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140話 剣鬼と魔弾、最後の会話

 一方その頃。

 レオニールを囲んで必死にその生命を繋ぎ止めようと足掻(あが)く様子を遠巻きに見ながら。

 突然の邪魔に狙撃を阻まれ、もはや姿を隠す必要も無しと呆然と立ち尽くしていたアルベーロ。


「はっ……はははっ……な、何なんだよこの結末は……ずっと、光輪(イルダーナ)を犠牲にしてまで待ってようやくの好機が、こんなカタチで……じょ、冗談だろ……」


 アルベーロの首筋に刃を押し付けていたモーゼスも、彼が放った魔弾(タスラム)に気付けなかったために起きた事態、その一部始終を見て放心していた。


「……この男、既に策を実行した後であったとは、不覚じゃ……あそこにレオニールが潜んでいなかったとしたら或いは、血塗れで倒れていたのは魔王様だったのかも知れぬ……」

  

 アルベーロが実行していた策を事前に看破出来ていれば、レオニールの犠牲を必要としなかっただろう。

 アルベーロの位置を察知し、脅し文句で身動きを止めた時点で満足しきっていた自分への不甲斐なさから、歯軋(はぎし)りを止められずにいた。

 

 それに二人には共通の疑問があった。

 何故、あの場所にレオニールがいたことを事前に察知することが出来なかったのか、という点である。


 アルベーロ同様にこの近辺に姿を潜めていたのであれば、魔王リュカオーンやユーノといった獣人族(ビースト)の鋭敏な知覚や、モーゼスの気配察知の網に掛かりそうなものなのだが。

 現に、魔王城の時には誰からも発見されなかった程に気配を殺していたアルベーロを察知出来たにもかかわらず、だ。


 その理由には。

 元は四天将である「幻惑」のレオニールの限られた人物のみが知る秘密が関係していた。


 彼女……レオニールは、魔王陣営の中では戦闘など全く無縁な素振りを見せ、四天将に選抜された際もコピオスの副将であった威光なのだと思わせていたのだが。

 実は、気配や足音を消す隠密行動に優れた猫人族(フェレス)の特性を活かした優秀な斥候(スカウト)役だったのだ。


 加えて彼女は、得意とする光魔法によって他人の視覚を遮り、自分の姿を視えなくしたり、周囲の景色に溶け込んでしまう事が可能なのだ。

 彼女の「幻惑」の二つ名はまさにこの魔法の効果を表すものだった。だからこそ彼女はコピオスに重宝され、信頼の証として、彼の副将という地位を与えられていたのだ。


 この事実は魔王とコピオス将軍と既知の仲であったバルムート以外には、他の四天将やアステロペには伏せられており。

 世話係であったモーゼスに、すら内緒にしていた。


 彼女の能力が広く知られれば、情報収集という任務に支障が出る、ということでレオニール本人からの希望だったからだ。

 

 猫人族(フェレス)としての、隠密能力。

 そして光魔法を駆使した、巧みな視界の遮断。

 

 この二つを併用した隠密能力の高さは、まさにその事実を知らなかったモーゼスがその居場所を察知出来なかった時点で、推して知るべきであろう。

 ……たとえモーゼスが事前にレオニールの能力を知っていたとしても、完全に気配を殺し、姿を消した彼女(レオニール)を見つけるのはまず不可能だった、と。


 ましてや、アルベーロは気配を殺す手段こそあるものの、他者の僅かな気配を察知する手段まで同じように持ち合わせていたわけではなかった。


 魔王を討ち果たせず。

 しかもそれを邪魔したのは、魔王陣営を裏切り神聖帝国(グランネリア)の内通者となっていた筈の猫人族(フェレス)だったのだ。

 受けた衝撃は、老魔族以上だったろう。


「……内通してたとは言え、魔族を帝国(こちら)側だと信じ切ってた俺らが馬鹿だった、ということか……ははっ」


 弄した最後の策であった魔弾(タスラム)をレオニールに身体を張って阻止されたことにより、万策尽きたアルベーロは完全に心が折れ。

 深い溜め息を一つ吐き、観念してその場に座り込む。


「……殺せよ。もし、見逃したら次は魔王かもしれないし、他の誰かをあんな風に……殺すぞ?」


 背後にいる老魔族へ発する最後の警告。


 もちろん、既にアルベーロの手には魔弾(タスラム)はないし、レオニールの身体に埋まったままの魔弾(タスラム)を魔王らの眼を()い潜り回収するのは無理だろうが。

 最後くらいはせめて、宿敵であった魔族に弱味を見せまいとする、アルベーロの最後の意地だ。


 その言葉を聞いて、我に返ったモーゼスは一度は首筋から()けた仕込み杖を強く握り込むと、そのまま真上へと剣を掲げ。


「最後じゃ……(ぬし)の名を聞いておこうか」

「俺だけ名乗らせて、俺は自分を殺す人物(やつ)の名前を知らない、ってのは不公平じゃないか?」


 互いに名を知らぬまま、生命を奪い、奪われるのは互いに不憫というものであると考えたのだろう。

 流れる、一瞬だけの静寂の後。


「……モーゼス、じゃよ」

「……『魔弾(タスラム)』のアルベーロ、だ」


 互いの名を名乗ったのが、二人が交わした最後の言葉。

 死を覚悟し、目を閉じていたアルベーロの首筋へと、磨き上げられたその刃を振り下ろしていった。


 老魔族の剣はアルベーロの首を綺麗に切断し。

 胴体側の断面から噴き上げる鮮血。

 剣を振り抜き、背後に立っていた老魔族はその鮮血を浴びて、ら身体を真っ赤に染め上げられ。


 頭を失ったアルベーロの身体が力無く崩れ落ち。

 宙を舞った頭は草むらへと静かに落ちていった。


「……終わったのぅ。それではワシも魔王様や我が娘(アステロペ)と合流するか……レオニールの容態も気懸(きがか)りではあるし、のぅ」


 こうして、魔王らにそのやり取りを気取られないまま。

 剣鬼(モーゼス)魔弾(アルベーロ)の対決は、ひっそりと幕を閉じた。

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