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82話 アズリア、深刻な問題に直面する

 アタシは皆を説得してくれた功労者である、背中に抱きついた状態のユーノの頭を撫でてやると。


「えへへっ、それじゃお姉ちゃんっ。ボク……お願いがあるんだけどぉ……いいかな?」

「うん、何だいユーノ?」


 おや、珍しい。

 ユーノが喜ぶ顔見たさに、彼女が行動して何か結果を出したらアタシとバルムートは、まず褒める事にしていた。

 その時によく頭を撫でるのだが、いつもは笑顔を見せて喜びはするものの、こうやっておねだりを求めてきたのは初めてだった。


 さて、ユーノは何をお願いしてくるのだろう?

 その内容がどうあれ、出来る事なら叶えてやりたいが。


「ボク、お姉ちゃんについていってもいい?」


 いきなり難題が叩きつけられる。

 どんなにユーノが愛らしくても、ユーノが獣人族(ビースト)である時点で帝国に連れて行くのは難しいし。

 そもそも帝国と交戦した際に、ユーノの顔や姿を覚えている連中だって数多くいるだろう。


 ……残念ながら、ユーノのその願いをアタシは叶えてやれそうにない。

 そう頭の中で結論は出たのだが、期待に目を輝かせていたユーノの顔を間近に見てしまうと、中々その結論を口にすることが出来ずにいた。


 そんなアタシの困り顔を察したバルムートが、背中のユーノの襟首を掴み、ひょいと持ち上げていく。


「ほれユーノよ、あまりアズリア殿を困らせるものではないぞ。大体俺もお前も帝国の人間を随分と殺してきたのだ。顔が知れてないわけなかろう?」

「やーだーっ!……ボクもいっしょに行くのっ、行くのーっ!」


 いつぞやで見たような既視感のある光景に、悪いなと思いながらアタシは笑いを吹き出してしまったが。


 ……ん?

 もしかして、色々と誤解されてる?

 

「えっと……あのさ、確かにアタシは帝国に潜入するとは言ったけど。今すぐに行ってくる、ってわけじゃないんだよ?」

「な、何だ……今すぐ行くってワケじゃないんだな。いやぁ……それを聞いて安心したぜ」


 アタシのその言葉を聞いて、魔王様(リュカオーン)は張った肩をストンと落とし。

 バルムートは、掴んでいたユーノを思わず離してしまい、落下したユーノも体勢を整える動きを取らずにそのまま床に尻を着いてしまう。


 いや、そりゃそうだろう。

 魔王陣営(コチラ)側には、人員の不足以外にもまだまだ色々と問題が山積みになっている。それを放置して一人だけ帝国に潜入、というわけにはいかない。

 流れで、とはいえ。アタシも魔王陣営(コチラ)側の、しかも四天将なんて偉い立場になってしまった以上は、特に。


「あー……コホン。それでは最初の課題に出た不足した人員の補充に関してはアズリアに一任するとして……次の課題なのだが。城に集められた難民の数があまりに膨大なのだ」

「我らが連れ帰ったのは二つの集落からなのだが、他からも同じような難民がいるというのかアステロペよ?」


 一度咳払いをして空気を変え、新しい議題を話し始めるアステロペ。

 バルムートが言うように、アタシが昨晩森で匿った難民と、帝国兵の襲撃で焼け出された集落の住人らを合わせると70人は超えるだろう。

 

 そのバルムートの問いに対して、アステロペは首を縦に振り、報告を続ける。


「バルムート様らの他にも、昨晩は四つの集落が帝国の襲撃に遭い、その内二つの集落が皆殺しになったと報告があったが、二つの集落の生き残りをこの城で保護している」


 二つの集落が防衛出来なかった、とあるが。

 アタシがバルムートやユーノと遭遇したあの森に、傷付いた伝令の魔族がもし到着しなかったら、あの南東の集落も全滅していた筈だ。

 もしくは、森で匿ったオルニスらが実は「全滅した」とされる集落から逃げ出していたのかもしれない。


 同時に五つの集落を襲撃。

 そして、増援で手薄になった本拠地に鎮座する魔王様(リュカオーン)の首を狙う。

 こうやって今回の帝国側の行動を並べてみると、大々的な作戦だったという全体像がようやく見えてくる。

 

「それでアステロペ。俺様も聞きたいのだが、今この城には一体何人の住人を保護しているんだ?」


 魔王様(リュカオーン)が核心を突く質問をする。

 そう、問題はこの城にどれだけの難民を抱え込んでいるか、なのだ。

 

「────およそ、200人ほどになります」

「に、にひゃくっ⁉︎……え、えっと……いち、に、さん、おおいっ、おおいよおおお!」

「200人か……なあ、それって、城に蓄えて置いてある食糧を全部出したとしても……」


 200という数を、両手の指で数えようとするユーノの仕草は確かに可愛らしいが、今はとりあえず見なかったことにしよう。


 問題は魔王様(リュカオーン)の言葉だ。

 そもそも「食べる」とは、毎日城で出される食事から察するに、あまり食に興味がない魔族であっても、生きるために絶対必要な行為であり。

 特に襲撃され心身共に傷ついた難民らが食糧不足に陥るような事態になれば大問題だ。

 よって、城に貯蔵している食糧の量によっては、すぐにでも食糧の確保を実行に移さないといけなくなるのだが。


 後に続いたアステロペの報告に、衝撃が走る。


「はいリュカオーン様、明日にも城の食糧は尽きてしまうでしょうね。そう、問題の二つ目は……我々を含め、これからの食糧をどうするか、なのです」


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