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68話 アズリアら、監禁場所を急襲する

 剣匠卿(ソーディアス)を退けた後、監視役だった男らから聞き出した場所とは。

 港街モーベルムの歓楽街のど真ん中に位置する、ルビーノ商会が経営する大規模な娼館であった。


 なるほど、娼館では客との揉め事に備えて冒険者を雇い入れてあることが多い。警備のための冒険者を多く配置していても違和感はない。


 アタシが言えた義理じゃないが……露出の高めな服装の娼婦らが、歓楽街を歩く懐の温かそうな連中を狙って娼館の入り口で声を掛けている。

 そんな様子をアタシら五人は、少し離れた建物の陰から顔を出して観察していた。


「……あたしらも、アズリアに助け出されてなけりゃここに連れて来られたのかもなぁ……」

「で、アズリア。この娼館をどう攻める気?」


 レーヴェンからは、騒ぎを大きくしても尻拭いをしてもらえると約束されたが。

 五人でただ正面から突入すれば、ただの客や、獣人売買など知らない娼婦らなど関係ない人間を巻き込んで大怪我を負わせる可能性があるし。

 何より、ドレイク他商会の重要人物をみすみす逃しかねない。


 何しろ、敵側の戦力を測ろうにも肝心なユーノがこの調子なのだ。


「ううう……ひとがいっぱいいすぎてわかんないよお、ごめんねお姉ちゃんっ……」


 もちろんユーノを責める気はない。

 敵と味方がハッキリしている戦場では、ユーノの鋭敏な感覚による察知は恐ろしいまでの精度を誇っていたが。

 大勢の住人が混在している街の中は、如何にユーノの優れた感知力でも、敵とそうでない人間を区別することは出来ないのだろう。


 申し訳なさげに謝るユーノの頭をアタシは撫でてやりながら、ファニーの質問に答えていく。


「よくある戦法だけど、二手に分かれて突入しよう。ユーノは正面から突入、アタシは三人を率いて裏口を探して侵入するよ……それでいいかい?」


 アタシの提案にカサンドラら三人組は異論はなかったようで、コクリと首を縦に振るのだったが。

 正面突破の役割を振ったユーノが珍しく即答せずに、腕を組みながら考え事をしていたのだ。


「ん?……ユーノ、他に作戦でもあるのかい?」

「あ、えっとねお姉ちゃんっ、ボクがいりぐちからいくのはいいんだけど……ひとり、ボクにもつけてもらえないかなぁ、なんて」


 というユーノが、チラッとアタシの横にいた三人組に視線を向ける。

 その視線の先は、エルザだった。


「えっ?……お、オレですかっ?」

「うんっ、ボクといっしょにたたかってくれないかな、エルザちゃんっ」


 そう言ったユーノが、エルザへと握り拳を伸ばして返答を求めていく。

 普段ならこんな主張をすることのないユーノだ、きっと何かしら考えがあってのことなのだろう。


 もしくは、アタシが別行動を取り同行していなかった火山での依頼達成の際に、ユーノはエルザに対して何か思うところがあったのかもしれない。


「……それじゃ作戦は一部変更な。カサンドラとファニーはアタシと一緒に裏口から、ユーノとエルザは娼館を正面突破で頼むよッ……エルザもそれでイイかい?」


 ユーノから要請され、アタシからも話を振られたエルザは最初は戸惑っている様子だったが。

 すぐに意を決したように表情を引き締めると。


「……わかったよっ。ユーノ様と並んで戦うなんて身の程知らずとは思うけど、やれるだけやってみるよ」

「うんっ、よろしくねエルザちゃんっ」


 エルザがアタシにそう言葉を返した後。

 彼女の前に突き出されたユーノの握り拳に、エルザが握り込んだ拳を合わせていく。

 これでアタシらの行動方針は決定した。


「────よし、行くよッみんな!」


 アタシが合図代わりの言葉を口にし、身を隠していた建物の陰から飛び出し。

 他の四人もそれに続けて飛び出してくる。

 

 アタシは手招きしてカサンドラとファニーと一緒に娼館の裏側へと移動していき。

 ユーノとエルザはそのまま娼館の入り口へと駆け出しながら、言葉を交わし始める。


「ねえエルザちゃんっ、いまってさ……ボクがいってみたことをためしてみるいいきかいだとおもうんだよね」

「あの……攻撃魔法を身体に纏う、っていうヤツですか?」

 

 ────話は数刻前に遡る。


 三人が火山の中腹にあった洞窟で出口を塞いでいた炎蜥蜴(フレアリザード)を倒し、ユーノとの合流地点まで戻り。

 後から合流したユーノと、そこで一時的な休息を取っていた時のことだ。


「エルザちゃんがおっきなかえるとたたかってるのみてたけど、こうげきするときにうごきがとまるよね?」

「……痛いトコ突いてきますね、ユーノ様」


 二人から離れていたエルザを見て、ちょうどよい機会だとユーノが話し掛け。

 エルザの戦闘時の悪い癖を指摘していく。


 猪人族(アグリオス)の特徴である「力を溜める」ことで発揮する爆発的な瞬発力、それを活かすにはエルザの年齢と小柄な身体では、筋力が不足してしまっていたのだ。

 だから、どうしても一挙一足に必要な瞬発力を発揮するためには「力を溜める」必要があり、その遅延がエルザの獣人族(ビースト)としての反応速度を殺してしまっていた。


 それをユーノは、大泥蛙(マッドフロッグ)炎蜥蜴(フレアリザード)との二戦闘を見て看破したが(ゆえ)の指摘であった。


「確かにオレはこんな身体だし、筋力が足りちゃいないんだってのは理解してますよ。さっきファニーに筋力上昇(マイトアップ)を使われて、それをイヤって程思い知りましたからね……」


 エルザは、自分の拳を握ったり開いたりを繰り返しながら、心底悔しそうな心情の込もった言葉を吐き出していく。

 エルザが悔しがる理由はそれだけではない。自分と変わらないか、自分よりも小柄なユーノに腕試しで勝てなかった負い目というのもあった。

 そんなエルザにユーノはこう話題を切り出す。


「でね、そんなエルザちゃんに……ボクからおしえてあげられることがあるんだよっ」

「……オレ、強くなるためなら何でもしますよっ!だからユーノ様、教えて下さいその方法っ!」


 エルザも自身の問題点を理解していただけに、顔を上げるや否や、ユーノの提案に即答で飛び付いてきたので。

 ユーノは小さな胸を張りながら、一本立てた指をくるくると回しながらエルザへと質問する。


「じゃあ、まずしつもんだよっ。エルザちゃんはこうげきまほうってつかえる?」


 そう。

 ユーノはこの時、魔王領(コーデリア)に住む獣人族(ビースト)でも魔王リュカオーンを始めとして一握りの者しか会得出来ていない、種族特有の戦技である「魔戦態勢(バトルモーディング)」を伝授するつもりだったのだ。


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