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1話 アズリア、西の砂漠へ向かう

行商人のオッサン二人に名前をつけました。

なのでその点含めて、多少文章を修正しました。

 今アタシは、シルバニア王国の西の国境の向こう。

 王国への出入口となる砦を抜けて、大陸の西側に広がる「メルーナ砂漠」と呼ばれる別の地域へと向かう荷馬車に同乗させてもらっていた。


 アタシの乗る荷馬車に元より乗っていたのは、二人の男。

 これから暑くなる地域に向かっているためか、薄い布地の服一枚を羽織り、顎に無精髭(ぶしょうひげ)を生やしている三十代の男性がオログ。

 御者(ぎょしゃ)席に座り、馬車を操縦していたのは。アタシの腹ほどの小柄な背丈の、だが年齢はというとオログとほぼ同じ年齢で色白な肌の男のトビーである。


「いやあ姉ちゃん助かったよー……車輪が脇にハマった時はどうしようか冷汗モノだったからなー」

「俺はオログだ。王国と砂漠を行き交いする行商人をやってる。御者(ぎょしゃ)をしてるのがアビーだ」


 街道の脇の深い窪みに馬車の車輪が嵌まってしまったらしく、大の男が二人で車体を持ち上げて窪みから出そうとしていたのだが。

 二人では車体が持ち上がらず難儀(なんぎ)している様子だったので、アタシが車体を持ち上げる手助けをしてあげた。

 ……というよりほぼ一人で荷台を持ち上げて無事に溝から脱したところ。御礼代わりに「馬車に乗っていけ」と勧められた、という経緯(いきさつ)があった。


 話を聞いてみれば、二人もちょうど王国(シルバニア)からメルーナ砂漠へと向かうということだったので。

 アタシは二人の申し出をありがたく受け、荷馬車の荷台に腰を下ろして。オログと情報交換をしていたところだ。


「俺たち行商人はよくメルーナ砂漠へ行くんだよ。砂漠にしか生息しない動植物の素材は、砂漠に縁のない王国じゃかなり珍重されるからな」

「へぇ、じゃあ……オログ達は西側は詳しいんだな」

「へへっ、別に詳しいわけじゃないけどな。ちなみに俺たちは砂漠の手前の町で馬車を停めるけど……姉ちゃんはどこまで行くんだ?」


 アタシが少しばかり、オログの商人としての見識に感心した態度を見せてやると。

 オログはあからさまに照れ隠しをする素振りを見せながら、さらに口を滑らかに開いていく。

 意外だった。

 ……アタシみたいな無骨な女に褒められても嬉しいものなのか。


「アタシも砂漠に用があるからそこまでお願いするよ。ん?……でもオログもアビーも砂漠の素材目当てなんだろ。なんで手前で馬車停めちまうんだい?」

「ちっちっち、馬車じゃ車輪が砂に沈んじまって役に立って立たないんだ。だから徒歩か、ラクダやロバを荷物運び用に雇うのが常識なのさ」

「──へぇ、知らなかったよ。初耳だねぇ」


 オログから新しい知識を聞かされ、すっかり感心したアタシはうんうんと首を縦に振り。

 一人旅のアタシはこれからもきっと馬車を使うことなどないだろうが……と思いながら、馬車の外の流れる景色へと視線を移す。

 

「……あれから、六年になるんだねぇ」


 以前にここメルーナ砂漠に来た時は……もう六年も前の話になるが。

 故郷の帝国から逃げ出した直後で地図もなく。野営の知識なども持たず右も左もわからないまま辿り着いたのが、偶然このメルーナ砂漠だったというわけだ。

 その時に水と寝場所を提供してもらい、すっかり助けられた部族を襲撃した魔獣を倒し。その結果、手に入れることが出来たのがこの「ken(ケン)」の魔術文字(ルーン)だったのだが。

 

