表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
486/1782

9話 アズリア、そして海竜の女傑

「姿が見えてると連中が向かってくるかもしれないから、出来ればあの()と一緒に船室にいてくれないかい?」

「……いや、それは出来ない」


 レーヴェンに、生命を投げ打ってまで守ろうとした一人娘(レイチェル)を連れて安全な場所まで退避してもらおうと促すアタシだったが。

 二人はそれを(かたく)なに固辞していく。


「君たちがあの海賊らに数の不利を承知で挑む状況を作り出したのは、私だ。その私が君たちか戦ってる間、部屋で怯えているなんてカッコ悪い真似……娘やこの()の母親には見せられないさ」

「私も、お父様と同じ意見です……アズリア様、ユーノ様、どうかご無事で……」


 金持ちの人間は、こういった状況になると安全な場所へと引き()もり、荒事専門の人間に事態の収集を任せがちなものなのだが。

 なるほど、このレーヴェンという貿易商はそうおった連中とは一味違う心意気の人間のようだ。

 

「ねえねえお姉ちゃん、ボク……ユーノ様、なんてよばれちゃったよ、えへへっ」


 どうやらレイチェルに「様」付けで呼ばれたことに、ユーノも満更(まんざら)ではない様子だった。

 まったく……魔王領(コーデリア)にいた時は配下の魔族らから「ユーノ様」って呼ばれてたろうに。


 そんな浮かれたユーノの髪をわしっと強めに撫でていき、アタシは商船から接舷している、連中が捨て置いていった海賊船へと移動していく。


 こちらへと迫り来る、さらに大型の海賊船を迎え撃つために。



「……ほぅ。で、お前らはその、たった二人の女に襲撃隊を壊滅させられ、さらに船まで捨てて逃げてきた、っていうのかい……」


 ここは、このニンブルグ海域一帯を根城にしている海賊「海竜(シードラゴン)団」の旗艦である、海神の怒り(ネプティス)号。

 海軍が有する大型の木造帆船にも引けを取らない頑丈な構造となっているため、普段はもう一隻ある小回りの効く中型の帆船で襲撃を行っていたのだが。


 その海賊団を取り仕切るのが、海に漂っていたところを拾い上げたあの海賊どもを甲板(かんぱん)へと(ひざまつ)かせ、乱暴な口調で問い詰めていた女であった。

 海風に揺れる長い赤銅色(カッパー)の縮れた髪、高価そうな服装を動きやすいよう袖などを切り裂いたり、短く折り畳み。腰には二本の長剣(ロングソード)を挿しているその女性。

 その顔には刃物による傷痕が二本ほど走り、海賊を仕切る立場の人間であるという迫力をいや増していた。

 

「……い、いえ(かしら)ぁ……その女ってのが、とんでもなくデカい武器を振り回す、やたらと腕の立つ女だったんで──ひぃぃ⁉︎」


 必死になって弁明(いいわけ)を続ける男を、「黙れ」という意味を込めてぎろりとひと睨みし、甲板(かんぱん)へと踵を落とし木床を踏み揺らすと。

 小さな悲鳴を上げて口を閉ざし、甲板(かんぱん)に額を擦り付けながらびくびくと震え出していた。


 女の名はヘイゼル。


 元々はレーヴェンと同じく、このニンブルグ海で貿易商を営んでいた裕福な家に生まれた少女だったが、彼女が成人を迎えた直後に海賊に襲撃され商船と家族を失ってしまう。

 生き残った彼女は復讐のため、海の魔物や荒くれ者らに混じって密かに腕を磨き、果ては家族を破滅に追いやった海賊を壊滅させたのだが。


 そんな彼女は、同業者らが好んで使用する海路や交易に立ち寄る港街の正確な位置など、父親譲りの知識を武器にニンブルグ海を荒らし回り。

 ……気が付いてみると。

 帰る場所のなかった彼女は、かつては自分が激しく憎しみを抱いた海賊の、しかも頭領の座に収まることになっていたのだ。


「さて……と。これから俺たちはアンタらの尻拭いをしなきゃならねぇから、忙しい俺らに変わって……アンタらの始末は海の魚たちに代わってもらおうかねぇ────おい連れて行きなっ!」


 そんな頭領のヘイゼルが、せっかく拾い上げた仲間である海賊連中に下したのは死刑宣告だった。

 何しろ船を丸々一隻失った上に、生存者を逃したのだ。じきにこの海域に海軍が大挙して押し寄せてくるかもしれない。

 周囲でこの遣り取りを見ていた海賊連中も、ヘイゼルの判断に異議を唱える者は誰一人としていない。

 

「ま、待って下さいお(かしら)っ⁉︎……も、もう一度っ、もう一度だけ挽回する機会をっ……」

 

 当然ながら死刑と断じられた海賊らは、つい先程胸ぐらを掴んだ女戦士(アズリア)にした時と同じく、必死になって木床に頭を擦り付けながら命乞いを始める。

 そんな海賊の男の髪を掴み、無理やり引き上げた頭に睨みを利かせながら顔を近づけていき。


「──死にたくないなら死ぬ気で働きな」


 先程まで発していた声よりも一段低い声で、男の心へと「恐怖」という名の(くさび)を打ち込んでいく。

 多分返事をしようと声を出そうとしたのだろうが、ヘイゼルの迫力と自分の生命が皮一枚繋がったことで緊張の糸が切れてしまったのだろう、身体を震わせながら無言のまま首を何度も縦に振る男。


「さあ野郎どもっ!まずは火砲(カノン)の準備だ!奴等の船に乗り込む前に大きな穴を空けて、連中の顔を青ざめさせてやるんだよっ!」

『────へ、へいっお(かしら)っっ!』


 同時にヘイゼルの言葉は、周囲で男の行く末を薄ら笑いを浮かべながら他人事のように眺めていた海賊連中に緊張感を走らせるには十分だった。


 ヘイゼルの指示に、皆が駆け足で決められた位置に着き、船内から「火砲(カノン)」と呼ぶ、車輪の付いた大きな鉄の筒を数人がかりでアズリアらが乗る商船側に向いた船の(へり)へと運搬していく。


 ──火砲(カノン)とは。

 火を着けると激しく燃え上がり激しい音と共に爆発を起こす「火薬(かやく)」とか「炸薬(たまぐすり)」などと海軍で呼ばれる黒い粉の威力を利用して大きな鉄の塊を発射する、投石器(カタパルト)大型弩(バリスタ)のように城壁や城門を撃ち破るために使用される攻城兵器の一種だ。


 別の海賊がその巨大な鉄の筒に、人間の頭ほどもある鉄球と、そして黒い粉を装填(そうてん)していくと。


「準備出来やした、いつでも撃てますお(かしら)っ!」

「よし────全弾撃ち込めえぇっっ!」


 (へり)にズラリと並べられた合計四本の鉄の筒の先端が火を噴き、先程筒に装填(そうてん)した鉄球がものすごい勢いで筒から撃ち出される。


⬛︎火薬について

今回登場した「火薬(かやく)」、つまり黒色火薬ですが。

海の王国(コルチェスター)には火山島が数多くあるために、硫黄の産出には事欠かず。

また硝石(硝酸カリウム)は、海に無数に生息する海藻を焼き、酸で反応させることで生成が可能です。この世界では硝石という名前ではなく、あくまで木炭と硫黄の触媒扱いですが。


現在、ラグシア大陸では硝石の産出は東の大国の一つ・機械帝国ロータス以外では行われていないので。火薬を使用する武器は海の王国(コルチェスター)とロータス帝国以外では見ることはありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