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4話 ユーノ、大暴れ

 海賊「海竜(シードラゴン)団」はいつものように獲物となる商船を探して、この付近の海を航海していたところ。

 その網に引っかかった哀れな商船に接舷し、積荷の一切を掠奪していた最中であった。


 もちろん掠奪行為は軍隊に発見されようものならその場で処断されるか、捕まって陸に連行され見せしめに処刑されるかの二択だ。捕まるわけにはいかない。

 船に残っていた連中が、周囲に自分らを取り締まる軍隊の船が接近しないか、鉄の筒に特殊加工した硝子(ガラス)をはめ込みより遠くを見通せる効果を持たせた魔導具(マジックアイテム)を持って見張りをしていたが。

 

「お……おい……あれ……?」


 見張り役の一人が思わず声を上げたのだ。


「何だ、軍隊の船でも見つけたか?……それとも次の獲物になる船でも見つけたか?」


 何かに驚いていたので、周囲にいた連中は何らか船を発見したのかと思い、見張りの男が見ていた方向へ目線を送るが、船影などは見られなかったので。

 不思議に思い、見張りの男を問い詰めようとしたその時だった。


「おい、何を勿体ぶってやがる。さっさと────」

「どおりゃあああああああああっっ!」


 不意に空から舞い降りてきた人影が、まさに今話しかけようとした見張りの男が吹き飛ばされ、背後の海へと叩き落とされたのだ。


 何が起きたのか、理解を超えた事態に海賊らが呆気に取られていたのは僅かばかりの時間だったが……それは突然現れた人影が、その場にいた五人ほどの海賊を蹴散らすには充分過ぎる時間だった。

 何しろその人影とは。

 西の魔王配下の「鉄拳」の二つ名を冠する実力者なのだから。

 

 ようやく正気に戻った男が周囲を見ると、見張りの男も一緒にいた仲間らも誰一人その場からいなくなり。

 人影……巨大な鉄の両腕を装着した活発そうな少女に対峙しているのは、その男一人だけであった。

 それでも何とか動く身体で自分に取れる最善の行動は何か?と判断した結果が。


「……て、敵襲だっ!敵襲だああああああ!」


 接舷させた商船にいる大半の戦力に、この敵襲を大声で知らせることであった。

 警告のために大声を上げた男は、少女(ユーノ)が振るった巨大な拳が直撃し、他の連中と同じように口から血反吐(ちヘド)を撒き散らしながら海に落ちていったが。

 男の行動が功を奏したのか、襲撃を告げる声を聞いた商船側の海賊が大挙して自分の船を守るために戻ってきたのだ。


 その人数、およそ30人ほど。


 だが、海賊船に飛び移った少女……ユーノは()る気を(みなぎ)らせ、「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」で生み出した籠手(ガンドレッド)を装着した両腕の鉄拳をガチン、ガチンと打ち鳴らしながら。

 自分に敵意と殺意を剥き出しにし、武器を抜いた30人ほどの海賊たちを右から左に眺めていた。

 

