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111話 アズリア、金の瞳に見抜かれる

 目の前に立つ男、バロールの銀色の瞳から睨まれた途端に身体の各所の重量感が増す。

 その重量感がアタシの気のせいではないのが、踏みしめる石床がミシミシ……と(きし)む音を立てている時点で理解する。


「……そ、その瞳で、アタシの身体に……一体何をしやがった……ッ?」


 肩に伸し掛かる重圧に、力を込めて何とか立っていられるが、気を抜けばすぐに重みに耐えきれず片膝を突いてしまいそうになる。

 そんな状態に歯を喰いしばっておきたいところを我慢し、アタシはバロールに問い掛けた。


 するとバロールが自分の銀色の瞳を指差して、既に勝ち誇った態度で口を開くと。


『それはな……この「重罰の魔眼」の効果だよ、アズリア。この眼に捉え、睨んだ対象は神の怒りに触れ、その身体を鎖で繋いだように動きを封じられる────今の貴様のようにな』


 自慢げに、銀の瞳がアタシに及ぼすその影響を語っていくバロール。その解説は、今アタシの身体に起きている異常な事態のままであった。

 この男(バロール)がなやややや金谷湯やなよかゆに、アタシと遭遇した時に自分の両眼に布を巻いて視界を塞いでいたのか。それを見抜けなかったのは、完全にアタシが油断していたからだが。

 

 にしても、だ。

 まともにその眼の魔力かを喰らったとはいえ、この程度で勝ち誇るような表情と、バロールが能力を話す口調に苛立ちを覚えたアタシは。

 構えた剣先をバロールへ向け、脚を前に動かして一歩、また一歩と距離を詰めていく。


「……は。こ、この程度の重量でアタシの動きを封じた?……ならアンタの言う神の怒りってのも、大した事ないみたいだねぇ……ッ」


 アタシがゆっくりと、ではあるが接近してくる様子に、感心したような馬鹿にしたような表情を浮かべ、両手を胸の前でパンパンと叩き合わせ。


『ほう……二度ほど重ねて銀瞳を使用しているのに、まだそこまで動けるとはな、驚いたぞアズリア。余程の馬鹿力なのだな……だが』


 構えた大剣が届く間合いにアタシが踏み込む前に、バロールはその銀色の瞳に魔力を注ぎ込み、その眼がギラリと妖しく煌めく。


『────重罰の魔眼(ひれふせ)


 数えて三度目の効果を受けるアタシの身体。

 その肩に、脚に襲い掛かってきた重圧感は、先の二度とは比較にならない大きさだった。


「ぐう⁉︎……お、重いッ……う、がぁぁぁああッ!」


 アタシはその襲い来る重圧に耐え切れず、ついに片膝を突き、握っていた大剣を石床へと下ろしてしまう。

 膝を突いても全く軽減することのない、増大した背中に伸し掛かる重量感。無理に立ち上がろうとするたびに、アタシの全身に絶えず石床に押し潰されそうになる激痛が奔る。


『神セドリックの祝福もない貴様が、三度の重罰でようやく動きを止める、か……アズリア、貴様が我らが帝国のために戦っていれば、魔王の首を取るのももう少し早まったろう』


 重罰の魔眼で完全に動きを封じたと見做した事で油断し、アタシから目線を外すバロール。

 

