へえ……それじゃあと二本あるんだけどさ」

「本当か⁉︎……それではメルーナ金貨50枚でどうだろうか?」


 耳元でオログがこの国(アル・ラブーン)の通貨と王国(シルバニア)金貨の関係について教えてくれた。

 どうやら太陽(インティ)貨とも呼ばれるメルーナ金貨と王国(シルバニア)の金貨は同程度の価値だそうだ。

 (ノル)貨と呼ばれるメルーナ銀貨と青銅貨があり、銀貨100枚で金貨1枚、青銅貨10枚で銀貨1枚。金貨数百枚となるような高額な場合は、通貨ではなく宝石で支払われるのが通例のようだ。

 

「いや、そういう事情なら金貨10枚で構わないよ。その代わりアタシはこれから砂漠へ行かなきゃならないから、熱砂病の薬を三回分付けてくれるとありがたいねぇ」

「いや……その申し出だとこちらは大いに助かるんだが……本当にその取引でいいのか?」

「構わないよ。いくら高値だ、っていっても別にその薬で儲けてるわけでもないんだろ?心配すんなって、金は取れるところから取るさ」


 先程調合しに行った薬師の店を見たが、お世辞にも儲かってるとは言えず所々ヒビが入ったりといった様子だ。

 でも無償で渡すのは良くない。次に滴を採取してきた人間に適正な報酬を求められてそれを不満に思うかもしれないからだ。


「……って話だけど、もちろん買ってくれるんだろオログの旦那ぁ?」


 ……というわけで取れるところ(オログとアビー)へと視線を移したアタシは、早速商談を持ちかける。

 

「取れるところ、って俺達かよ!……けどまあ、朝露草は大人気の商品になるから仕方ねえな、そうだな……朝露草三株につきメルーナ金貨1枚でどうだ?」

「頼んだのは十株だよな、なら五株で金貨2枚っ」

「うーん……金貨4枚かぁ……金貨3枚と銀貨5枚じゃ駄目かねぇ?」

「いーや、アタシだって砂漠の王(アントリオン)に遭って死にそうになったんだぜ?金貨4枚は譲らないよっ」

「……わかったよ!金貨4枚持ってけ泥棒!」

「へへへっ、毎度あり、だね」

 

 一見オログらが押し切られた商談に見えるのだが。

 実のところ王国(シルバニア)では、どんなに下値でも朝露草一株で金貨1枚と銀貨5枚で売れるし、下手をすれば金貨3枚程度に値上がりもする。

 しかも、オログ達は損どころか朝露草を十株も大量に仕入れることが出来たのはこれが初めての事なので、実際には大儲けなのだが。

 

⬛︎アル・ラブーンの貨幣制度について

一章に登場したシルバニア王国の貨幣との関係は、本編の通りですが。


金貨を太陽貨、銀貨を月貨と呼んでいるのは。

アル・ラブーンという国は、メルーナ砂漠に点在する無数の有力な部族の中から王と王妃をそれぞれ選出するという制度を取っているため。

金貨には王の部族の名を、銀貨には王妃の部族の名を冠するのが通例となっているためです。

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