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160話 アズリア、魔王領に別れを告げる

 アタシは今、船を漕ぐ(かい)ではなく、進路を決める船の(かじ)を握って海を進んでいた。

 とはいえ、帝都から少し離れた港を離れた程度で、まだコーデリア島へは海に飛び込んで泳いで帰り着ける程度の距離しか離れてはいなかった。


「……魔王サマに無理やり召喚されたコーデリア島だったけど、あれから……色々と遭ったねぇ……」


 アタシは横目で離れていく島の海岸線を見つめながら、島に滞在した一月の間に起きた出来事を頭に思い浮かべていた。


 魔王様(リュカオーン)との決闘。

 大地の宝珠(クリスタル)と、それを覆う軍神の加(ティール)護の魔術文字(ルーン)

 老魔族モーゼスから剣技の手解き。

 鍛治師でもあった大地の精(ノウム)霊との出会い。

 そして……セドリックという謎の存在。


「……結局、あのセドリックってのは何だったんだろうねぇ……バロールやアディーナを見てると、凄い力を持った奴だってのは理解出来るんだけど、神ってのは……さすがにないよなぁ、はは」


 確かに、疑問には思ったが。

 魔王様(リュカオーン)が倒したあの黒いバケモノの身体も、アディーナと同じく黒い(チリ)となって消えてしまったので、アタシにはそれ以上どうする事も出来なかった。

 せめてあの黒い(チリ)を瓶か何かに集めておけば、と今考えれば悔やまれるが。戦いに次ぐ戦いで魔力の消耗や疲労の蓄積があった状況で、そこまで気が回らなかったのも当然だ。


 にしても、横目で(かじ)取りをしているにもかかわらず航海は順調に進んでいた。

 これが馬車なら、下手に考え事をしようものなら馬が制御を失ったり、馬車の車輪が街道から外れぬかるみにハマったり大変な事になるのに、である。

 

「いやあ、それにしても初めて船を操縦してみて、最初はどれだけ難しいかと思ったけど……船の操縦ってのは意外と簡単モンだねぇ……って、おかしくないかい、この船?」


 さすがに、初めて船を操るアタシがここまで問題なく船を動かせているのは……いくら何でもおかしいと思い。

 アタシは(かじ)を固定して、帆を支える柱や甲板(かんぱん)、そして船の外装を見て回っていると。


 アタシが乗るこの船の周囲の海面を泳いでいた数人の女性と目が合う。


「……あ、おーいっ!人間さーんっ!」

「どう?船は順調に動いてるっ?」

「まあ、あたしたちが海流を操ってるんだから当然なんだけどね」


 いや、どうやら彼女たちはネイリージュと同じ海魔族(ネレイス)なのだろう。海面の下から薄っすらと見えた下半身が人間の脚ではなかったからだ。

 そんな海魔族(ネレイス)らから声を掛けられたアタシは、彼女らの呼びかけに応えていく。


「あ、ああッ……今のところ何事もなく船は順調だけど……アンタたち、今日はネイリージュの結婚式だろ?出席しなくてイイのかい?」


 だが、確かネイリージュは「海の女王」という二つ名の通り、彼女ら海魔族(ネレイス)の長ではなかったのだろうか。

 その長の結婚式に出席せずに、海でアタシの船の面倒を見てくれていても平気なのだろうかと心配になり、その事を尋ねていくと。

 

「だってあたしたち、人間さんの船をきっちり沖まで牽引してやれ、って女王様から命令されてるんだもの」

「……ん?……女王サマって、ネイリージュのことだよねぇ?」


 海魔族(ネレイス)らは「間違いない」と皆揃えてコクンコクンと首を縦に振る。

 それが、何を意味しているのか。

 ネイリージュは、アタシが船でこの島を出ることに気付いていて、彼女らに海流を操作し、アタシの海路を先導するという役割を与えていたのだ。

 

