表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
354/1758

64話 魔王、挑戦者を殲滅する

 竜王(ティフォーン)の戦意は今や崩壊寸前だった。

 その理由は、目の前に。そして自分の背後に雷撃を纏って髪を逆立てた魔王リュカオーン……その身体から感じる力の重厚さに、だった。

 

「……ま────」


 竜王(ティフォーン)が言葉を発しようとした、まさにその瞬間に目の前の魔王の姿が揺れ、視界から消えた。

 それと同時に腹に響く、重い衝撃。

 その腹部から全身へと奔る、激痛。


「……が…………はあッ……な、何が……起きた?」


 その衝撃の正体が、自分の巨躯の懐深くに潜り込んだ魔王が放った五本の爪撃、その全てが腹の竜鱗(ドラゴンスケイル)を貫通、破壊していたことによるモノだと理解する前に。

 今度は背中に奔る、同じ威力の衝撃と激痛。


 前後を二体の魔王に挟まれる体勢で、次々と矢継ぎ早に繰り出される爪撃の速度は、もはや目で捉え切れるという話ではなく。


「ぐ……ぐうう……せ、せめて頭と胸だけでも……っ」


 何とか前面の攻撃だけでも防御しようと、両腕で頭部と胸を守るように防御姿勢を堅めるが、まるで雷撃を思わせる連続爪撃は、両腕の表面の竜鱗(ドラゴンスケイル)、そして防御に使った両腕をも瞬時に破壊していく。

 

「ぐおおおおお⁉︎……う、腕がっ、腕がああああ!」


 なおも容赦無く繰り出される魔王リュカオーンの一撃ごとに、竜王(ティフォーン)の全身の表面に張った竜鱗(ドラゴンスケイル)は、もう半分以上が砕け散り。

 そこに立っているのは、竜属(ドラゴン)の防御能力と、剛毅の魔剣(ティガ・スパーダ)が宿った両腕を喪失した、ただの大男でしかなかった。

 

 だが。

 無数の爪撃で鱗に守られていた素肌を斬り裂かれ、噴き出す鮮血で血塗れになった竜王(ティフォーン)ベオーグの。

 その鋭い眼光は、まだ死んではいなかったのだ。


「……ま、魔王よ……調子に乗るな────があああああああ!」


 竜王(ティフォーン)が持つ最後の武器。

 それは頭部に生えている鹿角の元となった、賢聖の鹿杖(ケルヌンノス)の祝福……だが、攻撃が止まないこの戦況では、呑気に詠唱をする隙など与えてくれる魔王(あいて)ではない。


 ならば……と、鹿杖(ケルヌンノス)から生み出した膨大な量の魔力を口から吐き出す準備を終える。


 先程は何故か、魔王が得意としている雷属性の対抗属性である地の魔力を込めた石竜の吐息(ペトロ・ブレス)を打ち消される不可解な状況だったが。

 そこは魔王のことだ。

 対抗属性への対応策も当然、用意していたのだろう。


 だから今度は魔王の脚を止める氷竜の吐息(フリーズ・ブレス)を撃つ。

 しかも、前後の魔王。そして遠巻きに控えた二体の魔族を巻き込むために、放ったら首を大きく回して吐息(ブレス)を広範囲に撒き散らす。

 

 ────喰らうがいい、魔族どもよ。


「残念だったな────冬を喰らう魔口(ガスト・フリーズ)


 絶望を告げる魔法(ことば)は、魔王からではなく。

 遠巻きに立っていた魔族から紡がれた。


 再び、竜王(ティフォーン)の眼前の空間が大きく開くと、あらかじめの思惑通りに首を大きく回して広範囲に放たれた氷竜の吐息(フリーズ・ブレス)を、残らず喰らい尽くす(・・・・・・)


「……は、はは……な、何なんだ……この穴は……二度も我の竜の吐息(ブレス)を……」


 一度ならず二度までも、残る唯一の武器を完全に封殺され、魔法を三度封殺した賢聖(ミーティア)ロアスとまるっきり同じ顔をしていた竜王(ティフォーン)へ言葉を掛ける。


「悪いな人間……私の使い魔(ファミリア)の『魔素喰らい(ベリアル)』はな、底無しの腹を持つ魔力好きなのでな」


 魔術師は時に、使い魔(ファミリア)と呼ばれる手の平ほどの小型の魔族を召喚し、契約により従属させている場合がある。

 人間社会においては、さすがに魔族の姿のままでは抹殺されてしまうので、鳥や猫などの姿に変えて傍に置いておくことが多いのだが。


 小型といえども魔族。召喚された魔族には大概何らかの特殊な能力を有しており、その能力を目当てとして魔術師は優秀な使い魔(ファミリア)を常に求めているのだが。

 

 アステロペが契約している「魔素喰らい(ベリアル)」という名の使い魔(ファミリア)は。少々特殊すぎる能力を有していたのだ。


 そう。

 ……賢聖(ミーティア)ロアスの魔法を喰ったのも。

 ……竜王(ティフォーン)竜の吐息(ブレス)を喰ったのも。

 全部が魔喰(ベリアル)の能力である「魔力を底無しに吸収する事が出来る」というものだった。


 もちろんそんな危険な能力を野放しにはしておけず、アステロペは従属の契約に際して。


『発動させる魔法以外でその能力を使用しない』


 という誓約を課しているのだ。

 アステロペの汎用とも言える対抗魔法(カウンターマジック)は、彼女の使い魔(ファミリア)に餌を与える合言葉だったのだ。

 

「……とはいえ、人間よ。お前があの坊やを殺してわざわざあの鹿杖(ケルヌンノス)を吸収さえしなければ、魔素喰らい(ベリアル)吐息(ブレス)を喰われることもなかったのだがな」


 対して、竜の吐息(ドラゴンブレス)とは先述のように発動に魔力を要するとはいえ、決して魔法ではなく、吐き出されるのは一切の魔力を含まない「現象」そのものなのだ。

 よって、魔素喰らい(ベリアル)では魔力を有していない吐息(ブレス)を打ち消すことは不可能なのだ。

 

「きっとあの坊やも、自分を殺した貴様が死ぬのを願っていたのだろうよ」

 

 アステロペの最後の言葉を聞いて。

 完全に戦意を喪失し絶望した竜王(ティフォーン)ベオーグは、膝を突いて「馬鹿な」を繰り返し呟いていた。

 

 そんな竜王(ティフォーン)へと無造作に歩いて近寄っていく魔王だが、もう髭面の大男は何の反応も示さない。

 竜王(ティフォーン)のすぐ隣に立った魔王は、四本の爪を揃えると、無言でその爪を竜王(ティフォーン)だった男の首筋へと振り下ろし。


 石畳に飛び散る大量の鮮血。

 竜王(ティフォーン)の口から断末魔を漏らすことはなく。

 その血溜まりに髭面の首が、転がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者のモチベーションに繋がるので。

続きが気になる人はこの作品への

☆評価や ブクマ登録を 是非よろしくお願いします。

皆様の応援の積み重ねが欲しいのです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