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56話 アステロペ、不敵に笑う

「……いかん、やはり竜王(ティフォーン)とて魔王を一人で倒すには無理があったか、加勢するぞ賢聖(ミーティア)っ!」

「はいっ────空と大地の狭間にて吹き荒ぶ風よ、我が元に集いで渦を成せ……」


 魔王リュカオーンの一撃を背中に喰らい、苦悶する仲間の窮地を救うために、巻き込まれぬように少し離れて様子を見ていた「剛毅(パワー)」と「賢聖(ミーティア)」の二人だったが。


 魔王陣営も、敵側の加勢を黙って見過ごすつもりはない。

 大層な装飾の杖を構えた子供が、詠唱を開始したのに合わせて、その詠唱を耳にしたアステロペも同じく詠唱を紡ぎ始める。


「────其は空、その魔の根源は大気、なれば我はここに命ずる……」


 一方で、先程食人鬼(オーガ)の鉄の棒を受け切った抜き身の剣を構えて、腰を落として竜王(ティフォーン)ベオーグの背中に張り付いた魔王へと飛び掛かろうとした、その刹那。

 

 剛毅(パワー)の前に突然割り込んだ何者かが、その腹へと鋭い蹴りを繰り出し。


「何っっ⁉︎…………ぐはあああっっっ!」


 魔王に完全に気を取られ、回避出来ずに腹への蹴りが直撃した剛毅(パワー)は、自分たちが侵入するために城壁に空けた大穴の外へと吹き飛ばされていった。


 その人影(・・・・)はというと(・・・・・)、魔王への援護には参戦せず、蹴り飛ばした剛毅(パワー)を追撃するために大穴から外へ飛び出していく。


 ……飛び出す直前に、この場に残るアステロペと確信にも似た笑顔を交わし合って。


 その間にも、詠唱を続けていた賢聖(ミーティア)と、そしてアステロペ双方が共に、詠唱を終えて準備していた魔法を同時に(・・・)解き放つ。


「……撃ち貫け!──── 解放する嵐撃(タービュランスカノン)っっ!」

「……やらせんぞっ!────風を喰らう魔口(ガスト・ストーム)


 賢聖(ミーティア)の杖の上空に収束した魔力の塊から、渦巻く小型の竜巻が一条の帯のようにリュカオーン目掛けて放たれるが。

 その魔王の周囲の空間が、まるで生き物の口のように開かれると、発生した渦巻く風の帯を残らず飲み込んでいった。


 賢聖(ミーティア)は、自分が発動した風魔法をまさかそのような方法で打ち消されるとは想定しておらず、驚いた顔を浮かべていたが。

 即座に、眼前で起きた現象を頭の中で分析し。

 ……解析を完了する。


「ふふ……やりますね、魔族の分際で。僕が風魔法を発動すると詠唱から判断して、すぐに風属性の対抗魔法(カウンターマジック)を発動する辺り、魔法戦闘に慣れているみたいですね」


 魔法ごとに属性が分けられている以上、どうしても「相性の悪い属性」というモノは存在してしまう。

 そして大概は、相性の悪い属性側には「対抗魔法(カウンターマジック)」と呼ばれる、相手の属性を狙い撃ちしたかのように、魔法効果を打ち消したり無効化したりする魔法が用意されていたりする。


 まさに今、賢聖(ミーティア)が発動した風魔法が打ち消されたように。


「……(だんま)りですか。確かに我々魔術師というものは、余計なことを下手に口にすれば……それは自分の得意な魔法属性を知られてしまい、魔法戦闘では(いちじる)しく不利になってしまいますからね……ですが」


 そう言い放った賢聖(ミーティア)は、自分が握る背丈以上もある真っ黒に塗られた、先端には金色の鹿の角が施された仰々(ぎょうぎょう)しい杖を振りかざし。


「僕が神セドリックから授かりし祝福(チカラ)とは、すなわち複数の得意属性を有し、強力な魔法を操るこの杖です。僕がこの杖と共にある限り……僕に苦手な属性などないのですから」