 だが、それだけならまだネイリージュに今日島を旅立つ事を気取られた証明にはならない。


 何故なら……そもそもアタシが船で島を出るという手段を選んだのは、コピオス侵攻の時に帝国から大型の帆船を手配させたとレオニールから聞いたからであった。

 その時に、ネイリージュら海魔族(ネレイス)が海流を操作してコピオス率いる船団を、無事に大陸へと向かわせたことも聞いていたので。

 アタシもそれにあやかり、船という手段を選んだのだが。


 だが、そんなアタシの背後からギシギシと甲板(かんぱん)を踏み締める足音が聞こえてくると。

 額から頬へ一粒の冷や汗が流れていく。


 その足音がこちらへと一歩、また一歩と近づいてくるたびにアタシの緊張感は高まっていく。

 正直言って、このまま前に走り出して海に飛び込んで逃げ出したい気分でもあった。

 足音がアタシの真後ろで鳴り止み。

 この場に現れた張本人の手が、アタシの肩へと強めに置かれた瞬間に緊張は最大級に達し、口から何かが飛び出しそうになる。


「……俺様に黙って島を出て行こうとするなんて、いい度胸してるじゃねぇか……アズリアよぉ」


 アタシはまるで錆びついた鉄の扉のようにゆっくりと後ろへと振り返る。

 そこには、口角を広げた笑顔を浮かべていたが、目は全く笑っていなかった魔王様(リュカオーン)が立っていたのだ。


「……い、いや、さぁ……あ、あはは……そろそろアタシも人間の食事が恋しくなった、って言うかさ……帝国との戦いも終わったしそろそろ潮時かなと思って、うんッ……」


 色々と本音が含まれていたりするが、突然船上に現れた魔王様(リュカオーン)にすっかり動揺したアタシは苦しい言い訳を繰り返していく。

 そんなアタシを見て、「……はあぁぁぁ」と深い溜め息を吐く魔王様(リュカオーン)は。


「アズリアを無理やり花嫁候補に召喚した責任は俺様も感じてるんだぜ?……だからよ、旅立つことを正直に教えてくれさえすれば、俺様もいくらでも力になってやれたんだがなぁ……」

「魔王サマは、アタシが旅立つのを止めに来たんじゃないのかい?」

「まあ……な。俺様はそう、なんだが、な……」


 と、魔王様(リュカオーン)の視線が明らかにアタシではない、あらぬ場所を見つめながらバツの悪そうな顔を浮かべていた。

 アタシはそんな魔王様(リュカオーン)の態度が気になってしまい、その態度の真意を問い(ただ)そうとした途端。

 魔王様(リュカオーン)の背中から頬を膨らませながら顔を見せたのは、ユーノだった。


「……お姉ちゃん……ボクも島のそとに連れてってよ」

「……は?……え?お、おい、ユーノ?」


 アタシを睨みつけながらとんでもない提案をしてきたユーノは、魔王様(リュカオーン)の背中から飛び出し、アタシの胸へとギュッと強くしがみついてくる。


「連れてってくれないなら……お姉ちゃんがいなくならないように、ボク、この船……こわしちゃうからねっ……それでも、イイの?」


 顔を胸に埋めたまま、ユーノが再びとんでもない交換条件というか、脅し文句を口にする。

 確かに……ユーノの「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」を発動すれば、こんな木製の小型船なら一溜りもないだろう。

 アタシは困り果てて、魔王様(リュカオーン)に助けを求めるような視線を送るが。


「なあアズリア、もし……迷惑じゃないのなら、ユーノを一緒に連れて行ってくれねぇか?もちろん、ユーノも立派な獅子人族(レーヴェ)の族長で戦士だ。お前が守ってやる必要はねぇ……どうだ?」


 魔王様(リュカオーン)は、止めるどころか一緒になってユーノを同行させようとアタシを説得してきたのだ。

 そんな魔王様(リュカオーン)へ恨みがましい目を向けるアタシに。


「……こうなっちまったユーノは俺様でも止めるのは無理だからな、これも黙って島から去ろうとしたお前の責任だと諦めてくれ……それにな」

「まだ何かあるってのかよ?」

「ユーノは俺様の腹違いの妹でもあるからな。そんな大事な妹を頼めるのは、お前しかいないんだ」


 アタシが初めて知った衝撃の事実。

 ユーノが魔王様(リュカオーン)の妹とは。

 いや……ユーノが使うあの「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」といい、同じ獣人族(ビースト)だからという理由以上に気の合う素振りを見せたりと、考えれば考える程に納得のいくことばかりだ。

 だからアタシは大して驚きはしなかったが。


「……お姉ちゃんは、ボクのこと……きらい?」


 胸にしがみついていたユーノが上目遣いとなって、涙目ながらに訴えてくる。

 そんなユーノの態度に、アタシは諦めの溜め息を一つ吐き出しながら。


「卑怯だねえユーノは……そんな顔でアンタにせがまれたら、アタシだって拒絶出来ないじゃないか」

「それじゃあ?」

「その代わり、この船に乗ってるのはユーノとアタシの二人だけだからね、大陸に辿り着くまではしっかりアタシの言う事聞いておくれよッ?」


 アタシはユーノの鼻に一本立てた指を押しつけて、そう言い含めていくと。

 先程までの不貞腐れたような、頬を膨らませた表情をぱあぁと輝かせて、満面の笑みを浮かべ。


「────うんっ!お姉ちゃん……大好きっ!」

 

 こうしてアタシは。

 いや、アタシと同行することになったユーノの二人はコーデリア島を後にし、ラグシア大陸に向けて一路、船を走らせるのであった。

 

これにて第5章は完結となります。

160話と長々続いた魔王領(コーデリア)編でしたが、結局ユーノを同行させる結末へとしてしまいましたが。

この二人は一体何処へと向かうのか?


第6章の開始と舞台となる国家や地域は、実はまだ未定だったりします。

ここまで読んで下さった読者さま、ありがとうございました。

再開までしばしのお別れとなります。

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