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81話 アズリア、一つの提案をする

 どうやらバルムートや魔王様(リュカオーン)の話では、海を渡る大遠征に参加せず魔王領(コーデリア)に残った魔族や獣人族(ビースト)らは、コピオスが人間に討伐された事に一定の理解を示している様子だと言う。

 なので、アタシがコピオスを討った事は機を見て、大々的に宣言するという事で決着した。


 というわけで、一旦レオニールへの対処については置いておくことにして。

 最初に問題点として挙げられた、人員の不足をどう補うのかという議題に戻る、のだが。


 アタシは一つ聞いておきたかった事があった。


「なあ、魔王サマよ。アンタらはあの帝国の人間たちをどうしたいんだい?……まあ、あの連中はアンタらを一人残らず全滅させるのが目的らしいけどね」


 全滅させる、と帝国の兵士の口からはっきり聞いたわけではない。

 だが、人間社会ではそもそも魔族は忌むべき種族であり、獣人族(ビースト)は野蛮で下等な種族とされている。


 それに加えて、連中は集落に住む戦闘に参加していない女子供や老齢の者まで、残らす火攻めで全滅させようとしていた作戦や。襲撃した集落に固執せずに部隊ごとに進軍を続けていた行動から察するに。

 帝国は領地を拡大するために襲撃を仕掛けたのではなく、最初から集落の住人を全滅させる気だったと考えれば、合点がいくのだ。


「……連中に(なら)って、帝国の人間を全滅させるまで戦いを終わらせないつもりかい?」


 アタシがこの質問をしたのは、別に魔王やバルムートやユーノらを試してるわけではない。

 正直言って、戦争を仕掛けたのが帝国側で、しかも向こう側が魔王陣営(コチラ)を全滅させる気で攻めてきているのだ。

 

 そんなアタシに魔王様(リュカオーン)が両手を広げて、空を仰ぐような動きを見せて答える。


「……向かってくる兵士や戦士には容赦も情けも必要ねぇが。あの国にまで攻め込んで戦えない人間まで巻き込むつもりもねぇ。第一……面倒じゃねえか、そういうの」

「流石ですリュカオーン様っ!……ということだアズリア。我ら魔族が人間ごときと同じ選択肢を取るなど有り得ないのだ、わかったかっ!」


 アタシは魔王様(リュカオーン)に尋ねた筈だったのに、何故か後ろに控えていたアステロペに叱咤を受ける羽目になっていた。


「あー……わかったわかったよ、さすが魔王サマだね」


 なので、アタシはアステロペ側に向けた耳の穴を指先で塞いで、その小言をやり過ごしていく。


「人の話はきちんと聞け、貴様っ!……そもそもその質問が今の課題と何の関係があるというのだっ」

「ふふん、それが関係大アリなんだよねぇ」


 実はこの質問、魔王陣営(コチラ)側を率いる魔王様(リュカオーン)の意思を確認した事で今課題として上がっている問題点を解決出来る突破口になるかもしれないのだ。

 

「ほう……アズリアよ。お主、一体何を企んでおるんじゃ?」

「……いやぁ、まだ問題を解決出来るかはハッキリと断言出来ないんだけどさ。今後のためにやっておいて損はないかな、と」

「して、その策とは?……ほれ、勿体ぶらずにさっさと言ってしまえい」


 魔王様(リュカオーン)の返答を聞いて思いついた策に、思わずアタシの口角が上がる。

 その表情の変化を見逃さなかったモーゼスの爺さんが、そんなアタシを問い詰めてくる。


「策、なんて難しい事じゃないよ。ただ、アタシが帝国に潜入してみるってだけの話さね」


 これがアタシか導き出した答えだった。


『……は?』


 もちろん、とでも言おうか。それを聞いて全員が間の抜けた疑問符を口にした。

 ……いや、正確にはユーノ以外の全員が、だが。

 

 何を馬鹿な事を言い出すのか、という顔をしているモーゼスやアステロペ。

 反対に、どんな突拍子もない事を言い出すのか期待に満ちた目をしているのは魔王様(リュカオーン)とバルムート。


 全員の視線を集めているアタシは席から立ち上がると、自分の発言についての説明を始める。


「……まあ、話は最後まで聞けよ。まずアタシは知っての通りの人間だ、だから人間の国である帝国には問題なく入れるだろうさ」 

「いや、まあ……こう言っては何だが、アズリア殿の実力ならば強引にでも押し通ることが可能だろう。そこは心配はしてないのだが……」

「そもそも、何故に貴様が帝国に潜入する必要があるのか、それを説明しろと言っているのだ!」


 一向に本題である「人員の不足」をどう解消するのか、アタシの帝国に潜入する案との関連性を理解出来ず。

 アステロペが卓に歩み寄ると、その拳で卓をドン!と叩いて、苛立ちを(あら)わにする。


「……さっき、魔王サマが帝国の人間を全滅させる気がないと言ったね。ならまず帝国とは何なのか?……これから先戦い続けるにしろ、敵を知る必要があると思うんだよねぇ」


 立ち上がったアタシは、苛立ちを隠す気のないアステロペに歩み寄っていくと。

 彼女のその豊満な胸の谷間に指先を当てながら、アタシは自分が提案した潜入策の必要性を説いていく。


「じゃあアステロペ。アンタはさ、帝国の内部事情を一体どこまで知ってるっていうんだい?」

「……そ、それは……あの人間どもが、セドリックという神を信奉して、我ら魔族を目の敵にしているくらいは……知っているぞ」


 残念ながら、アタシも昨晩の戦いで敵兵を尋問した事で、アステロペが口にした内容は既に知っている。

 でも、それはあくまで上部だけの情報であって、「帝国を知った」と言い張るには不十分なのだ。


「だから、もしかしたら帝国の内部にゃアタシら魔王陣営とこれ以上争いたくない人間がいるかもしれないだろ?……それを確かめるためにも、アタシを行かせてくれないか?」

「……ボクもお姉ちゃんにさんせーいっ!」


 そこで手を上げたのは、まさか話し合いに参加してなかったと思い込んでいたユーノだった。


「ずっとずっとせんそうしっぱなしなんて、ボク……そんなのイヤだよぉ!だからボク、お姉ちゃんにきょうりょくしてせんそうをおわりにするのっ!」


 ユーノも自分の席から立ち上がって、アタシの背中へと飛び付いてきて、首に手を回して背中へと覆い被さってきたのだ。


「……みんなは、たたかい、ずっとつづけたいの?」


 ユーノのその言葉を聞いて、魔王様(リュカオーン)もバルムートも、モーゼス爺さんも観念したような表情を浮かべ。


「……参ったな、今回はユーノの言う通りだぜ」

「まったくぢゃ、泣く子とユーノには勝てん……と言う事かの、ほっほっほ」


 どうやら、ユーノが味方に着いてくれたおかげで、アタシが帝国に潜入して帝国内部を調査する案は、無事に通りそうな予感だ。

 もっとも、この会議で皆に承認されようがされまいが、アタシは勝手に帝国の都市を覗きに赴いただろうが。


「……どうせアズリア、貴様のことだ。ここで私が強く反対したとしても、昨晩勝手に城を抜け出したように……勝手に帝国に潜入するつもりだったんだろう?」


 実は、アステロペは本当に読心の魔法を使用してアタシの頭の中身を覗いてるのではないのだろうか?

 

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