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2話 アズラウネのおさんぽ

 ロッカを助けた出来事がきっかけとなり。

 アズラウネは、村で一目置かれる存在になってしまったわけだが。


 当の本人であるアズラウネはそんな村人らの態度などあまり気にする様子はなく、変わらずに食事である日差しをめいっぱい浴びるために。

 改築し、見違えたように立派な姿になったエルの教会から離れ、村近くにある原っぱにやって来ていた。


「ふわぁ……おひさま、きもちいいよお」


 両手を広げた体勢で、そのまま草むらに仰向けに身体を倒して寝転んでいくアズラウネ。

 パッと見てわかる頭の上にある真っ赤な花が、日差しを受けて大きく開く。


 日差しを浴びて満足しているのか、口をだらしなく開いて緩みきった表情を浮かべていた。


 そんなアズラウネの様子を、木の幹に身を隠しながら視線を送る複数の人の気配。

 その人間らは、教会でアズラウネと一緒に生活している子供たちでもなければ、ホルサ村の住民でもない。

 送る視線の種類も、日差しを浴びているアズラウネを見守るようなモノではなく、森や山に入る猟師が獲物に向けるそんな視線だった。


 その複数の人間らは、まだアズラウネにその気配を察知されていないのを確認してから、言葉を投げかける。


「……おい、本当にアレが妖人草(マンドラゴラ)なんだろうね、レバーナ」


 そう声を発したのは、浅黒く日焼けし筋骨隆々とした肌を惜しげもなく露出している。

 だが、その頬には焼き印が施されていた女性。


「ああ間違いない。見ろ、あの娘の頭に咲いているを……第一ラリス、お前は頭から花を咲かせた人間がいるとでも?」

「何だい、先に確認しておいただけだろ?なあ、グラッセ」


 レバーナと呼ばれる緑色の頭巾付きの(ローブ)の男は、草原で無防備に寝ているアズラウネを妖人草(マンドラゴラ)と勘違いしているようだ。

 実際には、擬人化した妖人草(マンドラゴラ)が頭に咲かせる花の色は真っ赤ではなく黄色なのだが。


 ラリスに話を振られた、横に控えていたグラッセという名の獣人族(ビースト)は口に指を当てて。


「……しっ、静かに。いくらあの妖人草(マンドラゴラ)がこっちに気づいていないからって、言い争ってたら気付かれちまうぞ二人とも」


 だが、グラッセの諌める言葉も二人には通じなかったみたいで、レバーナとラリスが互いを指差しながら愚痴を言い始める。


「大体、いつもいつもリーダーは細かいんだ」

「大体、いつもいつもラリスが大雑把だからだ」

 

 すると、レバーナが身を隠していた頭上。枝葉が生い茂る木の上に待機していた全身黒装束に身を包んだ人物が警告を発する。


「不味いでござる……今ので、目標がこちらに感づいたようでござるよ。レバーナ殿、ここは一旦退くが懸命かと」

「な、何だと?……ほ、本当か?」


 慌てて口を塞ぎ、樹の幹に身体を隠してソッと顔を覗かせ、先程まで寝転がっていたアズラウネを確認すると。

 アズラウネは草原から身体を起こして、確かにレバーナらが身を潜めている方向へと、眉間に(しわ)を寄せて見ている。


「……んー、だれ?……える?それとも、ざっく?」


 明らかにこちらを警戒している様子だ。


「……どうやら騒ぎ過ぎたようだな、よし。今日は一旦撤退して明日以降に妖人草(マンドラゴラ)を捕獲す────」


 木の上から警告を発してくれたオボロに素直に従って、アズラウネを捕獲する計画を延期し、この場から立ち去ろうとしたレバーナら三人だったが。

  

 ……パキッ。


 大雑把、とレバーナに酷評されたばかりのラリスが地面に転がっていた枝を踏み折ってしまい、枝が折れる乾いた音が鳴る。


 と同時に、アズラウネは開いた両手をペタンと地面に付けると、力ある言葉(ワード)を口にする。


「あやしいっ────つるでしばれ(ソーンバインド)


 アズラウネの魔力が地面に送り込まれ、その魔力に呼応するように地面から無数の(つる)が、逃げ遅れたレバーナら三人の足元から伸びてくると。

 そこから飛び退く間もなく、三人の脚に絡み付いた(つる)は脚から腰、胴体を拘束していく。


 腰から二本の剣を抜いて両手で構えるグラッセは、自分の脚に絡まる(つる)を剣で切り裂き、その場から逃れようとする。

 また、レバーナは自分を拘束した(つる)に向けて無詠唱で「風の刃(エアスラスト)」を発動させると、巻き起こる風に触れた(つる)が切断されていく。

 

「……ぐっ、さ、さすがに至近距離で『風の刃(エアスラスト)』を使えば多少傷はついてしまうか……」


 もちろん効果範囲内にあった(つる)だけではなく、レバーナ自身の脚や(ローブ)も数本の切り傷が刻まれており、脚の切り傷からは血が滲む。


「な、なんだいこの(つる)はぁ……くそぉ!身体に絡みついてきやがる……ぐ、み、身動きが……と、とれねぇ……ち、ちくしょうがっっ!」


 だが、(つる)を切断する手段を持たない拳闘士のラリスは足元から伸びる(つる)の拘束から逃れることが出来ず。

 二人が何とか逃げ(おお)せるのを横目に、アズラウネが生み出した(つる)で瞬く間に拘束されていってしまう。


「────ラリス殿、助太刀いたす!」


 ラリスが完全に(つる)に拘束されるのを防いだのは、木の上から投擲された何本もの投擲用の短剣だった。

 的確に放たれた短剣は、ラリスの身体に絡み付く(つる)を見事に切断していき、ラリスを束縛から解放していく。


「た、助かったよオボロっ!」

「礼は後ほどでござるよラリス殿、先ずは撤退を優先してくだされ!」


 結局のところ四人の不審者らは、アズラウネが使った「つたよしばれ(ソーンバインド)」から逃れ、この場から一目散に逃げ出したのだった。


 そんな四人組の背中を、追撃をすることなく見送っていたアズラウネは不思議そうに見つめて。


「……あれ、だれだったんだろ?むらにかえったらえるにきいてみよっと」


 ちょうど陽が落ち始め、日差しが陰ってきた頃だ。

 アズラウネは食事を終えて、夕刻に向けて食事の準備をする子供たちのお手伝いにと、教会へ帰っていくのだった。

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