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43話 アズリア、力比べを観戦する

 突然そんな重要な話を聞かされ、慌ててアタシを問い詰めようと、熊人族(ドゥーベ)特有の大きな体格で迫るカサンドラ。


「ちょ、ちょっと待てよアズリアっ?え?……あたしたちが、獅子人族(レーヴェ)の族長であるユーノ様と一緒に依頼をするってえのかいっ?」


 また、カサンドラには加わってこないものの、ファニーも目を細めながら、アタシをジトっとした視線を向ける。


「そんな話は聞いてない……アズリアには色々と恩義はあるから反対するつもりはないけど、せめて一言私たちに話を通すべき」

「……悪いねぇ、その話をアンタらに振ろうと思った矢先に倒れちまったんだよ……いや、しかし」


 ファニーの苦言に弁解しながら、アタシはこのやり取りにも無反応で、外を眺めている彼女らの最後の一人、エルザを指差しながら。


「……なあ、さっきから気になってたんだが。エルザ……だっけ?あの()だけやたら反応がうすくないかい?」

「エルザは大体いつもあんな感じ。エルザは戦いにしか興味がない、変わった子」

「……いや、お前さんがそれを言うかい?」

「私は酒場の看板娘になれるくらい普通の可愛い女の子、にぱっ」


 自分を「普通だ」と主張するファニーへ、今度はアタシがジトっとした目線を送りながら。


「それじゃ……よろしくねっ、カサンドラちゃんにエルザちゃんっ!」

「は、はいっ!こ、こちらこそ若輩者ですが、出来る限りユーノ様の足を引っ張らないようがが、頑張りますっ!」


 ユーノが慌てふためくカサンドラと反応の乏しいエルザ、対照的な二人に声を掛けるのを見守っていると。

 相変わらず「族長」という立場のユーノへ二、三歩引き下がった態度を取るカサンドラをよそに。


「え、と、ユーノ様だっけ。キミ……強いの?」 

「お、おいっエルザ!何を言い出すかと思えば……ユーノ様に何失礼な口聞いてるんだっ!」

「だって……一緒に戦うんでしょ?」


 と、今までこちらに興味を示さなかったエルザが口を開いた途端、ユーノに挑戦的な視線を向けてくる。

 その挑発に応えてよいものか、ユーノは一度「どうしよう?」という戸惑いの表情を浮かべながらアタシの顔色を伺う。


 ユーノが何故アタシに判断を任せるような行動を取ったのか、というと。

 彼女らを救出する一連の流れで、結果的には良かったものの、慣れない人間社会で勝手な行動を取ったユーノを少々キツめに叱っておいたからなのだろう。

 だから、本来ならこの場は「堪えろ」と言うのが正しい判断なのだろうが。

 

 アタシは胸の前で握り拳を作り、こちらの判断を待つユーノに頷いてやると。


「い、いいの?お姉ちゃんっ?」

「ああ、力比べ程度なら構やしないさ。ユーノ……アンタの力、存分にエルザに見せつけてやんなッ」


 と、ユーノを焚き付ける言葉を掛ける。

 

 アタシが倒れた後も彼女には面倒をかけたし、カスバルやレーヴェンとの話し合いの最中、退屈させてしまっていただろうから。

 それに、戦闘にしか興味のないエルザにも、実力の差を見せつけておいたほうがこの後も何かと都合が良いだろう、と考えたのだ。


 ちなみに、ここでアタシの言う「力比べ」というのは、机や卓に対面に腰掛けた二人が互いに肘を卓上に突いたまま手を組み、力を込めて相手側の手の甲を卓に押し付けた者の勝利、という古典的なモノだ。

 酒場では賭け事と並び酔っ払いらの定番の暇潰しではあったし、魔王領(コーデリア)の魔族や獣人族(ビースト)にも純粋な力比べとして知られていたので。


 これならエルザも知っているだろうし。

 勝っても負けても傷を負わなくて済む。


「えへへっ、お姉ちゃんがいいっていってくれたから、ボクのちからをみせちゃうんだからねっ!」


 ユーノは、先程カスバルが羊皮紙に署名させられていた机に肘を突き、開いた手をエルザが握り返してくるのを待っていると。

 先程まで呆けていたような表情のエルザが、まるで別人のように目を見開き、覇気を(みなぎ)らせていた。


「……はっはあ!獅子人族(レーヴェ)の族長がどれ程の実力なのか、オレが確かめてやるよっ!」


 エルザが対面で腰を屈めると、机に片肘を突いてユーノの手を握り返していく。

 これで力比べの準備は整った。あとは二人がそれぞれの手の甲を押し付けるために腕に力を込める、その合図を待つのみ。

 

