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36話 アズリア、計画を打ち明ける

 そう、顔を見せたのは。

 奥の船室に寝かせておいた鹿人族(ケルウス)の少女ファニーであった。


「私も……折れた骨を繋げる程の強力な治癒魔法を使える人間が、どんな理由があって私たちなんかを助けたのか、興味がある……」


 と話しながら、彼女はそのままカサンドラの隣に腰を下ろす……と思いきや。

 ファニーが座った場所というのは、なんとユーノとアタシの間に、であった。


「だから……これくらい(そば)でじっくりと調べさせてもらう……じぃぃぃぃ」

「あ──っ!お姉ちゃんのとなりはボクのなのにっ?」


 無理やり場所を割り込まれたことに抗議の声を上げるユーノだったが。

 目を細めながら床に座り込んだアタシを頭から足先まで頭を動かしながら凝視するファニーは、決してアタシを好意的に見てるのではなく。

 喩えるなら、その視線は試しに作った薬の効果が出るかを見守る薬師(くすし)や錬金術師のそれ(・・)に似ていた。


「お、おいおいファニーっ?あまりその人に無礼な態度を取るんじゃないよっ!」

「……カサンドラ、何で?」

「いいかい。信じられないかもしれないけどよっく聞きな、その人はあんたと同い歳くらいに見えるけど獅子人族(レーヴェ)の族長様なんだよっ」


 ユーノの抗議の声などお構いなしにアタシに近寄っていくファニーの行動を、声を震わせながらカサンドラが諫めていくと。

 仲間からの声に、ようやくファニーもアタシへの観察を一旦止めてカサンドラの言葉に耳を傾けていき。

 

「う、嘘」

「うそじゃないもん!ボクはこれでもほこりたかき獅子人族(レーヴェ)のぞくちょうなんだぞっ!」

「ま、まさか……いえ、それにあなたの顔には見覚えがある。確かあなたは……牢獄に空いていた穴から顔を見せた子供(・・)


 ユーノを族長だと紹介され、あまり抑揚のない感じで驚きの声を上げるファニーだったが。

 続けて、ファニーらがあの建物に捕まっているのを目撃した時のユーノの主張を裏付けるように、彼女もまたユーノの顔を覚えていたと話す。

 だが、どうやら当の本人はというと。


「むうぅぅっ……ボク子どもじゃないもんっ!せっかくたすけてあげたのに、お姉ちゃんっ……ボク、|ファニー(こいつ)きらいっ!」


「子供」と言われた事にひどく敏感に反応したようで、果実酒で良くなっていた機嫌を再び損ね、頬をぷっくりと膨らませて拗ねてしまったのだ。


 ファニーがユーノをすっかり不機嫌にさせてしまったことに、アタシは隣のカサンドラが戦々恐々としているのかと思い視線を移すと。

 そのカサンドラは平然とした態度かと思いきや。


「ところであんた、人間の治癒術師にしちゃ怪しいところがたくさんあるんだけどさぁ……ぷはぁ。大体ぃ、建物に空けたあの穴は一体どうやったんだい?」


 顔を真っ赤にして、その目が据わっていたカサンドラが、先程までの遠慮していた態度から一変し。

 アタシがあの建物に侵入する際に「漆黒の魔剣(オディール)」を発動させて石壁を切り抜いた大穴の事を聞いてきたのだ。


 よく見ると、カサンドラの傍に転がっていた木の器は既に空になっていた。ということは、果実酒とはいえ酒精(アルコール)の強いあの酒を一気に飲み干してしまったのだろう。

 

 海賊の連中が持っていた酒樽だ、そこまで詳しい中身は分かりようがないが。

 ユーノやカサンドラに振る舞う前に、アタシは少しだけこの果実酒を飲んで味を見た限りでは、林檎を原料として作った林檎酒(シードル)よりも、酸味が少なく甘味が強くなり、そして何より酒精(アルコール)が強くなっていた。