 今回このメルーナ砂漠に来ようと思ったのは、疲労困憊だった行き倒れ寸前のアタシを介抱してくれた、恩義あるその部族にまた顔を見せに行こうと思ったからだ。

 まあ、旅の人間である行ったからといって何か恩返しが出来るわけではないのだが。


 荷台に座りながらそんな事を考えていると。身体を動かしていない筈なのに、何故か身体のあちこちが妙に汗ばんでいることに気がつく。


「いやあ……それにしても、暑っちいねぇ……日陰にいるってえのに、この暑さじゃ馬は大変だねぇ……ふぅ」

「ああ、だから砂漠地帯は商隊の進みも遅い。だからシルバニア側から砂漠方面に来たがる行商人は少ないんだ……うへぇ」


 国境沿いの砦を抜けてから、急に暑くなった気がする。さすがに旅の途中で鎧を脱ぐわけにはいかなかったが、鎧と肌の隙間が暑さで蒸れてしまい。

 手をパタパタと扇ぎながら、何とか熱をもった肌を涼ませようとするが、その程度ではどうしようもないくらい……暑い。


 もちろんメルーナ砂漠の暑さはこんなものではないのだが、それでも照りつける太陽のせいで、荷馬車の中にいてさえ喉が乾いて仕方がなかった。

 アタシはどうにも我慢が出来ず。マリアンヌさんから旅の餞別に貰った鉄筒の魔導具(マジックアイテム)を開けて、中に入っている水をゴキュ、ゴキュと喉を鳴らし飲んでいく。


「──ふぅ、冷たくて美味いっ」


 今アタシが取り出したこの鉄筒の魔導具(マジックアイテム)は、マリアンヌさんの説明通り筒の中に入れておいた水が汲み上げた冷たさのまま、全く温くならない効果がある。


 貴族や大きな都市には、食材を冷やして保存したりする魔導具(マジックアイテム)があったり氷魔法を使える立場なら、たいした効果ではないと勘違いするだろうが。

 案外、旅人の中には水袋から水を飲んだ時の、人肌に温くなったり。水を入れる革袋の革の匂いがついた水がもたらす気持ち悪さを気にしている人も、案外多かったりする。

 それに何よりも、身体が汗ばむほどの灼熱の砂漠で。冷えた水を口に出来るのが、どれほど旅の活力を(よみがえ)らせることになるか。


「……冷たい、だって?」

「ああ、一口飲んでみるかい」


 アタシが鉄筒から水を飲んで、至福の表情を浮かべているのを怪訝そうな顔をして見ていたオログやアビーにも、鉄筒に入っている水を一口ずつ分けてあげることにした。

 この魔道具がどれだけ凄い発明なのかを、身をもって理解してもらおうと思って。


「ん……うお! 持ち運んでた水がこんなに冷たい、だと?」

「お、おい姉ちゃん! この筒売ってくれ! シルバニアので悪いが金貨一枚出す! そ、それじゃ不満か?」


 商人である二人が大きく目を見開きながらアタシの持つ鉄筒を見て、腰に下げた革袋から金貨を取り出す様子を見ていたアタシは思わず心の中で叫ぶ。

「マリアンヌさん、この魔道具は売れる!」と。

 まあ……さすがにこれは旅の餞別だから、いくら金を積まれても売るわけにはいかないので。


「悪いねぇ、コイツは金じゃ売れないんだよ」


 代わりといってはなんだが……仕入れ先としてランドルとグレイ商会の名前を出しておいた。

 何にも出来ず、ただ世話になっただけで。

 国を出て行く最後に迷惑まで掛けてしまったランドルに。これで少しは恩義を返せただろうか。


1章のシルバニア王国は、これといったモデルのない中世ファンタジーやRPGにありがちな雰囲気の国ですが。

2章の舞台となるアル・ラブーン連邦国は、古代エジプトをモデルに、部族ごとの自治が強い感じはモンゴル辺りの遊牧民を足して2で割ったところにインカ帝国を隠し味にした感じの国をイメージしています。


あと「鉄の筒の魔道具」と書くとわかりにくいですが、ぶっちゃけ保温機能のついた水筒です。

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