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85話 アズリア、鹿杖を手に取る

 食糧を補充、もしくは改善するための当面の方針は決定したようだ。


「それじゃ────」


 会議を終える魔王様(リュカオーン)の号令がかけられると、バルムートやモーゼスが席から立ち上がり魔王へと身体を向ける。

 隣を見ると、腕にしがみついていたユーノも二人に倣って腕から離れ、魔王へと向き直っていたので。

 アタシもそれに倣って席を立つと、魔王様(リュカオーン)を見据えると。

 

「今回の討議はこれにて終了だ。全員、キチッと自分の役割を果たしてくれ。もし何か不慮の事態があったら俺様にではなく……」


 口を開いた魔王様(リュカオーン)に何故かビシッとアタシに指を差してくると。

 なんだろう……もの凄く嫌な予感がした。


「暇しているアズリアに報告するように。以上だ」

「────なッ⁉︎」

 

 降って沸いたような話に、驚きの声が喉から出てしまった。

 あろうことかあの魔王は、面倒事を全部アタシに押し付けてきやがったのだ。確かに釣りといい、塩作りといい提案したのはアタシだが。

 

 憤慨するアタシを余所目に、アステロペを引き連れて颯爽(さっそう)と討議の間を出て行ってしまう魔王様(リュカオーン)

 部屋を出る間際に、アタシへと手を振るのを忘れずに。

 

 文句を言おうとした対象が、部屋から姿を消してしまったアタシは、この(いきどお)りをどうしてやろうかと黒壇(オブシダン)の卓に拳を叩きつけよう、そう思った矢先に。

 背後からバルムートに声を掛けられた。


「アズリア殿よ。帰還したら貴殿とは是非手合わせをするという約束であったが……さすがに魔王からの命を放置して、というわけにもいくまい」

「あ、う、うん。そうだねぇ?あ、あはははっ」


 どうやら、卓に振り下ろそうとした拳を制止する目的ではなかったみたいだ。

 アタシは振りかぶった腕をさりげなく下ろし、握った拳を開いて乾いた笑いで誤魔化していく。


「……なので俺としては非常に(・・・)不本意なのだが、あの話はとりあえず落ち着くまでは保留にしておいてくれ」


 そう言い残して部屋を後にするバルムート。

 しかし、彼の中ではアタシと腕試しをする事が楽しみだったのだろう。保留、と言った時の悲しげな顔が何とも気の毒に思えたが。

 まあ、せっかく帝国の連中から守った難民が、食糧不足で飢え死にでもさせるなど本末転倒もいいところだ。

 頑張ってくれよ、バルムート。

 

「それじゃアズリアお姉ちゃんっ、ボクたちもご飯集めるためにがんばらなきゃ、だねっ!……いこいこっ」


 誰も居なくなった討議の間を、ユーノに手を引っ張られながら後にし、城内の廊下を歩いていくアタシ。


 こうして城内を見渡してみると、つい先日まで見当たらなかった石壁の破損や、天井部分から空が見えていたりと。

 アタシらが集落で帝国(グランネリア)の連中を相手にしている間に、城に殴り込んできた三人の刺客との戦闘が、如何に激しかったかを物語っていた。

 そんな事を考えていると。


『────ワタシはここだ……人間よ』


 突然、アタシを呼び止める声が聞こえたので。その場で振り向いて、辺りをぐるりと見渡してみるが、視界内にいるのはアタシの手を引くユーノだけだ。


「ん?……お姉ちゃん、どしたの?」 

「いや、何でもない……何でもないよ」


 立ち止まったと思えば、辺りを警戒し始めるアタシの振る舞いを不思議に思い、首を(かし)げるユーノだったが。

 今、聞こえた声は間違いなくユーノではない。


 確か、城の地下にあった大地の宝珠(クリスタル)を発見した時にも、こうして頭に響いた声に導かれて進んでいた筈だった。

 ならば今度は一体、何が待ち受けているのやら。

 

 それに……謎の声はどうやら廊下の先にある曲がり角の向こう側から聞こえた、ような気がする。

 なので、今度はアタシが今手を握っているユーノを引っ張る体勢になりながら、曲がり道の地点まで走り出していった。

 

「うわっ?……ちょ、ちょっとお姉ちゃんっ、どこ行くの?そっちは出口じゃないのにぃぃ」


 角を曲がったその先でアタシが見たモノとは。


「────うおおッ!……こ、コイツは……」


 血に染まった石畳と、首のない大男の亡骸だった。

 ……状況から察するに、この大男が城に殴り込んできた帝国側の刺客、その一人なのだろう。

 

「う、うわあっ!な、何、このおっきなカラダの……し、死んでるのかな?死んでるんだよね?」

「ああ、間違いなく死んでるから。大丈夫だよ、ユーノ」


 突然、血溜まりに沈む首の無い死体を見て警戒しているのか、おっかなびっくりな態度で中々近寄ろうとしないユーノを余所目(よそめ)に。

 アタシはその大男の死体に無造作に歩み寄っていき、残された身体を観察してみる。

 

「この、身体のあちこちに生えてるのは……鱗だね。それも、もの凄く硬い。こんな硬い鱗、竜属(ドラゴン)くらいなんじゃないかい?」


 まずはその巨躯だ。大きさや、筋肉の付き具合はバルムートと同じくらいなのだが。

 彼とこの大男の最大の違いは、所々肌の表面に浮き出た、まるで竜属(ドラゴン)のような鱗だ。

 試しに腰から取り出した短剣(ダガー)で叩いてみると、こちらの短剣(ダガー)が刃溢れしてしまう程度に、硬い鱗だった。


「ん?……何だ、この真っ黒な剣と杖は」


 大男の死体、その血溜まりに沈んでいた真っ黒な剣、そして同じく真っ黒な杖をアタシは見つけ、その杖を手に取ってしまう。


 漆黒の鹿杖(ケルヌンノス)と呼ばれる、その杖を。

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