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125話 魔王、勇者ルーを認める

 だが、女勇者が放った「英雄の光槍(エル・ブリューナク)」がアステロペを貫くことはなかった。

 自分の身体に襲い来ると思っていた衝撃が、いつまでも伝わらないので不思議に思い、女勇者に視線を向けようとすると、黒い影が視線を遮っていたのだ。

 

「りゅ、リュカオーン様っ……?」

『────どういうつもりだ魔王よ、貴様の部下との三対一の対決を黙って見ていることが出来なかったの、か?』


 そう。

 人影の正体とは、いつの間にアステロペの前へと立ちはだかっていた魔王リュカオーンであり、その左手には女勇者が放った光の槍が掴まれていた。

 魔王リュカオーンは、アステロペが動きを止めてしまったのを見て咄嗟に飛び出し、彼女の胴体を貫通するという最悪の事態を防いだのだ。


「……アステロペ、ユーノとバルムートを頼む。バルムートの奴もあの程度じゃくだばらねぇだろうからな」


 樹の幹に激しく衝突したものの、まだ頭を振って起き上がってくるユーノはともかく、胸から血を流し倒れたままのバルムートの回復を、アステロペに優しく命じる魔王リュカオーン。


「……は、はいっ…………リュカオーン様、どうかご武運を」


 その身体には、既に彼が得意とする「雷獣戦態(モード・マルドゥーク)」の雷撃が纏わっていたのを見て。

 アステロペは邪魔にならないよう、まず早急な治療が必要なバルムートへと走り出す。


 最初はそのアステロペに攻撃を放とうと、彼女に視線を向けた女勇者ルーだったが。

 それを許すまいと殺気を全身から(みなぎ)らせて、その場を動かずして女勇者を威嚇する魔王リュカオーン。


「おっと……余所見(よそみ)している暇はねぇぞ、女勇者よ。お前の相手はこの俺様だろぉ?」

『はっ……そのようだな。迂闊(うかつ)にあの連中に意識を取られていたら、その隙に喉に噛み付かれそうな殺気だから、な』


 既に臨戦態勢を整え、しかも目の前で配下を傷付くのを見せられていたからなのか魔王からの凄まじい程の殺気を受けると、女勇者ももう視線を逸らしアステロペを見る余裕などなくなっていた。

 

 真っ白に輝く長槍(ロングスピア)を構え、脚にはユーノの速度に迫るために発動した「神移(ワールウィンド)」の効果を持続している女勇者ルーと。


『────ついに貴様の前に立ったぞ魔王、貴様を討ち果たして我ら人間は貴様ら魔族をこの島、この世界から駆逐してやる、ぞ』


 既に「雷獣戦態(モード・マルドゥーク)」を発動し髪を逆立てながら身体中に雷撃を纏わせ、両腕の爪を伸ばして腰を落とし、いつでも飛び掛かれる体勢の魔王リュカオーン。

 

「そう言われちゃあな……俺様も()るしかねぇな。この魔王領(コーデリア)は過去、人間らに大陸を追われた俺様ら魔族の唯一許された土地だ。それを踏み荒らすなら俺様も黙っちゃいねえ」


 二人の間に漂う緊張感が高まっていき、互いの脚がじわじわと二人の間合いを縮めていく。

 そして────衝突の時はやってきた。


 先に仕掛けたのは女勇者ルー。

 ユーノを捉えきれる程の速度で踏み込んでいき、構えていた長槍(ロングスピア)を、左斜め下から横に大きく振り抜いていった。


 だが魔王はルーと同じく前に踏み出していくと、バルムートを凌駕した筋力で振り抜かれた長槍(ロングスピア)の刃が描く軌道を見切り、右手で叩き落としていくと。


 残る左手で、接敵してきた女勇者の顔面へと通常の爪撃を放っていくが。

 その爪撃が女勇者の顔面を捉える前に、叩き落とされたはずの長槍(ロングスピア)()がその爪を受け止めていた。

 さすがはその形状から、剣よりも攻防や攻撃距離に優れ、下手をすれば剣より一般的に使われる機会の多い、槍という武器の面目躍如というわけだ。

 

「……へっ、やるじゃねえか。この俺様と互角のやり取りをするとはなぁ……認めてやるよ女勇者」

『────それはどうもだ。にしても……速度と、腕力は互角か。ならば魔力はどうだ魔王、よ』


 一連のやり取りに合わせながら、詠唱を開始する女勇者。本来ならば詠唱を唱える時には足を止めて集中しなければならないのだが。

 女勇者ルーは、詠唱に合わせて魔王との接近戦にも対応していた。


「……なるほど、並行詠唱とはな。先程の光の槍ですら無詠唱だったのに、それか通用しなかったから今度はそれより強力な魔法(ヤツ)を使うつもりか」


 そう、並行詠唱とは。

 元来、詠唱時には身動きを取れず集中しなければいけない、という欠点を克服するために魔術師らが編み出した技術である。

 だが、詠唱を続けながら、敵の攻撃を回避する程度の行動を同時に行なえるためには、普通に詠唱するよりも神経を研ぎ澄ます必要と、途切れぬ集中力が必要となるため、使える術者は数少ない。


『……我が声に応じ光の加護を、希望を閉ざし我が前に立ちはだかる敵を貫くモノ────』


 もちろん通常の詠唱だろうが並行詠唱だろうが、詠唱中に攻撃を受け集中が途切れれば魔法の発動が阻止されるのに例外はない。

 だから魔王は、集中を切らせるために女勇者に一撃を喰らわせようと、両腕を使い爪撃を連続で放っていくが。

 並行詠唱中を長槍(ロングスピア)での防御に徹する女勇者に有効打を与えることが出来ずに、そのまま詠唱を許してしまい。


『我が手に来たれ神の槍、その五振りを我に与えたまえ────英雄の光槍(エル・ブリューナク)五閃(スィンコ)


 その詠唱が完了すると即座に、至近距離にもかかわらず先程と同じ光魔法を解放する女勇者ルー。

 

『さあ、この至近距離でどう対応するかね魔王?』


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