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78話 アズリア、魔王と語らう

 そしてアタシは、集落への襲撃の状況や難民への対応など話を聞くためにバルムートとユーノを連れて行くアステロペと行動を別にし。

 一人になって、単独で城へと向かっていると。


「おお、帰ってきたかアズリアよ。俺様はてっきり夜のうちに海を渡り、大陸へと帰ってしまったのかと心配していたぞ」


 と、本気なのか冗談なのか判別しにくい発言をしながら、城の中から登場してきたのは銀髪の獣人族(ビースト)……魔王リュカオーンだった。

 一見、軽薄そうな口調にバルムートと見比べて一回り、いや二回りは小さな身体だが。これでも本気で戦えばアタシなど遥かに凌駕する強さの、立派に「西の魔王」の名を冠する男なのだ。


「はははっ、確かに大陸に帰っちまえば楽だったんだけどねぇ」

「いや、謝らせてくれアズリア。俺様はあの人間の国と俺たち魔族、そして獣人族(ビースト)連合の争い事にお前を巻き込むつもりはなかった……これは本当の気持ちだ」


 そんな魔王様(リュカオーン)が、顔を合わせるなり突然深々と頭を下げて、アタシへの謝罪の言葉を口にしてきたのだ。

 アタシがバルムートたちと合流して帝国の部隊と事を構えた話は、つい先程アステロペに伝えたばかりなので、魔王様(リュカオーン)が知る(よし)はない筈なのだが。


 多分これは、実際にアタシが帝国兵と交戦した事実に謝罪しているのではなく。

 アタシと同じ種族である「人間」に敵対行為を行った事への謝罪なのだろう。


「気にしないでイイよ魔王サマ。人間なんてのはね、同属同士で国を分けて、年がら年中殺し合いを続けてるような種族なのさ。そんな事くらいアンタなら知ってるだろ?」


 だからアタシは、頭を下げてる魔王様(リュカオーン)の上半身を無理やり起こして。

 不本意ながら神聖帝国(グランネリア)との戦いに巻き込まれてしまったアタシへの、魔王様(リュカオーン)を気遣いに対する返答を口にした。


 その返答には、多少なりともアタシが今までに見てきた人間への醜い部分や自虐的な要素が含まれていた。


「……かく言うアタシも、多分魔族を殺した数より、人間を殺した数のほうが多かったりするんだよ……もしかして、軽蔑しちゃったかい?」


 アタシはただ「謝らなくていい」と魔王様(リュカオーン)に言いたかっただけなのに。

 言葉を続けるうちに、自虐的な言葉の刃はアタシ自身をも対象として、自分自身を貶めていった。


 正直に言えば。

 アタシは傭兵稼業もしてきたし、冒険者として野盗などを殺したこともある。ついこの間までは、故郷だったドライゼル帝国とホルハイムとの戦争に横入りし、帝国兵を何人この手で殺したのかは数え切れない。

 だから自分で言っておいて何だが、相手が敵対している限りは、同属である人間を殺す事にアタシは躊躇(ちゅうちょ)なと無い。

 

 だが、帝国(グランネリア)の兵士たちに「同じ人間だ」と言われ続けるうちに、アタシの心の内側に宿った……一つの暗い感情。

 

 もしかして、アタシという人間はとんでもなく血も涙もない冷酷な存在ではないか、と考えてしまうのだ。

 そんな乾いた笑いを浮かべたアタシの胸に当てられたのは、魔王様(リュカオーン)の握った拳。


「軽蔑なぞするものか。アズリア、お前がもし同属を殺めたとしても……それはこの魔王領(コーデリア)に住まう俺たち魔族、そして獣人族(ビースト)のために振るってくれた剣だ」


 魔王様(リュカオーン)の言葉の熱。

 そして、拳を通して伝わってくる、熱に。

 少しだけ、心が救われた気がしたのだ。


「お、おい……アズリア、お前……泣いてるのか?」

 

 その、胸から込み上げる熱がアタシの目頭に伝わってきて、それが一滴の涙となって、右眼から溢れ落ちたのだった。

 その涙をアタシは乱暴に腕で拭うと、一瞬だけ心の中に芽生えた暗い感情を押し潰すように、無理やり歯を見せて笑ってみせる。


「ははッ、その……ありがとな。それとな、魔王サマ……あらためてアタシは、アンタたちと一緒に戦うことに決めたよ」

「お、おう………………」


 そんなアタシの笑顔を見て、言葉を詰まらせたような反応を見せ、少し呆けた顔をした魔王様(リュカオーン)だが。

 不思議そうにジッと魔王様(リュカオーン)の顔を見つめていくと、何回か咳払いをしてから。


「い……いや、その申し出は、コピオスの件で戦力が足りてないのが正直だから、両手を挙げて大歓迎なんだが……その、なんだ。アズリアは同属を敵に回すのに後悔はないのか?」

「ああ、最初はアステロペから、アンタたち側の事情しか聞けなかったからどうしようかは考えたんだけどね」


 アタシがこの魔王領(コーデリア)で遭遇した様々な魔族や獣人族(ビースト)と接していくうちに。

 彼らの同属意識や、魔族らからは決して神聖帝国(グランネリア)領には攻め込まない、ということを知った。


 それに、集落を火攻めにしようとした、謎の神セドリックを信奉する連中から聞き出した帝国(グランネリア)の内情や、人間が魔族や異種族を見下す身勝手な理屈。

 それは、連中が信仰している神自らが信徒である帝国の民を先導して、魔族との闘争に駆り出しているという、まさにその点だ。

 

「……帝国(グランネリア)の連中が信仰してる、あのセドリックとかいう神が、話を聞けば聞く程どうにも胡散臭くてねぇ……それに」


 先程のお返しとばかりに、今度はアタシが拳を握り、魔王様(リュカオーン)の胸板をコツンと拳で触れていき。


「魔王サマ、アンタとは正々堂々と力を出し切ったうえで殴り合った関係なんだ。胡散臭い神と、拳を交えた相手……アタシはアンタを選んだんだ」


 先程のように無理やりではなく。

 魔王様(リュカオーン)へと自然に笑いかけていく。


「……それじゃ、満足な答えにはならないかい?」


 すると魔王は、同じく笑顔を浮かべると胸に置いたアタシの拳を、両手で強く握り締めながら口を開く。


「いや、俺様には充分すぎる答えだぜ、アズリア……さすがは俺様の花嫁候補だ、惚れ直したぜぇ」 


 アタシは握られてないほうの手で同じく拳を握ると、まだ花嫁の話を持ち出してきた魔王様(リュカオーン)の頬に、ゆっくりと動かした拳をピタリと当てる。


「……あまり調子に乗るな、っての。アステロペに聞かれたらアタシもアンタもタダじゃ済まないよ?」

「ははは、まったくだな。二人で地べたに座らされて小言の嵐を受けるのは俺様も勘弁だ」


 ……実はアタシも魔王様(リュカオーン)も、何か問題を起こすたびに凄い剣幕で、魔法で強制的に地べたに座らされて叱られる、といった事を何度も繰り返していたので。

 すっかり怒りの表情で迫るアステロペに、身体が反応してしまう様になっていたのだった。


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