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11話 ユーノ、砲撃との真っ向勝負

 続く砲撃を敵船に撃ち込むために、まだ白煙を空いた口から立ち昇らせる鉄筒に、次に発射するための鉄球と火薬を装填(そうてん)しようとした海賊の一人が。

 海面をもの凄い速度で走り、自分らが搭乗する大型船へと接近してくる人影を目にして。


「か!か、(かしら)あぁ?……や、奴らっ、海を走ってきやがってるっっ!」


 海面を指差しながら驚きの声を上げる。

 その声に、接舷してから相手の船に乗り込むために待機していた海賊らが次々に船の(へり)へと集まってきて。

 大剣を構えながら海の上を走る女戦士(アズリア)に視線を集めていく。


 低い位置で空を飛んだり水上を歩く魔法というのは、確かに存在する。しかも先行部隊を退けた連中だ、それくらいの魔法の使い手がいる可能性だってもちろん考えないほど、海賊らも馬鹿ではなかった。


 連中が驚いていたのは、海賊船(こちら)へ向かってきたのが女戦士(アズリア)単騎だった、ということなのだ。


「へっ……あんなデカい剣を構えたところで相手はたった一人じゃねえか!」

「そうだ、オレたちが一体何人いるんだか理解出来てねえのか?」


 海賊の戦力はおよそ50人。

 しかも海賊の頭領の座に就くヘイゼルは、自分らを拿捕しようとしたニンブルグ海を取り締まる海軍を返り討ちにしその軍船を強奪して、旗艦に添えてしまう程の女傑である。

 それをたった一人で相手にしようと挑んでくるのだから、海賊らの反応は至極当然とも言える。


 そしてそれは、頭領であるヘイゼルも同様であった。

 彼女もまた嘲けるような軽い口調で、単騎で突入してくる無謀な犠牲者を一目見ようと甲板(かんぱん)へと集まった連中に指示を出していく。


「ほらほら、単騎で向かってくる馬鹿はアンタらで丁重に出迎えてやんな!……いつまでも馬鹿を見てないで、砲撃手はあと二、三発は火砲(カノン)をブチ込んでやるんだよっ!」

『────へいっ、お(かしら)っっ‼︎』


 女頭領ヘイゼルの掛け声を合図に、集まった海賊連中は蜘蛛の子を散らすように再び自分の役割へと戻っていく。


 船に積んでいた上陸用の三隻の小舟に数人ほどで乗り込み、海上を走る女戦士の迎撃に。

 砲撃手は鉄球や火薬の装填を終え、火砲(カノン)が使える準備を整えると、一度ヘイゼルの合図を待ち。

 彼女が上げた右腕が前方に振り下ろされると。


「──撃てぇぇぇぇっ!」


 敵船に向けられて並ぶ四門の火砲(カノン)が再び、耳をつん裂く爆発音を響かせながら火を噴き、鉄筒から発射された鉄球が勢いよく放たれる。


 先程は小柄な少女の待ち構える海賊船まで、二発が届かずに盛大な水柱をあげて海に落下したが。

 その結果を見て、砲撃手が鉄筒の微妙な射角を調整し直して撃ち込まれた四発の鉄球は、今度は海に落ちずに少女(ユーノ)の立つ海賊船へと迫る。


 ◇


 再び、四発の鉄球が空を切りながら飛来する。

 だが、ユーノは一歩も退()かなかった。


 もちろんあの鉄球でこれ以上、自分らが立っている海賊らが捨て置いていった船を壊されないようアズリアから頼まれたというのも理由だが。

 ユーノにはもう一つ、如何にも彼女らしい理由があった……それが。


「わくわくっ……ボクの鉄拳とあのてつのたま、どっちがつよいか、しょうぶだよっ!────鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)あああっ!」


 海賊との戦闘がひと段落した時に解除していたユーノの戦闘形態を、鉄球に対処するために再び発動させ。

 彼女の両腕に大地の魔力が凝縮していくと、魔力が黒鉄(くろがね)の巨大な籠手(ガンドレッド)へと物質化し、装着されていく。


 自分の得意戦術である「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」で両腕に纏った巨大な籠手(ガンドレッド)、そこから繰り出す巨大な鉄拳の威力とあの鉄球、果たしてどちらが強いのかを試してみたかったのだ。

 

 すぐに空気を切る(うな)り声を立てて迫ってくる鉄球に照準を合わせ、一度息を大きく吐き出していくと。 


「どぉぉっせえいいいいぃぃっっ!」


 大きく振りかぶった石巨人(ストーンゴーレム)のような巨大な拳を、雄叫びと共に鉄球めがけて撃ち込んでいく。


 ────グァキイィィィイイインン‼︎


 ユーノの巨大な拳と砲撃による鉄球が真正面から衝突し、激しく鳴り響いた金属同士の衝突音とともに。

 僅か一瞬の間ではあったが、空中で威力が拮抗しユーノの鉄拳と鉄球が、衝突した体勢のままでピタリと動きを止めてしまっていたが。

 鉄球の威力を完成に把握し、自分よりも格が下であることを身を以って判断すると、ニヤリと口角を広げて笑みを浮かべ。


「こんなモノだったんだね、それならっ……でやああああぁぁぁっっ!」


 時が動き出し。

 ユーノが巨大な鉄拳とその腕を完全に振り抜いていくと、競り合っていた筈だった鉄球は先程までとは真逆の方向へ、放たれた勢い以上の速度で火砲(カノン)の並ぶ海賊船へと飛んでいった。


「ほ、砲弾が返ってきやがっただとお?」

「う、うわぁああっ⁉︎……に、逃げろおおお?」


 跳ね返され、唸りをあげて迫る鉄球に恐れを為して、火砲(カノン)の周囲から逃げ出していく海賊ら。

 さすがに鉄球が海賊船に命中することはなく、海に落ちた鉄球は盛大な水柱をあげる程度で済んだのだが。

 

「ちぇぇっ、ざんねんっ!……でもまだまだうちかえしていっちゃうからねっ!それそれそれっ!」


 そう。

 ユーノのいる船に発射された鉄球はあと三発もある。全員が同時に撃ち込んだのではなく、四発の鉄球が着弾するのはかなりの時間のズレが生じていたため。

 到達した順にユーノが腕を振るって、その拳で鉄球を海賊船へと撃ち返していくのだった。


 次こそは命中させる、と意気込みながら。

 

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