表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
381/1758

91話 ユーノ、狩場にて大暴れする

 一方で、ユーノの様子はどうなってるのか。

 アタシは、四頭を仕留めてからチラリとユーノの戦いぶりを覗いてみると────


 

「あっははははっ!楽しいよお!……ねえっ、お姉ちゃん?ボクね、今すっごく楽しいっっ!」


 仕留めた飛竜(ワイバーン)を足蹴にしながら、高笑いをしていたユーノ。

 その左右の腕に装着された巨大な籠手(ガンドレッド)には、左右それぞれに他の飛竜(ワイバーン)の首が握られていた。


 首を掴まれているためか、ユーノの指を振り解こうと激しく翼や尻尾を振り回し暴れる飛竜(ワイバーン)だったが。

 ユーノの黒鉄(くろがね)の両腕は微動だにしない。


「もう……しずかにしてよねっ!」


 うるさく暴れ回る飛竜(ワイバーン)を嫌ったユーノが首を握る指に力を込め、籠手(ガンドレッド)の拳がジワジワと閉じていくと。

 

『ギギギギギギ…………グゲェェェェツ!』


 ボキッ!と何か、硬いものが粉砕する鈍い音がすると同時に、口から血が混じった泡を吐く二頭の飛竜(ワイバーン)

 巨大なユーノの籠手(ガンドレッド)の指に掴まれていた飛竜(ワイバーン)の身体は完全に弛緩(しかん)し。

 手を離した途端に、地面へと力無く崩れ落ちたその身体をピクピクと小さく震わせた(のち)、二度と動くことはなかった。


「んふふー、これでみっつ!」


 巨大な籠手(ガンドレッド)の指を三本立てて、飛竜(ワイバーン)を三頭仕留めたことを示してみせる。

 その視線の先は、アタシだった……のだが。

 実はそのアタシが既に四頭の飛竜(ワイバーン)を仕留めているのを知ってしまい。


「うそっ?……ボクのほうが仕留めたとおもったのにっ?……むむむぅ……やっぱりお姉ちゃん強いなあ」

 

 頬を膨らませて悔しがるユーノ。

 仕留めた数で負けてしまった事がそんなに悔しかったのか、残る飛竜(ワイバーン)へと敵意を剥き出しにした視線を向けた。


 自分らへと狙いを定める肉食獣(ユーノ)の視線を受け、残る三頭の飛竜(ワイバーン)は一歩、また一歩と後退(あとずさ)り。

 明らかに、ユーノに怯える反応を示す。

 

 だが、ユーノは貴重な食糧となる飛竜(ワイバーン)を、一頭たりともこの場から逃すつもりはない。

 

「逃がさないからねっ……いっっっくよおおお!」


 気合いを込めてユーノが大声で吠えると、その大声に怯んだ飛竜(ワイバーン)が動きを止める。

 その隙を見逃さずに、黒鉄(くろがね)の巨大な両の拳を組んで振りかぶり跳躍すると。


「せぇぇぇ……のっっっ‼︎」


 動きの止まった一頭な飛竜(ワイバーン)の頭部を、組んだ両の拳で思い切り真上から殴りつけ。

 重い一撃をまともに喰らった飛竜(ワイバーン)の頭部が地面へと叩きつけられていく。

 

 地に伏した飛竜(ワイバーン)へと、トドメとばかりにもう一度組んだ両拳が振り落とされ。

 頭蓋が砕けた鈍い音とともに、だらしなく開きっぱなしとなった飛竜(ワイバーン)の口から大量の血が吐き出され。

 そして……この個体の息の根が止まる。


 あのユーノの小柄な身体から、一体どれだけの膂力(りょりょく)が繰り出されているのか、想像出来ない。

 もちろん、ユーノが獣人族(ビースト)だからこその身体能力の高さもあるのだろうが。あの怪力の理由は、あの黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)を装着する「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」の効果が非常に大きいのだろう。


