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50話 アズリア、元締めとの顔合わせ

 路地裏で少しばかり交渉し、アタシは男の案内されるままにその背中について行った。

 斡旋所から歓楽街を抜け、人通りが落ち着いてくる区画、そのとある一つの建物へと案内される。


「へえ……アタシゃてっきりルビーノ商会に話を通してくれるっていうから、店舗か会長邸にでも案内されるのかな、と思ってたんだけどねぇ?」

「へ、へへ、安心してくれよ姉さん。確かにここは商会の店舗でも何でもない場所だが、待ってるのは商会でも名の通ったお方だぜ」


 男が言うに、ここにいるのはある程度は有名なルビーノ商会の幹部らしいのだが。

 残念ながらアタシはこの国(コルチェスター)に訪れた事がなく、昨晩この街(モーベルム)に来たばかりで、その人物がどんなに名が知れていてもアタシが知っている可能性は皆無に等しいだろう。

 だから、男の「安心しろ」という言葉に、一切の信用する材料がないのだが。


「(ボソリ)……まぁ、いざとなりゃ全員ブチのめしてその名の知れた商会の人間から情報を聞き出すだけだけどね」


 と、心の声が思わず漏れ出してしまう。

 いや、いけないいけない。

 ここはもう戦争中のホルハイムでも魔王領(コーデリア)でもなく、人間の法が統治する街の中なのだ。

 実力行使で状況を打破するのは最後の手段だ。


「ん?何か言ったか、姉さん?」

「あ、ああ、何でもないさね。ただ、どんな奴が待ってるのか気になってさぁ」


 建物の中なので小声でも意外に響いたのか、先を歩いていた男がアタシの漏れ出した心の声に反応してこちらを振り向く。

 だが、声の内容までは聞こえてなかった様子なので、アタシを待っている商会の重鎮という人物に興味がある素振りを見せて誤魔化(ごまか)していく。


 すると、男はいかにも得意気な顔を浮かべて口を開く。


「ドレイクさんは元々、この国(コルチェスター)でも有名な冒険者で、腕っ(ぷし)もあり他の冒険者からの信頼も厚いお人さ。それに──」


「……無駄話はいい、早く入ってこいザイオン」


 男がドレイクという人物についてわざわざ話してくれていると、男の話を遮る迫力が込もった低い男の声がすぐ側の扉の向こうから聞こえ。


「……す、すいませんドレイクさんっ!す、すぐに案内しますっ?」


 途端に得意気な男の顔色が変わり、饒舌(じょうぜつ)であったその口を閉ざし。

 黙ったまま、声が聞こえてきた扉を開けてアタシを手振りのみで部屋の中へと案内する。


「邪魔するよ……アンタがドレイクかい?」


 部屋の中にはただ一人、商人とは思えない程に屈強な体格をした大柄な男が椅子にではなく、部屋に置かれた木箱に腰を下ろしていた。

 さすがは元々名の知れた冒険者だけはあり、漂わせる雰囲気は古強者を連想させる。


「……ザイオンの案内だからここまで通したのだ、人の名前を呼ぶ前に自己紹介くらいしたらどうだ、女?」


 部屋に入ったアタシへ鋭い目を向けた屈強な大男、ドレイクは、こちらの実力を値踏みするよう頭から足先まで目線を送る。

 アタシは、その鋭い視線を軽く受け流しながら、ドレイクと同じように(そば)に置かれていた木箱に腰を下ろし。


「ああ、名乗るのが遅れたみたいで悪いねぇ。アタシはアズリア、昨晩この街(モーベルム)に来たばかりのただの旅人さね」

「……ふっ、ただの(・・・)旅人か。まあそういうコトにしておいてやろう。実力のある人間なら過去は問わんのが冒険者の流儀だからな」


 すると、ドレイクは何かが入った革袋を懐から取り出して、こちらへと放り投げてくる。

 アタシが革袋(それ)を受け止めるとずっしりと重さを感じる。早速、中身を確かめると……十枚ほどの金貨が入っていた。