 一方で、海賊船の甲板(かんぱん)に立っていたユーノを取り囲む海賊連中はというと。

 まだ接舷していた商船から積荷を運び出す前だったので苛立ちを顔に出している反面。

 敵地に単身で乗り込んで、余裕の態度を見せていた少女があまりに不気味すぎて手を出しあぐねていた。


「敵襲っておい、相手は一人……しかも子供じゃねえかっ!」

「船にゃ見張りに五、六人は置いておいたはずだぞ、まさか全員やられたってのか?」

「おい、こんな女の、しかも子供(ガキ)に稼ぎが邪魔されたとか(かしら)に知られたら……」


 その瞬間だった。

 突然、取り囲んで逃げ場のないはずだったユーノの姿が海賊たちの視界から消える。

 もちろん慌ててユーノの姿を探そうと辺りを見回す海賊たち。


 その目に映ったのは、ユーノを「子供(ガキ)」と呼んだ海賊が立っていたその位置にいつの間にか移動していたユーノの姿と。

 ユーノの鉄拳をまともに喰らい、船の(へり)に激突しそのまま(へり)の木の板ごと海に落ちていく海賊の姿であった。


「……な、は?……はああ⁉」︎

「ボクこどもじゃないし、ガキでもないもんっ!」


 どうやらユーノは、自分を「子供(ガキ)」呼ばわりした男を最初の目標に定め、鉄拳を放ったのだ。

 飛竜(ワイバーン)すら一撃で葬る威力のあるその鉄拳を。


 現に海に落ちた海賊ら数名は、誰一人として水面に浮かんだままピクリとも動いていなかった。

 それを目の当たりにした海賊らは、完全に腰が引けてしまっていた。


 それもその筈だ、彼らが海賊行為を行うのは常に自分たちよりも弱い立場からだけであり、自分たちより強い相手に対峙する心構えなど最初から持ち合わせていないからだ。

 ……ここが陸地なら背中を見せて逃げ出していただろうが、あいにくと此処は海の上であり、陸地が見えないこの場所で移動手段を捨てて逃げることなど出来ないし、許される筈がなかった。


「……ち、ちくしょうがぁぁっこのバケモノめっ!」

「うおおおっ!くたばりやがれっっ!」


 だから、海賊連中に出来るのは。

 目の前のユーノとの圧倒的な実力差があると知りながら、無謀な特攻を繰り返すことだけだった。


 連中が好んで使う曲刀(カトラス)を、ユーノは身体を素早く動かして避け、あるいは両腕の巨大な籠手(ガンドレッド)で刃を受け止めていく。

 少しばかり魔法の心得がある連中が、自分たちへ基礎魔法(コモンマジック)身体強化魔法(ブースト・エンチャント)を発動させていくが、その程度の効果でユーノに対抗出来得るはずもなく。


 ユーノが拳を一度振るうごとに、周囲に群がった海賊が一人、激しい勢いで背後に吹き飛ばされて戦線を離脱していった。

 吹き飛ばされた連中の結末は、海に落ちたり甲板(かんぱん)に転がっていたりと様々ではあったが。その誰一人として戦線に復帰してくる者はいなかった。

 

 自分らの陣営が一人、また一人と人数を減らしていき、気付けば30人ほどいた人数は片手の指で数えられるほどにまで減少してしまっていた。

 そんな海賊の一人が、何かを思いついたのか意地の悪い笑みを浮かべると。


「お、おいっ、こんなバケモノ相手に普通に戦って勝てるわけねぇ!……人質だっ!商船に乗ってた連中を人質に取っててめえの立場って奴を教えてやるぜっ!」


 あまりに非人道的な手段を誇らしげに語りだす海賊の一人に、残っていた連中も称賛の声を上げ、全員がユーノに背を向けて商船と接舷させている橋代わりの木板へと駆け出していく。


「そんなひきょうなまね、ボクがゆるさないんだからねっっ!うりゃりゃりゃああっ!」


 もちろん、それを手を(こまね)いて見ているユーノではない。

 獣人族(ビースト)や魔族として今の今まで生きてきたユーノに、人間を人質にしたところで罪悪感や躊躇(ちゅうちょ)は生まれないが。「人質を取られる」という経験は神聖帝国(グランネリア)との戦いの最中に経験していたユーノは。

 それが卑劣な作戦だという認識はあったからだ。


 獣人族(ビースト)ならではの瞬発力を見せて、背中を向けた海賊ら数人との距離を一気に詰めたユーノは、その背中に向けて鉄拳を放つ。

 当然ながら海賊らは、背中に目が付いている筈もなく為す(すべ)なしに吹き飛ばされていくが。


 どうやら一人だけ、海賊仲間を肉の壁にしてユーノの鉄拳から逃れた海賊がいた。


「ひゃ……へへへっ!生き残った!生き残ったぞお!ここからだ、人質さえ確保出来ればオレとあのガキとの立場は入れ替わる!」


 商船に繋がる木板を渡ろうとする男だったが。

 次の瞬間だった。

 

「……へっ?うわああああああああああっ⁉︎」


 何が起きたのか、という表情を浮かべたまま。

 形勢逆転を確信していた海賊は哀れ、海へと転落してしまっていたのだ。

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