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51話 アズリア、違和感の正体

 そう言い放ったユーノは、率先してこの部屋に集まる集落の住人や兵士たちの中から負傷が酷い者を探して、アタシを引っ張っていってくれた。


 その行動自体は大して助けにはなってはないものの、アタシはユーノが手伝ってくれるという判断をしてくれた事が嬉しくなってしまった。


「……イイのかい、ユーノ。アンタも四天将なんだろ?……だったら」

「ううんっ、お姉ちゃんが『助ける』っていうならみんな助かるよっ。それにボクも……みんなが助かるほうがいいにきまってるじゃん!」


 アタシが生命と豊穣(イング)魔術文字(ルーン)を発動させ、治療をしていたその横で。

 そんなユーノの発言を聞いて、溜め息を吐いたバルムートは、自分の顔の前で拳を握ると。

  

「……ふんっ!」


 その拳で、自分の頬を一度殴りつけていった。

 それがただの仕草ではなく、結構な力を込めて殴ったというのは、口端から流れた血で理解した。


「……自分の部下を目の当たりにして俺は冷静さを欠いていたのかもしれんし。俺はどこかでアズリア殿を気遣うつもりで侮っていたのかもしれんな……」


 ……アタシはここで巨躯の魔族(バルムート)の選択を「部下贔屓(びいき)」だと批難するつもりはない。

 寧ろ、この場にいる怪我人の数は雄に両手の指の数を超える。そんな人数の負傷者を治療してくれ、と頼み込んでくるほうが余程だと思う。


「だが、ユーノの言葉で俺も目が覚めたわ。頼むアズリア殿……出来る限りでいい。まずは住人らの怪我を治してやって欲しい、あらためてお願いする」

「バルちゃん…………」


 そう言って頭を深く下げるバルムート。

 バルムートにもお墨付きを貰ったのなら、アタシももう出し惜しみをする必要はなくなった。

 

「なら、アタシが魔力切れで足腰立たなくなった時には、城まで馬に乗せていってくれないかねぇ?」

「お……おお、そんな事ならば、お易い御用だ」


 それを聞いて、アタシは負傷者を治療中にもかかわらず指から滲む自分の血で、背中に大きな刃傷のある兵士に魔術文字(ルーン)を描いていく。

 

 これは「二重発動(デュアルルーン)」の準備だ。


 最初は一つの魔術文字(ルーン)しか発動出来なかったが、師匠(ドリアード)と出会ってアタシの魔力の器を広げる(すべ)を教えてもらったことで。

 今のアタシは、二つの魔術文字(ルーン)までなら同時に発動することが出来るようになったのだ。


 ────そして、治療は無事終了した。


「……はああぁぁ、よ、ようやく全員分終わったけど……あ、あはは、も、もう立ってらんないね……おっと」


 いや、正確にはアタシの魔力は全然無事ではないが。

 何とかまだ意識を保っていられるくらいには僅かながら魔力が残っているが、今「立て」と言われても立つことすら出来ない程、足や腰に力が入らない。

 そんなアタシの膝から崩れ落ちそうになる身体を、両脇からユーノとバルムートが支えてくれる。


「……まさか本当に負傷者全員を治療してくれるとはな、貴殿には脱帽したぞ」

「アズリアお姉ちゃん、おつかれさまっ」

「あ、ああ……ありがとう、二人ともッ」


 二人に支えられたアタシは、ゆっくりと床に腰を下ろしていく。

 そんなアタシに差し出されたのは、比較的軽い治療で済んだ集落の子供らからの、湯気ののぼる温かい飲み物だった。


「村のみんなを助けてくれてありがとうっ、人間のお姉さんっ」

「…………いや、こっちこそ。ありがとうな」


 提供された飲み物の温かさ以上に、子供からの感謝の言葉がアタシの心に深く沁みてくる。


 同じ人間である帝国(グランネリア)の連中に、集落をここまで荒らされたのだ。たとえアタシが負傷者を治療したとはいえ、怨嗟の声をぶつけられる程度は覚悟していただけに、である。


 そうこうしていると。

 部屋の中央に寝かされ、治療ですっかり傷の塞がったアドニス配下の兵士の魔族が目を覚ます。


「……こ、此処は……ば、バルムート様……?」

「おお!目を覚ましたか……よかったぞ、うむ、本当にゴードン、お前だけでも助かってよかったわ……」

 

 アタシは貰った飲み物を口に運びながら、二人のやり取りを見守っていた。

 魔力を消耗しすぎたとはいえ、意識を失わずにこうして話を聞ける状態でいたことで、アタシがずっと胸に抱いていた一連の違和感、その答えが晴らせるかもしれないからだ。

 

「さて、聞かせてくれゴードン。お前やアドニスらの部隊に何があった?……普通に戦えば、戦力的に帝国の人間らに遅れを取るお前たちではあるまい……?」

「わ、わかりました。実は──」


 この「ゴードン」と呼ばれる魔族の口から語られたのは、アドニス隊が帝国(グランネリア)軍から受けた待ち伏せから、隊が壊滅に至るまでの詳細であった。

 主要な魔族らの能力を完全に封じる戦術。

 そして、アドニスを瞬殺した暗殺者の存在。

 その暗殺者とは、おそらくはアディーナと名乗って逃げ去っていったあの白い修道女(シスター)だろう。


 そう。

 アタシが抱いていた違和感の正体がコレだった。

 先にも説明したが、人間と魔族とでは身体能力や魔力で比較にならない戦力差がある筈なのに。いくら魔族側が防衛に徹していたとしても、ここまで帝国(グランネリア)側が圧倒的優勢な戦況なのが理解出来なかったのだが。

 

 待ち伏せ、そして能力(チカラ)の封殺。

 暗殺者(アディーナ)の適時投入。

 

 明らかに、魔族側の行動や情報が帝国に筒抜けになっているとしか言い様がない。

 そもそも帝国に地の利のない魔王領(コーデリア)内での伏兵の配置など、アドニス隊の進軍する正確な進路を知らなければ、出来る筈のない作戦だからだ。

 

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