53話 ユーノ、三人組を誘導する
分かれて火山の洞窟を探索しよう、というユーノの提案に三人組も乗り、合流地点などを決めることにした。
「それではユーノ様、あくまで探索なので炎蜥蜴を発見しても戦闘しない。洞窟を三つ調べ終えたら合流地点で待つ……それでよいですか?」
「うんわかったっ、さんにんもむちゃしたらダメだよっ」
「あははっ、オレたちにゃ回復役の治癒術師がいないから無茶したくても出来ないんですよ」
「……だから今まで私たちは生き残ってこれた」
ある程度火山を登った中腹辺りで、偶然にも大きな岩が積み重なり身を隠せる場所を見つけたので。
そこを合流地点として、探索に必要ではない野営装備などを置いていくことにした。
「ねえねえカサンドラちゃん、さいしょはあのどうくつなんかイイんじゃないかな?」
ユーノが、一番重い荷物を降ろして文字通り肩の荷が降り汗を拭っていたカサンドラにとある洞穴を見つけ、指差していく。
麓近くでは無数に見えていた洞穴も、合流地点まで登る頃にはあまり見なくなっていたのだが。
どうやらこの合流地点から見える洞窟はユーノが見つけたそこだけのようだ。
「そうですね、先ずは合流地点の近場から探していかないと、ですよね……それじゃ行くよ二人とも」
カサンドラは、二つめの水袋から水を飲んでいたエルザと、ちょうど良い大きさの岩場に腰を下ろし休憩していたファニーに声を掛ける。
「まったく……カサンドラが一番重い荷物を背負ってたのに、どれだけ体力馬鹿なのよ」
二人ともさらに蒸し暑くなった環境で、湿地帯とはまた違う意味で足場の悪いこの火山を登ってきたこともあり、汗塗れになり肩で息をするほど疲れていたのだ。
「まあ、でもだ。とっとと調べてとっとと目的の炎蜥蜴倒して、こんな蒸し暑い場所からおさらばしたいからな」
「同感。早く街に帰って冷たい水を浴びたい」
だが、この劣悪な環境から一刻も早く抜け出したい気持ちは一緒なようで、文句を言いながらも渋々立ち上がる。
「それではユーノ様、行ってまいりますっ」
「うんっ、いってらっしゃい!」
とりあえずこの周辺には、入れそうな洞穴は見えない。
カサンドラら三人組がその洞窟に足を踏み入れていくのを、手を振りながら見送るユーノ。
完全に三人が洞窟の中に入り、姿が見えなくなってから、彼女もまた探索する洞窟を見つけるためにその場を離れる……と思ったのだが。
「……うんっ、ボクのけいかくどおりっ」
と、ボソリと呟くユーノだった。
彼女の言う「計画通り」とはどういう事なのか。
カサンドラら三人組が探索に入っていった洞窟のその先で、きっと彼女らは炎蜥蜴と遭遇するであろう、とユーノは確信していた。
何故なら、ユーノは三人と一緒に山を歩いている最中から、鋭敏な知覚と火属性の魔力、その大きさを感じ取り、炎蜥蜴らしき気配とその位置のおおよそを把握していたのだ。
同じ獣人族でありながら、彼女ら三人組とユーノにそれだけ感知能力の差がある、というのは当然と言えば当然である。
エルザよりも歳が下に見えるユーノだが、彼女は西の魔王リュカオーンの実妹であり、配下の魔族や魔物らを統べる「鉄拳」の二つ名を冠する四天将の立派な一人なのだから。
その上で、自分が行かずに三人を炎蜥蜴のいるであろう洞窟に送り込んだ理由、それは。
「アズリアお姉ちゃんにいわれてたからね、これはエルザちゃんたちのじつりょくをみるしけんなんだって」
元々この依頼は、なりふり構わない手法で勢力を拡大している疑惑のあるルビーノ商会を危惧したレーヴェンと領主カスバルが。
とりわけその疑惑の一つ……商会が獣人族を「商品」として扱い売買する違法行為を取り締まり、獣人族らを擁護し味方になってもらうための試験のようなものなのだ。
今回ユーノが彼女ら三人に同行を許してもらえたのは、通常よりも難易度の高い依頼を出したレーヴェンによる救済措置でもあった。
炎蜥蜴は手練れの冒険者でも敗走し生命を失う可能性のある強敵だ。
もし敵わないと悟り、五体満足なうちに逃げ果せてくれればよいのだが、やはり彼女らも生命を賭けて一攫千金を狙う冒険者だ。ギリギリまで戦闘して力尽きてしまってはレーヴェンも目覚めが悪いとおもったのだろう。
だからユーノはアズリアにこう言われていた。
『イイかいユーノ、炎蜥蜴なんて聞いて戦いたいアンタの気持ちも分かるけど……今回はカサンドラたちの応援だけにしておくんだよ。手を出していいのはアイツらが危機に陥った時だけ────イイねッ』
ユーノは、少し前に湿地帯で湧いて出てきた大泥蛙と彼女ら三人との戦闘状況を、ふと思い出していた。
「さっきのおっきなかえるとのたたかいみてたら、だいじょうぶだとおもうんだよねっ……エルザちゃんだけはすこししんぱいだけど」
カサンドラの防御の手際の良さや、ファニーの判断の早さ、攻撃役としてのエルザの破壊力……何より前衛と後衛の役割分担などはユーノの目からは問題はないように見えた。
心配なのは、大泥蛙程度の相手に防御に徹しすぎていた消極的なカサンドラの行動と、そしてエルザの状況判断の甘さであった。
「うーん……もうすこし、カサンドラちゃんがてきをひきつけられるようになれば、エルザちゃんもいかせるんだけどなぁ……」
一度エルザが前線に参加すると、その攻撃力から敵の注意を一身に浴びることになり、防御役であるカサンドラが前線で機能しなくなるのだ。
金属鎧を着込んで素早く動くことが出来ないカサンドラとエルザの連携、それが三人の問題点だとユーノは思ったのだ。
「……どうしたらイイのかなぁ、うーん……」
などと腕を組んで頭を悩ませながらも。
ユーノは他の洞窟を探さずに、三人が洞窟に入ってから時間を置いて、彼女らの後を追うために洞窟に足を踏み入れる。
出来るだけ気配を殺し、足音を消しながら。