 だがあの男(バロール)はまだ気付いていない。

 目の前の男に、対象に重石を乗せるような効果の魔眼があるように。

 アタシの右眼にも、生まれながらに持った魔術文字(ルーン)という力がある、ということを。


 いくら重量を増してアタシの動きを封じていようが、それを上回る身体能力を発揮すれば、魔眼の呪縛を振り解いてバロールに攻撃を届かせられると踏んだ。


 アタシは早速、右眼に魔力を注ぎ込んで筋力増強(ウニョー)魔術文字(ルーン)を発動する。

 予想通り、身体に魔術文字(ルーン)の効果が巡り重量に耐えられるだけの筋力を発揮すると、身体を動かした時の激痛が消える。

 手が。そして、脚が普通に動く。


 攻撃を躱されれば、バロールは再びアタシの身体をその銀の魔眼で呪縛してくるだろう。

 だからこそ、勝負は一瞬で決める。

 バロールに動けるようになった事実を悟らせまいよう、剣を床に置いた体勢を変えずにその一撃を放つために呼吸を整える。


「…………すぅ……はぁぁぁ……」


 そして、大きく息を吐いたその直後。

 右眼の魔術文字(ルーン)を最大限に発動し、大剣を持ち上げて、片膝を突いた低い体勢から石床を背後に蹴り上げ、その低い体勢を保ったまま大剣を斜め上へと斬り上げる。

 狙うのは────バロールの胸板。


「しゃああああああああああああッッ‼︎」


 踏み込み、動き出した時は無言だったが、大剣を振り抜く時にだけは渾身の力を込めるために、大きく声を吐き出す。

 胸板には大概鎧を着ているし、胸には太い骨が複数本通っている。ただ筋力増強(ウニョー)で増した膂力(りょりょく)を闇雲に振るだけでは、その全てを両断することが出来ないからだ。


 剣を振る直前まで、バロールはアタシに視線を戻さず、こちらが動き出したのに気付いてない様子だった。

 しかも、鍛治師ノウムに修繕してもらったこの大剣が、今まで以上にアタシの手に吸い付くように馴染む感じ。

 アタシは、この一撃で仕留められると予感した。

 

 ────だが。

 バロールは一度もこちらを見ることなく、アタシが繰り出した渾身の剣閃を躱す。


「……なっっ⁉︎……な、何だよ、今の躱し様はッ……?」


 起死回生の一撃を回避されたことはもちろん致命的な事なのだが。

 それよりも……アタシが驚いたのは。

 

 今、目の前の男(バロール)はアタシが攻撃を放ってから回避したのではなく。

 アタシが攻撃を放つ直接には、既に回避のための行動に動いていたという不可解な状況に驚いていたのだ。


 だが、それは攻撃を読まれただけの事だ。

 きっとアタシが気配や殺気を抑えきれていなかった、自分の不出来さ、未熟さはこの戦闘の後に反省するとして。

 今は、目の前の敵を倒すのに専念する。


 だが、攻撃に移ろうとしたその途端に発したバロールの言葉。


『斬り上げを躱されてから無理やりに軌道を変えての首狙いか、無駄だアズリア……俺の金の瞳は貴様の全てが視えている』


 ……アタシは恐怖を覚えた。

 何故なら、バロールが話した内容は今まさにアタシが繰り出うとした攻撃そのものだったからだ。

 そもそも、最初の一撃を回避した時から、ただ攻撃が読まれた雰囲気ではなかったのだが、この男(バロール)の言葉で確信に変わった。


 アタシはバロールが的中させたように、身体を捻って横薙ぎから首を刈ろうとするのを寸前で止め。

 無理やりに大剣でバロールを斬りつけていくが、やはりその剣撃も余裕を持って回避される。


「……アンタ、アタシの攻撃が何処に飛んでくるのかを事前に知ってたんだね……」

『ほう、たった二撃、いや三撃でもう一つの眼の祝福(ちから)を見抜くとはな……そうだ、俺の金の瞳「既視の魔眼」は貴様の行動すべてを前もって視ることが出来る』


 身体を重圧で呪縛する銀の瞳に。

 事前に行動を読む事が可能な金の瞳か。


「……参ったねぇ……こんな相手に、どうやって勝てっていうのか、まるで勝機を見出す方法が思いつかないねぇ……」

 

 一つだけでもとんでもない能力なのに、それが重なって立ちはだかるなんて。


「……くそッ、後で絶対あのセドリックとかいう神の石像をぶっ壊してやるからねぇ……」


 気付けばアタシは、目の前の男(バロール)にそんな馬鹿げた能力を授けたセドリックとかいうこの神聖帝国(グランネリア)の守護神への恨み事を思わず漏らしてしまっていた。


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