52話 ユーノら四人組、火山に到着する
最後の一匹を倒したエルザは、両斧槍の刃に付着した蛙の体液を、大きく振って飛ばし。
付近の水場から、新たな大泥蛙が今の戦闘の音を聞きつけ、顔を出さないかを警戒する。
「ふう……どうやら出てきたのはこれだけみたいだね」
増援がないことを確認してから、魔法を放ち終えたファニーが解体用の短剣を取り出し、倒した五匹の大泥蛙から売れる素材を取り出していく。
「……大泥蛙の舌は比較的高値で売れる、本当は傷つけたくなかった」
大泥蛙の舌は、ファニーの言う通り斡旋所や商会、露天商などが高値で買い取ってくれる素材なのだ。
剥いだ舌の皮やさらに舌の内側にある蛙の粘液袋は皮細工師や薬師が様々な用途に。皮を剥いだ舌肉は意外にも高級な食材として扱われる。
「ぐ……あ、あの時は悪いと思ったけどよ、カサンドラが蛙にビビって殴らねえんだから仕方ねえだろ?」
「あ、アタシが悪いのか?」
五匹もいる解体にはカサンドラもエルザも加わり、三人で手っ取り早く大泥蛙の口に手を突っ込み、慣れた手つきで傷一つない二本の舌を根本から切り落としていき。
ファニーの「解き放つ嵐刃」によって無数の傷が付いた三匹分の舌も、念のために切り取っておく。
あらかた解体を終えてから、三人組は重要なことにようやく気が回る。
少し前を軽やかに歩いていたユーノの姿が見えないのだ。
「そ、そう言えば、ユーノ様は何処に?」
「そうだっ!せっかく獅子人族の族長がどの程度の実力なのかを見たかったのにっ?」
カサンドラとエルザは、先へ行ったユーノを見つけようと湿地帯の先へと目線を投げると。
二人の目には信じられない光景が映るのだった。
「────あっ、さんにんともおそいよおっ!たくさんおっきなかえるがみちをふさいでたからやっつけておいたよっ!……はやくはやくぅ!」
上機嫌で手招きをするユーノ。
その足元には、カサンドラらが三人がかりで五匹を倒した大泥蛙、その死骸が数十匹転がっていたのだから。
……それはまるで、湿地帯に生息していた大泥蛙が集まってきたかと思う数であった。
しかもユーノは、レーヴェン邸でカサンドラら三人が装備を新調した際も、彼女は装備を貰うことなく。
素材がわからぬ革鎧のみ、何も武器を持たない素手で大泥蛙の頭部や胴体に穴を空けていたのだ。
「お、おい……アレ、嘘だろ?オレらが三人でようやく五匹倒したってのに……」
「あ、ああ、危なげなくあの数の大泥蛙を仕留めるなんて、さすがは族長、す、凄い……」
その様子を見つめて呆然とする二人。
死骸を解体し素材の回収をし終えたファニーが加わると、呆然とするのは三人となる。
「……さすがに、これ全部を解体するのは帰り道にしないと、荷物で動けなくなりそう……」
これだけの数の大泥蛙の解体を行なっていては、日が暮れるまで湿地帯で時間を食い潰してしまう。
何とか気を取り直した三人組は、そこらに転がる大泥蛙の死骸を踏み越えながら、先にいるユーノと合流するのだった。
「それで、ボクたちがたおす炎蜥蜴ってまだまださきなのかな?」
「え、ええユーノ様っ。山にある洞窟を片っ端から探してみないといけませんが……」
カサンドラが、自分らの目の前にそびえ立つストロンボリ火山を指差していく。
炎蜥蜴の居場所は溶岩が流れる山の中心部へと繋がる洞窟を探索しなければならないが、その正確な位置の情報は冒険者らの間でも出回っていないのだ。
「ひゃあ……戦闘したら喉が渇いちまったよ、悪いけど水を貰うよっ」
「お、おいっエルザ、飲み過ぎだぞ?」
「仕方ないだろっ、こんな蒸し暑い場所で蛙と戦ったら汗もかくし、喉も渇くさっ────うん、美味えっ!」
説明を続けているカサンドラの腰から、エルザが勝手に水袋を奪い取ると、袋の口から自分の水を流し込んでいく。
確かにエルザの言うように、大泥蛙との戦闘で二人も額にびっしりと汗を浮かべ、特に金属鎧を着込んだカサンドラは肩で息をするほど疲労していた。
エルザが喉を鳴らして水袋の中身を飲み干していくのを見たカサンドラはゴクリ……と唾を飲み。
ファニーと二人で、同じように水袋を取り出して中身の水をゴクゴクと喉を鳴らし飲んでいくのだった。
「ユーノ様、そろそろ火山に到着する」
「うん、いよいよ炎蜥蜴ってまものにあえるんだねっ!ボクがすんでたしまにはいなかったから、すごくたのしみなんだっ」
水を飲みながら歩を進めていたユーノら四人組はいよいよ湿地帯を抜け、地表に水溜りが見えなくなりごろごろとした黒い岩が転がるようになってきた。
ストロンボリ火山に足を踏み入れる四人組。
その山肌には、すでに二つほどの洞窟がぽっかりと口を空けていたが。
「しっかし……洞窟を片っ端から探せ、って言うけどさあ……オレの目に映ってるだけでも、どれだけ洞窟あるんだよ……こりゃ」
「確かに。この数を一々確かめていたら、日が落ちて夜になっても終わらないかもしれない……」
他にも洞窟がないかと周囲へと視線を向けてみると、あちらこちらに洞窟の入り口が見える、その数は五や十ではなかった。
ファニーか言うように、四人で一つずつ洞窟をしらみ潰しに探索していては夜を迎えてしまうだろう。
念のため、野営をするための天幕などの装備はカサンドラが背負ってきてはいるが、このストロンボリ火山は地表が剥き出しの岩場となっているため、天幕などを張れば空を飛ぶ魔物の格好の的となるのは間違いない。
そこで、ユーノが何かを思いつく顔をすると。
何か良い案がないか考え込んでいたファニーへと提案してみるのだった。
「ねえファニーちゃん?これだけのかず、みんなでしらべてたらかえるのおそくなっちゃうよね?」
「……でも、炎蜥蜴は地表には現れない。討伐するには洞窟を探索する以外ない」
一呼吸置いてから、ユーノが三人に対して。
「うん、だからっ……ボクとファニーたちさんにんでわかれてどうくつをさがしてみない?」