 この世界で現在、一般的に普及している魔術は治癒魔法など一部の例外を除き、12の属性に分別されている。

 そして、一般魔法(コモンマジック)から超級魔法(ハイエンシェント)までの魔術の高度さ、難易度を指し示す魔法の等級を深さに喩えるとすれば。

 自分が扱える属性の種類こそ、広さになるだろう。


 大概、得意な属性は一つというのは何も人間に限った話ではなく、これは魔術を得意とする魔族や妖精族(エルフ)なども原則、得意属性は一つである。

 得意属性以外の魔法が扱えない、という理屈ではないのだが。先程例に挙げた魔法の等級に限って言えば、得意属性とそれ以外の属性では習得出来る難易度は一段、二段変わってくる。


 だが、やはり「例外」というものはあって。

 先天的に、もしくは後天的に得意属性を複数所持している者も存在している。


 この────「賢聖(ミーティア)」ロアスという少年は。

 神セドリックの神託を受けし銀髪の巫女(ネレイア)より、膨大な魔力と、そして魔術の知識を蓄えた知恵持つ杖ケルヌンノスを授けられた。

 そして手に入れたのだ。

 複数の得意属性と、今まで見た事も想像すらし得なかった、数々の強大な魔法を。


 この魔王城の外殻を破壊した「堕ちる巨岩(ハンマーストライク)」は地属性の上級魔法(エンシェント)

 そして打ち消されたとは言え、先程発動させた「解放する嵐撃(タービュランスカノン)」は風属性の上級魔法(エンシェント)なのだ。


 賢聖の少年(ロアス)の言葉が真実だとしたら。

 12の属性全てが、彼の得意属性ということになる。

 

「……ですからこれは忠告です。たかが風属性一つを無効にした程度で勝った気でいないほうが良いですよ」


 対して、アステロペが得意としているのは闇属性ただ一種類のみであった。

 普通に考えれば、魔法戦闘を続ける限りアステロペに勝機はない、と思うのが妥当だった。


「く……くく、くっくっく……」


 だが……この後に及んで、女魔族(アステロペ)は声を押し殺すように、しかし漏れるのも構わないとばかりに笑っていた。

 それは、あの女戦士(アズリア)が浮かべるような強者と交わる愉悦といった表情ではなく、明らかに目の前の賢聖の少年(ロアス)を憐れむような視線。


 一言で表現するならば────侮蔑。

 

「な、何がおかしいのですか!……あまりの能力の違いに、気でも()れましたか?」


 その態度に、さすがに我慢がならなかったのか先程まで饒舌に自分の能力の説明をしていた口調とは違い、苛立った声をあげる賢聖(ミーティア)

 その言葉を聞いて、一旦笑い声を止めたアステロペは。


「いや悪い、大層な魔法を繰り出すからどれ程の使い手なのかと興味を持ってみたが、何の事はない……大層な(おもちゃ)を持っただけの、頭の中身は見た目通りの子供だったのでな、思わず笑ってしまったのだ。まあ許せ」

 

 と、まるで駄々を捏ねる子供をあやすような口調で、言葉の上だけの謝罪を口にしていくのだった。


解放する嵐撃(タービュランスカノン)

風の魔力をまず一点に収縮して、一気に指向性を持たせて解放することで生み出された激しい気流の渦を対象へと放つ風属性の上級魔法(エンシェント)


直撃すれば人間の肉体程度の強度ならば、大穴を空け貫通するか、その衝撃で遥か上空に吹き飛ばされ墜落死するかの二択である。


風を喰らう魔口(ガスト・ストーム)」をここで解説しないのには、少し理由がありますが。

とりあえず、あれ(・・)は一般的な魔法ではない、とだけ言っておきます。


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