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114話 アズリア、勝機を見出す一手

 一体どうしたら、目の前の男にアタシの大剣の刃が届くのだろうか。


 右眼に宿した筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)は今でも全力で魔力を筋力へと変換し続けている最中だ。

 そして二重発動(デュアルルーン)により、アタシ自身を対象に発動している赤檮の守護(ユル)の防御結界のおかげで、バロールとアタシ双方の戦況の均衡(バランス)が保たれている。


 既に二重発動(デュアルルーン)を行使している今のアタシには、これ以上魔術文字(ルーン)を発動させる事は不可能なのだ。


「……こういう時に、暇な時間にもう少し真剣に魔術文字(ルーン)の研究をしておけばよかった、って悔やむんだよねぇ……」


 魔術文字(ルーン)について記載された古代の文献によると。

 まだ魔術文字(ルーン)が普及していた時代には、アタシが研究の末に編み出した二重発動(デュアルルーン)はおろか、魔術文字(ルーン)を扱う魔術師ともなれば三個、四個と同時に発動するのは当然だったらしい。

 しかも自分の血など発動の触媒にしなくても、魔術文字(ルーン)を起動出来ていた、と記されていた。

 

 もちろん最近のアタシは、国の王様と食事をしたり吸血鬼(ヴァンパイア)に目の敵にされたり、挙句にはここ魔王領(コーデリア)まで飛ばされたりと、あまりに色々とありすぎて魔術文字(ルーン)の研究を少し(おろそ)かにしていた……反省。


 しかも、バロールへの圧力を掛けるために無理をして脚を動かしていたツケだ。

 防御結界を張る前に、聖光閃(ジリオス)で貫通された左肩と右脚の腿の傷口が開き、そこから流れる血が止まらない。

 

『……は、はははっ。俺を捉えるために脚を動かし続けた結果がそれか!……その傷と出血ならば、俺がわざわざ手を下さずとも早晩生命を落とすだろう……貴様の敗北(まけ)だよ、アズリア』


 決して大剣の間合いに入らないよう、ズルズルと脚を引きずりながら接近するアタシから離れながら、バロールが勝敗は既に決したかのような台詞を吐く。

 だが、悔しいがその通りだ。

 持久戦に持ち込まれてしまえば、アタシは魔力的にも出血の度合いでも、勝ちを拾う可能性はほぼ無いに等しい。


 さすがに呪縛を四重にも重ね掛けされ、行動の自由を初手で奪われた代償は大きかった。

 

「…………ん?……重ねる、重ねる……か」


 重ね掛け、という言葉から。

 アタシの頭に、何度か試してみようと思いながら、まだ一度も試した事のない方法が思い出される。


 以前のアタシの身体は、右眼の筋力増強(ウニョー)を発動するたびに、次の日は全身を酷い筋肉痛が襲っていた。

 コピオスとの戦闘後も、ロゼリア将軍ら紅薔薇(グレンガルド)軍との決戦後も。

 だからこの実験は後に後に延ばしていたのだが。


「確かにコイツは危険な賭けになりそうだけど、どうやらその賭けに勝つ以外に方法はなさそうだねぇ……ははッ」

 

 だが、その賭けに出るためには。

 身体に張り巡らせた防御結界を一度解除する必要があり。

 それをバロールに一呼吸先を視る金色の魔眼によって見抜かれた場合、最悪急所をあの魔法の光条で撃ち抜かれて一巻の終わり、という結末だってあり得るからだ。


 それでもアタシは赤檮の守護(ユル)魔術文字(ルーン)への魔力供給を止め。

 身体を護っていた防御結界が消え去る。


「さて、バロール……アンタの本来の観察眼、試させてもらうよ……ッ」


 アタシの見立てでは、あの男(バロール)の持つ既視の魔眼は、常に先を視ているわけではない。

 確かに最初にあの魔眼の効果で、筋力増強(ウニョー)を発動し斬り掛かった際には、剣閃を完全に読まれていた。


 だが、赤檮の守護(ユル)を発動した時だ。

 左胸に撃ち込んできた魔法をアタシが避ける素振りを一切見せなかった様子に、勝利を確信していた。

 赤檮の守護(ユル)の防御結界で、その魔法が弾かれる結果を視れなかったのだ。


 最後の決め手は、アタシが呪縛された状態で一歩脚を前に進めるのを見てから、あの男(バロール)は背後へと退くのだ。

 行動を常に視ているならば、アタシが動く前に前もって距離を取ればよいのにである。


『……動かなくなった?……何か打開策を考えているのだろうが、動きを止めたのは俺にとっては好都合だ。せいぜい無い勝機を探して血を流すがいい』


 案の定、予想通りバロールは動かない。

 寧ろ、突然接近するのを止めたアタシを警戒してはいるものの、こちらが防御結界を解いた事には気付いてはいない様子だった。


 おそらくは。バロールがあの魔眼で視ているのは、あくまで自身に降り掛かる行動だけなのだ。

 だから、アタシの防御結界が消えたかどうかをバロールが知れる機会があるならば、それは当人が無駄だと知りつつも威嚇で、あの神聖魔法(セイクリッドワード)を発動させた場合だけ。

 

 その時に結果を視れば、防御結界の無いアタシを魔法が貫く未来が視えるだろうが。

 あの男(バロール)の性格上、それはないとアタシは、賭けた。

 

 もちろん、バロールに魔力の流れを感知出来るモーゼス爺さんのような眼があったり、先程アタシ自身の身体へと描いた魔術文字(ルーン)が役目を終えて消えているのを目敏(めざと)く見つけられたら、即終了だ。


 だが、やはりバロールは動かなかった。

 一つ目の障害は無事に乗り越えた。

 本当の問題は次の手順だ。


 アタシは、先程赤檮の守護(ユル)を描いたのと同じ箇所に、太腿から流れる血で新しい魔術文字(ルーン)を描いていく。

 そして、発動の為の力ある言葉(ワード)を紡いだ。


「我に巨人の腕と翼を────wunjo(ウニョー)


 そう。

 アタシがやろうとしてるのは、魔術文字(ルーン)の重ね掛け。

 銀の魔眼がこれ以上アタシを呪縛出来ないのだとしたら、この身体に掛かる荷重以上の膂力(りょりょく)をもって、無理矢理に呪縛を打ち破る以外にないと踏んだアタシは。


 二重に筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動させることで、今まで以上の膂力(りょりょく)を発揮してくれる、と推測したのだ。

 果たして、アタシは賭けに勝利したのか。


 アタシは、四度の重罰の魔眼によって行動の自由を奪われていた重い脚を、恐る恐るゆっくりと前に動かしてみる。

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