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139話 魔王の盾となる、その者の名は

だいぶ改稿しました。

改稿前の後半部、アルベーロとモーゼスとのやり取りは次話以降に使わせてもらいます。

 その人影の正体は、レオニールだった。


 かつては四天将でありながら、コピオスを失った悲しみのあまり帝国側と通じ合い、魔王陣営の情報や動向を巫女へと報告していた叛逆者。

 そしてつい先日、置き手紙を残して仲間であった者たちの前から姿を消したはずの。


 そんな彼女が、突如姿を現わし。

 魔王の生命を奪わんと襲い掛かる魔弾(タスラム)の前に立ち塞がったのだ。


 そこからは本当に、一瞬の出来事であった。


 魔弾(タスラム)の着弾を防ぐためにレオニールは、無詠唱で得意としている光属性の防御魔法「光輝なる城壁(ルミナス・ランパート)」を発動し、自分の目の前に輝く光壁を作り出すが。

 魔弾(タスラム)の表面に刻まれた術式が、その防御魔法による光壁を容易(たやす)く貫通する。


 光壁を突破してなお、勢いが弱まる気配を見せない魔弾(タスラム)に向かって。

 レオニールは両手を広げて、自身の身体を防壁代わりにして魔王への魔弾(タスラム)の到達を阻止した。

 

 もちろんその行為の代償を彼女は受ける。

 彼女の腹部へと直撃した魔弾(タスラム)は、その回転によって皮膚を貫き通し、肉を抉り、骨を砕いていく。

 その傷口から周囲に鮮血を撒き散らしながら地面に倒れ込むレオニールの、脇腹半ばに埋まった状態で、魔弾(タスラム)は完全にその機能を停止した。


 魔王リュカオーンも、その周囲にいた者たちも。

 飛び出してきた人影がレオニールだと理解した次の瞬間、かつての仲間が胴体から血を噴き出し、倒れていったのだ。

 慌てて彼女へと駆け寄っていく魔王と他四人。


「────こ、こいつぁ……まさか、敵が他にもいたってのか……その攻撃を、レオニール……お前が……」


 倒れ込んだレオニールの腹に空いた大きな傷を見て、何が起きたかの大体を把握していく魔王ら一同。

 そして、知ってしまう。

 腹を抉る大きな傷、それは致命傷なのだと。


「あ…………ま……まお、う様……無事だった……っスか……よ、よかっ────ごふっ⁉︎」


 倒れたレオニールの目の焦点が魔王に合うと。

 重傷を負っているにもかかわらず、魔王の無事を確認して笑みを浮かべた、その直後。

 無理をして声を出した反動で、彼女は口から大量の血を吐き出して、目を閉じてしまう。


「おいっレオニールっ!じょ、冗談も大概にしろよ……何で愛想を尽かした俺様を庇ったりしたんだ!おい!」

「……は、ははっ、あ、あんな手紙書いて……どこか知らない場所へ……逃げようと、思ってたんスけどねえ……や、やっぱ、そう簡単には……故郷も、魔王様への忠誠ってヤツも、捨てられないっスね……」


 倒れたレオニールの手を握りながら、意識を無くさないように大きな声を掛け続ける魔王。

 その声に応えるように、自分の心の中にまだ延々と残っていた魔王陣営への未練を、吐血と一緒に吐き出していくレオニールだったが。


「……ああ、魔王様……そろそろ、コピオス様のところへ……行っても、いいっス……か……?」

「駄目に決まってるだろ!……大丈夫だ、こんな傷くらいアステロペらが治癒してくれる!……必ず助けてやるから二度とそんな事言うんじゃねえ!」


 徐々にその声も弱々しく、細く小さな声となっていき、レオニールの手からは力と体温が抜けているのを手を握っていた魔王は実感していた。

 自分が掛けている言葉が、気休めでしかないのを。


「…………おい、レオニール?」


 そして。

 彼女はついに、魔王の呼び掛けに対して一切の反応を示さなくなった。

 握り締めた彼女の手は冷たくなり、指がかすかに震えている以外の動きを見せず、手を離すとその腕は力なく地面に落ちていった。

 

「……リュカオーン様、後は私が彼女を何とかしますので……今は後ろで控えていて下さい」

「……あ、ああ……頼むアステロペ」


 自分を庇ったことでレオニールが生命に関わる重傷を負ったという事実に動揺を現わにする魔王を気遣って、アステロペが治癒魔法を発動するために立ち位置を入れ替わる。


 アステロペも本当ならば、こんなにも肩を落とす魔王の傍らで自分が心に負った傷を癒してあげたかったのだが。

 今はそんな事を言っていられる状況ではないのは、聡明な彼女だからこそ理解していた。

 

「……いいかレオよ、お前には聞きたい事がたくさんあるが、今やるべき事はただ一つだ……死ぬんじゃない!」

「わ、(わらわ)も力を貸すぞ魔女よっ!」


 だからこそ、その傷を治癒しようとアステロペと助力を頼まれたネイリージュが、血塗れになって意識のないレオニールへと高位の治癒魔法を発動していく。

 彼女が受けているのは致命傷だ。アステロペもネイリージュも自身の治癒魔法では、この傷が回復出来る限界を超えている事など承知の上で。


「駄目じゃ……(わらわ)らの治癒魔法では傷口を塞ぐことすら敵わぬ……口惜しいが」

「戻ってこいレオよ!……くっ、呼吸も徐々に弱くなっていっている……私たちでは、お前を助けるのは無理なのか……」

 

 彼女らの治癒魔法では、腹に深々と空いた傷口を塞ぐまでにすら到らずに、その間も延々と腹の傷から大量の血を流し続けるレオニール。


「レオちゃんっ!……絶対に絶対にっ、死んじゃだめだからねっ!」

「……ユーノの言う通りだレオニールよ。お主はコピオスのためにもまだ死んではならんのだ!」


 治癒魔法すら使えないユーノとバルムートは、まだ事情を聞くまでは今までの仲間を裏切り者だと切り捨てられず。

 出来る事と言えば、せめて意識を失っていた彼女の手を握りながら、アステロペとネイリージュ……二人の治癒魔法が効果を発揮してくれるのを願うことだけだった。


 その時、バルムートとユーノの頭には。

 もう一人治癒魔法を使える、しかも重傷すら回復してのける人物を思い浮かべていた。


「……アズリアお姉ちゃん、どこいったんだろ?」

「……ああ、アズリア殿の治癒魔法なら、或いは」


 ユーノもバルムートも、先日の帝国の兵士により襲撃を受けた集落への遠征の際に偶然アズリアと合流し。

 その時に彼女(アズリア)が、伝令役やバルムートの配下のゴードン、そして集落で生命に関わる重傷を負っていた住人や魔族らを、魔力が枯渇するまで次々と治癒していくその姿が、二人の頭には色濃く焼き付いていたのだ。

 だから、今もしこの場にアズリアがいてくれたら、レオニールの致命傷ももしかしたら何とかしてくれるかもしれない、という微かな希望を胸に抱いていた。


 ────だが、皆は知らないのだ。


 この時アズリアは、帝都ネビュラスで女勇者ルーと同格の祝福(チカラ)を巫女より授けられた「魔眼(デスゲイズ)」のバロールと死闘を繰り広げていたという事実を。

 

  

 

 

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