 そんな強い酒を一気に腹に流し込んだのだ。


「まぁ、そりゃ普通は酔うよねぇ……まったく」

「ごめんなさい。カサンドラは大の酒好きだけど……見ての通り、すぐに酔い潰れるから、私たちはあまり彼女に酒を飲ませないようにしている」

「ああ、反省した。これからは不用意に強い酒を出さないようにするよ」

「うん。そうしてくれると、助かる……それで」


 アタシの隣に腰を下ろしてユーノと言い合いをしていたと思っていたファニーが、完全に酔いが回り態度が大きくなったカサンドラが実は酒に弱かったことを教えてくれる。


 ちなみに……不機嫌になったユーノはというと。  

 カサンドラが一杯で酔った果実酒をアタシらが見ている目の前で喉を鳴らして飲み干していた。


獅子人族(レーヴェ)の族長も確かに興味深いけど……カサンドラが言ったことが本当なら、私はあなたの目的のほうが気になる」

「……目的って、何の話だい?」

「とぼけても無駄。さっきカサンドラが酒に弱いことを聞いたあなたは『次からは気をつける』と言った……と、いう事はあなたはこれからも私たちと行動を共にする意志があるという証拠」


 ユーノと言い争いをしながら、アタシとカサンドラとの会話に耳を傾けていたとは、すっかり油断していた。


 ……この、ファニーという鹿人族(ケルウス)

 この部屋に入ってきた時に見た印象は、興味の無いことには一切の関心を示さない、年齢に見合わぬ無気力な雰囲気を漂わせていたが。

 なかなかどうして、アタシも油断して色々と喋りすぎたのもあるが。あれだけの言葉からその意味に辿り着くとは。

 年齢に見合わなかったのはその老獪さだったか、とアタシは感心していた。

 

 だから、早速アタシはファニーとカサンドラの二人にこちらの目的を話しておくことにした。

 

「なぁに、目的は簡単さね。アンタらの冒険にユーノと、可能ならアタシを加えて欲しい。ただそれだけさ」

「……え、そ、それだけ?」


 最初の答えに疑問を抱いたファニーだったが。

 その回答と同時にアタシは、木の器になみなみと注がれた酒精(アルコール)の強い林檎酒を、喉を鳴らしながら一気に流し込んでいった。


 そして、器を床に置いたアタシが見せたのは先程までの軽い口調ではなく、少しばかり声を落として真剣な表情で二人に告げる。


「ああ、それじゃ納得出来ないかい?じゃあ、こう言い替えようかねぇ……アンタら獣人族(ビースト)を捕まえて酷いメに遭わせた連中を一網打尽にしてやりたい、って」


 アタシらの本当の目的。

 それは、この街(モーベルム)に巣食う獣人族(ビースト)を食いモノにする連中をブッ潰すことだと、つい先程決まった。

 ユーノに「首謀者を絶対殴らせてやる」と約束したわけだし、当然ながらアタシも島で世話になった獣人族(ビースト)が酷い目に遭うのを黙って見ていられる程、器が大きい人間ではないのだ。


「……い、いや、確かにあたしだって、二人を酷い目に遭わせた人間どもは許せない!……けど、一体どうやって──」

「なら、カサンドラは手段さえ説明したら首を縦に振ってくれるんだね?」


 酔いで顔を真っ赤にしたまま、カサンドラは言葉の勢いのままに無言でアタシに頷き返す。

 そして視線をファニーに向けると。


「その提案に反対する理由は私たちにはない……だけどその前に、一つだけ教えて欲しい」


 ファニーは指を一本立て、その指でアタシを指し示すとこう告げてきたのだった。


「あなたの名前をまだ私たちは聞いていない」

 

 ────一瞬だけこの場に流れる沈黙。

 あれ?

 アタシは「まだ自己紹介してなかったっけ?」とばかりにカサンドラとユーノへ視線を投げ掛けるが、二人は合わせたように首を横に振っていた。


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