 アタシは合図代わりに、二人が腕を組んで肘を突いている机をバン!と叩くと。

 ユーノとエルザ、二人の表情が険しくなり、互いを負かすために腕に力を込められる。


「身体が小さいからってオレを侮るなよ族長さんよっ……これでも力比べじゃカサンドラにも負けたことはないんだ────ぜっ!」


 まず最初に動いたのはエルザであった。

 身体全体を押し付けるように、腕力だけでなく体重を乗せて一気にユーノの腕を倒そうとすると。

 一瞬だが机がギシリと(きし)む音を立てる。

 歯を食い縛りながら、鼻息を荒らげて顔を真っ赤にしながら腕に力を込めるエルザは楽しげに笑っているようにも見えた。

 戦いが絡むとここまで変わるものか、と。


 ふとアタシは、砂漠の国(アル・ラブーン)で出会った、戦闘時にはまるで別人のように凶暴な剣を振るう存在に変わってしまう「憤怒憑き(ベルセルク)」という特徴を生まれ持った難儀な友人である筆頭騎士(ノルディア)

 そんな彼女のことを思い出してしまっていた。

 

 そんなエルザの渾身の攻めはしばらく続いたが、押されるユーノの腕は微動だにしない。

 それどころか対戦相手であるユーノは、いまだに余裕のある顔をしていたのだから。

 エルザの顔からはいつの間に笑みが消え、疲労と敗色が顔に色濃く表れていた。


「……はぁ、はぁ、う、嘘だろぉ、お、オレがこれだけ力を入れてるのに、ま、まるで鉄巨人(アイアンゴーレム)みたいに動かねえ……んぎぎぃぃ!」

「うんうんっ、エルザちゃんつよいつよいっ……りょうてだったらいいしょうぶかも」

「くっ!……な、舐めるなよっ!ふ、ふんがぁぁぁっ!」


 どれだけ力を込めても涼しげな顔のユーノに苛立ちを隠せないエルザは、掛け声とともに腕に力を入れていくが。

 最初に力を込めた時のように、もう机の(きし)む音は鳴らないところを見るに、気を張り続けたエルザの腕の筋力は既に限界なのだろう。


 それはそうだ。

 エルザ以上に小柄な体格をしたユーノだが、魔王領(コーデリア)での力比べでは、彼女より体格に優れていた牛魔族(ミノス)などの高位魔族や部下の獣人族(ビースト)らに負けたところをアタシは見た事がなかったのだから。

 もしエルザがユーノに力比べで勝利したなら、彼女の腕力は魔王リュカオーンの四天将に匹敵するモノだということになる。


「じゃあそろそろボクのばんだねっエルザちゃん、いっくよお────そりゃあ!」

 

 エルザの腕の力が緩んだのを確認して、ユーノがここで攻勢に出る。

 するとエルザの攻めで微動だにしなかった二人の腕が、徐々にエルザの手の甲を下にして傾いていく。

 もちろんエルザも負けまいと堪えようと歯を食い縛るが、腕の傾きは止まらない。


「う、うぎぎぃぃ……な、何だよこのち、力あ……む、無理無理ムリいぃぃぃ!」


 最後まで表情を変えることのなかったユーノ。

 ついには弱音を吐き始めたエルザの手の甲が机に押し付けられ、力比べはユーノの勝利に終わる。


「わあぃっ!やったあっ、ボクのかちだよっ!」


 両手を広げながらぴょんぴょんと飛び跳ね、勝利した喜びを全身で表わすユーノ。

 反対に、力比べに負けたエルザは腕を押さえて顔を伏せていたので、すっかり落ち込んでいたように見えたのだが。

 

「いやあ負けた負けたっ!あははっ、あれだけ実力差を見せつけられて負けたらもう笑うしかないじゃん、あはははっ!」


 一転、顔を上げた途端に大声で笑い出し、喜んでいたユーノに片膝を突いて頭を下げる。


「……族長としての力、見せてもらいました。これから一緒に戦うことになりますが、よろしくお願いしますユーノ様っ」

「うんっ、いっしょにがんばろうねエルザちゃんっ!」


 さて、少しばかり寄り道をしてしまったが。

 エルザに実力差を見せつけてくれたことで、一緒に冒険者として動く作戦に何の懸念も無くなったところで。

 そろそろレーヴェンが、彼女らの装備一式を用意して待っている頃だ。


 早速装備を受け取って、この街(モーベルム)の冒険者が集まるという斡旋所にレーヴェンからの依頼を貰いに行かなくては。

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