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12話 アズリア、再び海賊に剣を向ける

「……うっひょお、ユーノのヤツ……アタシから頼んだとはいえ、まさか真っ向からあの鉄球を撃ち返すとはねぇ」


 アタシは、背後の船へと撃ち放たれた四発の鉄球が、本気の姿(モード・アイゼルイェーガ)になったユーノの鉄拳と衝突し、跳ね返される様を海を駆けながら眺めていた。


 いや、まさか。

 ユーノの実力ならばあの鉄球を防いでくれる確信まではあったが、鉄拳で殴りつけて海賊船に撃ち返す芸当が出来るなどとは思ってはいなかった。

 ……ユーノ、恐るべき。


 前方へと視線を戻すと、船へ向かってくるアタシを出迎えるために、海を駆け間近に迫った海賊らの旗艦から海へと降ろされた、複数の小舟に乗り込んでいた海賊らの姿であった。

 海賊の連中もまた、自分らが放った直撃すれば船を破壊する威力の攻城兵器級の攻撃を、まさかユーノただ一人に通用せず防御されるどころか、鉄球を弾き返されるのを見て動揺するのを隠せずにいた。


「な、何だんだよあいつは……砲撃を弾き飛ばすなんて初めて見たぞ……」

「お、落ち着けって、オレたちの相手はあいつじゃねえ、一人でこの人数に向かってくる馬鹿女だ」


 と、海賊連中は船上で扱う事を前提とした、曲刀(カトラス)手斧(ハチェット)のような軽めの武器を構えながら。

 アタシを指差し、嘲笑(あざわら)う台詞を言い放つことで、ユーノの仕業(しわざ)で減衰した士気を何とか保とうとしていたのだが。


 ……まあ、元々レイチェルとの約束で海賊連中を一人として生かして帰すつもりはなかったのだが。

 連中のその態度と耳に拾うことが出来た言葉は、アタシを焚き付けるには充分過ぎた。


「……ははっ、つまり連中はアタシを弱く見積もってるってワケかい────舐めるんじゃないよッッ!」


 アタシは右眼の筋力増(ウニョー)強の魔術文(ルーン)字からの魔力を、身体中に張り巡らせていき足底に張った氷を……蹴り抜く。

 普通であれば、氷を踏みながら脚に力を込めれば滑って転びそうなものだが、アタシのつま先に刻まれた魔術文(ルーン)字から生成された特殊な氷だからか、その心配はないようだ。


 奴らの搭乗()る小舟の一隻に、両手で握った大剣を肩の上へと構えながら、さらに速度を増して猛然と突進し接敵していくアタシ。

 舟に乗った海賊らが、一瞬で距離を詰められたことで呆気に取られて慌てていたが、連中が体勢を整える前にアタシは先制の一撃を放つ。


「────うおおおりゃああぁぁあッッ!」

 

 勇ましい雄叫びと共に構えた大剣を横薙ぎに振り抜いていく。

 少し前までは力任せだったが、コーデリア島で剣鬼モーゼスからみっちりと仕込まれ……そして見いだせた、アタシに最適化された大剣の扱い方。


 その刃が舟の上に立ち並ぶ海賊の腹へと喰い込んでいくが、大剣を握るアタシの手には何の抵抗もなく、一人目の上半身と下半身を両断していくと。

 続けて背後に立っていた二人目、そして一人目の海賊の横に並ぶ三人目の腹をも斬り裂き、ようやく(うな)りをあげて次々と生命を刈り取っていった大剣、その剣閃は止まる。


「……う、うわああぁああっっつ⁉︎」


 最初の男の両断された上半身が海に落ち、舟に残された下半身と、腹を斬り裂かれた二人の傷口から盛大に真っ赤な血が噴き出し。

 舟の上は一転、血の海と化し、アタシの攻撃の餌食にならなかった海賊らが恐怖の声を上げ、手に握っていた武器を落としてしまう。

 この反応を示した人間が次に取る行動、それは「逃げ」だ……普段であれば、わざわざ戦意を喪失した人間の背中を襲う真似はしないのだが。


 連中には残念な事に、今のアタシはレイチェルから「母親の仇である海賊を皆殺しにしろ」と依頼を受けている以上、たとえ恐怖に怯えて背中を向けたからといって見逃すつもりはない。