 いくら男らに絡まれ、右腕に斬り傷を付けられたとはいえ、迷惑料にしては高額すぎる金貨の数だ。


「何だいコイツは?……(やま)しい金ならさすがにアタシは受け取れないねぇ」

「……なに、俺たちルビーノ商会に雇われる契約料だと思って受け取ってくれ。それにアズリア、お前には早速やってもらいたい仕事がある、その前金も含んでると思ってくれ」


 ただの顔合わせかと思いきや、まさか仕事の話までされようとは思ってもいなかったが。

 連中の内情を知るためには、一度ほど仕事を成功させておいて信頼を勝ち取っておくのも悪くないと考え、アタシは革袋を懐へと納める。


 それを承諾の意味に捉えたドレイクは、首を縦に頷きながら言葉を続けていく。


「……実は、この街(モーベルム)にいる獣人族(ビースト)から流行り病が発生するかもしれないと、とある筋からの情報が入った」


 ルビーノ商会と獣人(ビースト)を捕縛し、売買する組織との関係性を調べてみようと思った矢先に。

 まさかそちら側から暴露するような話を振ってくるとは思わなかった。


 ……しかも、まさか「獣人(ビースト)が流行り病を広げる」などと、ユーノやカサンドラたちの立場を(おとし)める真似としてくるとは。

 アタシは怒りで拳を握り締めながら、ドレイクの依頼内容の続きを聞いていた。

 

「……我がルビーノ商会としては街の人間の安全を確保するためにも、獣人らの保護を冒険者に任せているのだ。街の人間に知られて、騒ぎや混乱を起こさないためにも秘密裏に、だ」

「秘密裏に、ねぇ……で、アタシは何をしたらイイんだい?」

「……アズリア、お前にはこちらの二人と一緒に新しく斡旋所で冒険者登録をした獅子人族(レーヴェ)の女獣人(ビースト)を確保して欲しい」


 ドレイクの言う「獅子人族(レーヴェ)の女」とは。

 間違いない、ユーノのことだ。

 

「……どうやら斡旋所に潜入させた人間からの情報では、この獅子人族(レーヴェ)は島の中央にあるストロンボリ山で魔物の討伐依頼を受けたらしい。今日にも出発するだろう」

「なるほどねぇ……冒険者が街の外で行方をくらますぶんにゃ、誰も不思議には思わないからね」

「……そういうことだ、察しが良くて助かる」


 魔物退治に向かった冒険者がその道中で魔物や野盗に遭遇したり、討伐対象である魔物に返り討ちに遭い帰還しなかった、ということは多々ある。


 つまりは、そのように擬装しろ、ということか。

 アタシの言葉を自分の意図を理解してくれたものだと思い込んでいるドレイクは、初めて薄っすらとだが笑みを浮かべていたが。

 アタシはその話を聞いている最中、いつ握り締めた拳でドレイクの顔面を殴ってやろうかという怒りの衝動をずっと抑えるので精一杯だったのだ。


 だが一応、念の為にも。

 レーヴェンらには、本当に獣人族(ビースト)が流行り病に冒されている話がないのか、ドレイクの証言の信憑性を聞いてみるつもりだが。

 最後にアタシは、ドレイクにこう尋ねてみた。


「なあ、この街(モーベルム)にゃ他にも獣人族(ビースト)はいるんだろ?確保した獣人族(ビースト)らは一体、何処(どこ)(かくま)ってるんだい?」


 すると、ドレイクは一瞬だけだが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ。


「……それは一介の冒険者のお前が知らなくてもいいことだ。では、獅子人族(レーヴェ)を街の外で確保する件、くれぐれも街の人間に目撃されることのないように……頼んだぞ」


 そうアタシに言い放つと、彼は座っていた木箱から腰を上げて先に部屋から出て行くのだった。

 

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