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66話 アズリア、集落で朝を迎える

 魔王城での戦闘が終わりを迎えた頃。


 バルムートやユーノらと一緒に、救援に向かった南東の集落でも、同じように日が昇り、夜が明けようとしていた。


「……う……うぅん……ふわぁぁぁぁ……あれ?アタシ、いつの間に寝ちまってたよ……あふぅ」


 どうやらアタシは、負傷した集落の住人やそれを守って奮戦した魔族や獣人族(ビースト)の戦士、そしてバルムート配下の高位魔族ゴードンを治療するために生命と豊穣(イング)魔術文字(ルーン)を使い、魔力をかなり限界まで消耗したせいか、そのまま眠りについてしまったらしい。


 建物の外を窓口から覗くと、空はもう朱いどころかすっかり朝の清々しい青空を覗かせていた。

 その青い空を見て、アタシは額に手を当て。


「あちゃあ……夜のうちに城に戻るのは無理だったかあ……さて、城の連中にどう言い訳しようかねぇ……」


 肉を食いたい一心で夜中に魔王城をこっそりと抜け出したものの、結局は集落で一晩を明かしてしまい、アステロペが怒る顔やモーゼス爺さんのお仕置きをどう躱そうか考えていると。


「……ううん……お姉……ちゃぁぁぁん……すぅ」


 アタシの横に、ぴったりと身体を寄せている小さな女の子の温もりと、可愛らしい寝言が聞こえてきたのだ。


 この可愛らしい女の子はユーノ。

 見た目こそ子供だが、何でも獣人族(ビースト)の中でも希少な種族である獅子人族(レーヴェ)であり。

 大地の魔力を黒鉄(くろがね)籠手(ガンドレッド)として拳に纏い、帝国の連中を蹴散らしていく様は「四天将」と呼ばれる立派な実力の持ち主であるのは間違いない。


 だが、その寝顔は愛らしいの一言に尽きる。

 アタシは、そんなユーノを起こさないように慎重に身体を起こしていき立ち上がると、しっかりと目を覚ますために朝の空気を吸い込もうと、建物の外へと出るのだが。


「おお、目を覚ましたかアズリア殿。どうだ、すこしは眠りについて魔力は回復出来たか?」


 そこに待っていたのは、差し込んだ朝の日差しを完全に覆い隠すほどの巨躯を誇る魔族、バルムートだった。

 しかし、得物である巨大な戦斧(バトルアックス)を抱えたまま、建物の外に立っていた……ということは、もしかして。


「ば、バルムート……アンタまさか、アタシらが眠ってる間、ずっと外で見張ってくれてたってのかい?」

「ふむ。何しろ貴殿には、我が部下たるゴードンの生命だけでなく、負傷した住人全員を救ってもらったのだ。魔力を回復させる間、邪魔が入らんようにするのは当然であろう?」


 恩に着せるわけでもなく、さらりと言ってのけるバルムートの態度に、少しばかり胸が熱くなるのを感じたが。

 素直に「ありがとう」と感謝の言葉を言えたらよかったのだが、アタシの喉から出てきた言葉は。


「い、いや、アレはアタシがしたいから勝手にしただけで──」

「ならばアズリア殿。俺もそうしたいから勝手に見張っていただけよ」


 そうバルムートに胸を張りながら言い返されてしまうと、アタシはこれ以上返す言葉がなくなってしまう。


「……ぷッ!……ははっ、アンタも強情だねぇ」

「いやいや。強情さでは俺はアズリア殿の足元にも及ばぬと思うぞ……がっはっは!」


 ふと我に返ると、朝から随分と下らない事を張り合っていた事に気付き、互いの顔を見て笑い出してしまうのだが。


 その直後、アタシの耳に聞こえてきたのはけたたましく地面を駆ける蹄の音だった。

 どうやらバルムートもその音を察知したらしく、肩に担いでいた戦斧(バトルアックス)を両手で構え直す。

 

「……アズリア殿、得物の大剣を建物から取って来るまでは俺がこの場を持たせる」


 だが、アタシは一度地面に倒れ込み。

 地面に耳を付けて、こちらに接近してくる蹄の音の数を、出来る限り正確に判別してみる。


「……待った。どうもこの蹄の音……コッチに来るのは、たった二頭だ。帝国(グランネリア)の連中ならそんな少数で攻めて来るかい?」


 しかも聞こえてくる方角は、帝国のある側ではなく、アタシらが進軍してきた道からだ。

 だが、もし森で遭遇したバルムートの率いる魔族らの部隊が増援に来たのだとしても、二騎という数は辻褄が合わない。


 何故アタシが建物に武器を取りに戻らないのかというと、さすがに大剣を持った状態で、寝ているユーノを起こさずに出入りするのは、到底無理だからだ。

 彼女は幼いが、感覚の敏感な獣人族(ビースト)なのだから。


「見えたぞ!……ん?……あれは、おお!アズリア殿、どうやら味方のようだぞ……にしては様子がおかしいが」


 やはり目視ともなると、頭一つ背丈の抜きん出たバルムートに勝るものはない。接近する蹄の音の正体が味方……つまり魔族だというところまでは判別出来たものの。

 やはり増援というには違和感があったのは、彼にも理解出来たようで。


 アタシにも目視出来る程接近してきたその騎兵が乗った軍馬は、集落に到着した途端に疲労困憊になり脚が(もつ)れ、転倒してしまう。

 だが、騎乗していた魔族はそれでも息を切らして必死の形相で、バルムートの元へと走り寄り。


「……はぁ、はぁ……も、申し上げますバルムート様!……そ、それにユーノ様っ!……て、帝国からの戦士三名に……はぁ、はぁ……ま、魔王城が急襲を受けました……っっ!」

「……な、なんだとおっ!し、城が攻撃を?」


 その報告を聞いて、バルムートもだが……アタシも驚きの声をあげてしまった。

 まさか……帝国にそんな手段を取れるような戦力があった事に。

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