 アタシは小舟に迫った速度とは対照的に、アタシが殺した海賊らから噴き出した血で真っ赤に染まる小舟に乗り込み、同じく返り血を浴びた大剣を構えながら。

 ゆっくりと怯える連中に近寄っていった。

 

 徐々に歩を詰めてくるアタシから逃げるように、身体を恐怖で震わせながらも小舟の後ろへ後ろへと移動していくが。

 いよいよすぐ背後は海と、後が無くなってしまった。

 

 ただの相手ならばこのまま海に飛び込み、背後に控える母艦である海賊船や、アタシを迎え撃とうとした仲間の小舟へと泳いで逃げたのだろうが。

 連中が間近で見ていたように、海の上を歩くことの出来るアタシの機動力に泳ぎで勝てるわけがない。


 加えて、海賊らが乗っていたほか二隻の小舟も、仲間である海賊がアタシに惨殺されているのを目の当たりにしながら救援に向かってくる気配はまるでなかったのだから。


 目の前の連中の逃げ場は絶たれたのだ。


「……ま、待て、待てよあんた、お、オレたちはまだ掠奪も殺しもしてないってのに、た、ただ砲撃したってだけで……な、何でここまで……」


 逃げることを諦め、舟の(へり)に座り込んでしまった三人ほどの海賊が、片手を広げながらアタシへ向けて命乞いを始めてくる。

 だが、もちろんそんな言葉に耳を貸す筈もなく、アタシは構えた大剣の刃を命乞いをする男の首筋へとピタリと当てていく。


「確かにねぇ、アンタらはまだ(・・)海賊行為を働いちゃいない……だからここまで反撃されるのはお門違いだって言いたいワケだね?」


 と、一旦首に当てた大剣を引っ込めていくアタシだったが。

 その反応に命乞いを聞き入れて貰えたと安堵した表情を浮かべた海賊の胸板へ、一度引っ込めた大剣の切先を突き刺していった。


 信じられない、という顔をアタシに見せながら、口からゴポリ……と泡混じりの血を吐き出していく海賊に向けて。


「馬鹿だねぇ……それで殺された商船の人間が納得してアンタらを許すとでも思ったのかい?」


 武器を持った護衛はともかく、武器を持たないレイチェルの母親を含む人間のほとんどを躊躇(ちゅうちょ)なく殺害するような連中だ。

 それにもし、レーヴェンらの商船にアタシらが遭遇しなかったとしたら、たとえ二人が立て(こも)った船室をどうにか出来なかったとしても、積荷を強奪し終えた後に船に火を放ち、二人は商船ごと海の藻屑となっていただろう。

 そしてこの連中はきっと、今までも同じような掠奪行為を行ってきたのだろう。

 ならば、アタシが情けを見せる義理はない。


「……ひ、ひいいいぃぃぃ……た、たす、助けてっ……」


 絶命した男の胸板から抜いた大剣を、無駄な命乞いを繰り返しながら、隣り合った者同士で身体を寄せ合う二人の海賊へと振りかぶっていく。


「アンタらが許されるのは、今まで殺してきた人間と同じようにアタシに殺されるコトだけだよ……覚悟するんだねぇ」

 

 そして、一閃。

 

 アタシが大剣を振り抜くと同時に、目の前の二人の海賊の頭部が恐怖で目を見開いたままで空を舞う。

 そして驚くべきは、堅い首の骨を両断し二人いっぺんに首を刎ねたにもかかわらず、大剣を握る両手には今までの時のようにゴリッ……とした堅いモノに当たり、続けて何かを砕く感触を感じなかったのだ。

 さすがは大地の精(ノウム)霊が鍛え直してくれた大剣だとアタシが感心していると。


 残り二隻の小舟は、アタシから逃げるように急いで母艦である海賊船へと戻ろうとしていた。

 どうせ逃したところで、海賊船に乗り込んだら全員残らず大剣の錆にしてやる予定なのだが、だからといってむざむざと逃げられてしまうのは(しゃく)に触る。


「……武器を持たない人間にゃ刃を向けるのに、アタシにゃ背を向けるのかい。だから海賊とか野盗といった連中は気に食わないんだよッ!」


 アタシは再び海面に氷を張り、海賊連中の乗る小舟を追撃することにした。

 

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