 ちなみに余談だが。

 アタシやユーノが何故先程から、飛竜(ワイバーン)の頭部ばかりに攻撃を加えているのかというと。

 この飛竜(ワイバーン)は、ただ暴れたくて召喚したのではなく、難民やアタシたちが食すために倒している。

 ならば、弱い攻撃を繰り返し与えてボロボロにせず、出来るだけ食べられる肉の部分を傷つけずに残しておきたいという配慮なのだ。


 さて。

 残り二頭となった飛竜(ワイバーン)は、ここにきてようやく自分たちの種族が翼を持ち、空を飛べるということを思い出したのか。 

 皮膜の翼を広げて、大空へと浮かび上がる。


 確かに「空を飛ぶ」という行動に出られると、アタシは軍神の加護(ティール)魔術文字(ルーン)と契約した際に、射撃武器の使用を禁じられてしまったために圧倒的に不利となる。

 ……アタシは(・・・・)、だが。


「んふふー、空飛んでもボクからは逃げられないよー?」


 そう言うと、ユーノは右腕の黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)で、空を舞う飛竜(ワイバーン)を指差していくと。


「いっくよぉぉっ────黒鉄の礫(アイアンバレル)っ!」


 構えた黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)の指の一本が、飛竜(ワイバーン)目掛けてもの凄い速度で撃ち出され。

 射出された巨大な指は、翼の皮膜に大きな穴を空けていき、飛行の要を傷つけられた飛竜(ワイバーン)は、身体の均衡(バランス)を崩してくるくると空中で回転しながら落下していく。


 アタシは以前、集落に火攻めを仕掛けた帝国の第二波との戦闘時に、ユーノの遠距離攻撃の手段を見ていたので、安心して見ていられたのだ。


『──ふん。下等な獣同士とは言え、かたやただの飛竜(ワイバーン)。かたや獣人族(ビースト)の中でも希少な種である獅子人族(レーヴェ)だ。実力の差は歴然だろうな』

「へえ……確か、ユーノもその獅子人族(レーヴェ)だって紹介してくれてたっけ。ケルヌンノス、そんなにその獅子人族(レーヴェ)ってのは珍しいモノなのかい?」


 獣人族(ビースト)を卑下して見てるケルヌンノスが悪態を()くが。

 アタシはその「獅子人族(レーヴェ)」という何度も耳にした単語について、ケルヌンノスへと尋ねてみた。何しろ、この杖(ケルヌンノス)に触れた際に流れ込んできた知識には、獣人族(ビースト)獅子人族(レーヴェ)の知識は含まれていなかったのだ。


『──私もそこまで詳しくは知らぬ。何しろ人間社会において獣人族(ビースト)など奴隷同然の扱いだしな。だが、獅子人族(レーヴェ)に生まれた獣人族(ビースト)はその希少さから、貴族らが金貨を積み上げて購入したそうだ』


 ケルヌンノスから語られたのは、アタシが知りたかった知識ではなく、聞きたくもなかった人間社会の闇の部分だった。

 そんな話を聞かされ知らずに歯噛みしていると、慌てたユーノの声が耳に飛び込んでくる。


「あ!……でも、でもっ、のこりのひとつが逃げちゃうよおっ⁉︎」

 

 そう、ユーノが発射した鉄の指は一発。

 対して、まだ空を舞う飛竜(ワイバーン)は一頭残っていた。このままでは、最後の一頭が空の彼方へと飛び去ってしまうのは時間の問題だった。


「……あれれ?あの飛竜(ワイバーン)……なんか、うごきがおかしいよ?」


 ユーノの言葉通り、最後の一頭がなかなか空へと飛び立とうとしなかったのだ。

 いや……翼を大きく広げて、飛竜(ワイバーン)は上を向いて、空へ飛び立とうとはしているのだが。

 不思議なことに身体が少し宙へと浮いているだけで、空へと飛ばない飛竜(ワイバーン)


 まるで、飛竜(ワイバーン)の脚や胴体に重石でも巻き付いているかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