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48話 アズリア、四天将の実力を知る

 アタシはもしやユーノに想定外の事態が起きたのではないか、と心配になり、黒鉄の装甲を纏った彼女の元へ駆け寄ろうとしたが。

 それを手で制したのは、ユーノ本人だった。


「……だいじょうぶだよアズリアお姉ちゃん。ボクね、いまスゴくカラダに魔力(チカラ)がみちあふれてるんだ……うん、いまならボクひとりでここにいるニンゲンのヤツら、ぜんぶやっちゃえるくらい……っ!」


 身体中に巡る膨大な魔力を抑え込み、制御していくユーノ。

 その溢れる魔力を吐き出すように雄叫びを一つ。


「うおぉぉぉぉおっっ!やっちゃうよおっボク!」


 そして気合い十分のユーノが、アタシらに備えるために集結していた帝国(グランネリア)兵に、真正面から突撃していく。


「盾で防いで動きを止めろ!止まったところを総攻撃で串刺しにしてやれっ!」


 その突撃を阻止するため、数名の歩兵が盾を構えてユーノの突進を食い止めようと立ち塞がるが。


 黒鉄の籠手(ガンドレッド)を纏った右腕を大きく振りかぶって、進路に塞がる数枚の盾にその拳を繰り出していく。


「そんなうっすいてつのいたでっ────ボクのこぶしがとめられるとおもうなああああああっ!」


 その雄叫びの通りユーノの拳の一撃は、構えた盾ごと敵兵を吹き飛ばしていき。背後に吹き飛んだ盾兵に巻き込まれて半数以上が地面へと倒れていく。

 地面に転がる一枚の鉄製の盾が、まるで粘土か何かのようにぐにゃりと(いびつ)に曲がっていたのが、如何にユーノの初撃の威力が凄まじいのかを物語っていた。


 もちろん突撃していったユーノは止まらない。

 そのまま、まだ立っている敵兵へと目標を変えながら、次々に敵兵にその鉄拳を放っていき、そのたびにあらぬ方向へと吹き飛ばされていく兵士ら。

 どうやらユーノは、倒れた相手はたとえ息があっても放置して、立っている敵を優先的に無力化していく戦法なのだろう。

 

「……く、くそぉ……この化け物めぇ!」


 倒れた兵士の一人が腰から抜いた短剣(ダガー)を、自分を全く気にも留めていない背後からユーノの背中目掛けて投擲した。

 しかし、その短剣(ダガー)は背中に命中するも、金属同士が衝突した時のガキン!という甲高い音を響かせて地面に落ちる。


 どうやら、あの「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」による効果は、拳に纏った籠手(ガンドレッド)による攻撃威力の増強だけでなく、全身の防御力の飛躍的な上昇も兼ねているようだ。

 だからこそ、倒れている相手を無視出来るのか。

 

「……あ!……もしかして……?」


 そこでアタシは、最初にユーノが感じていた違和感の正体に一つ心当たりがあったのを今、思い出す。

 

 それは────大地の宝珠(クリスタル)の存在。


 確かにアタシが魔王城の地下で見つけてしまった、伝承の中だけの存在だと思っていた大地の宝珠(クリスタル)

 アタシが回収した魔術文字(ルーン)で形成されていた魔法の鎖は、今考えるとあの宝珠(クリスタル)の魔力が外部に漏れ出さないための意図があったのだと推測される。

 だとすれば、魔法の鎖がない現在は宝珠(クリスタル)からの魔力が溢れているのではないか。


 しかもその魔力の属性は、まさにユーノが使っていたのと同じく「大地」……故にユーノの「鉄拳戦態(モード・アイゼルイェーガ)」に宝珠(クリスタル)から溢れた魔力が上乗せされ、その感触に彼女は驚いてしまったのだろう。

 

 あの様子ならばユーノは心配いらないだろう。

 多分、宝珠(クリスタル)の魔力まで上乗せされたであろう今の彼女には、アタシだって戦えば勝利するのは難しいだろうから。

  

 一方で、巨躯の魔族バルムートはというと。

 こちら側で軍馬に騎乗しているのは彼だけ、という立場を活かして、帝国(グランネリア)側にも10騎ほどいる騎兵を相手にしてくれていた。

 

「がっはっは!何が聖戦だ、口程にもない!貴様ら不届き者が信奉するセドリックとかいう神は盗人(ぬすっと)か卑怯者の神か何かか?」


 挑発的な文句を戦場に響く程の大きな声で発していくと、挑発に釣られた数騎が剣や槍を構えてバルムート目掛けて突撃してくる。


「黙れ魔族め!神セドリックへの侮辱発言、もはや許すことなど出来ぬ!ここで散れ!」

「神セドリックは我ら人間にのみ祝福を与える偉大な神だ!……死ねえええ!呪われた種族よ!」


 だが、挑発で冷静さを見失ったその攻撃は余りにも単調で力任せなものだった。

 そして、単純かつ力比べで競い合うには、バルムートという相手の壁は余りにも高すぎたのだ。


 バルムートは顔を真っ赤に憤慨させ、一直線に突進してくる敵騎兵を迎え撃つために、自分の得物である巨大な戦斧(バトルアックス)を真上に振り上げたまま。

 口から小声で紡いでいるのは──魔法の詠唱。


「叩き潰してやるぞ──── 粉砕する豪腕(ブロワイエル)


 ……意外だった。

 バルムートが今、発動させたのは誰もが使える初級魔法(スタンダード)の「筋力上昇(マイトアップ)」ではなく。

 さらに高度な身体強化魔法(ブースト・エンチャント)だったのだから。

 魔法が発動すると、見た目にもバルムートの上半身……特に腕の筋肉が膨れ上がり、身体の表面が真っ赤に紅潮して、至る所から湯気が上がっていた。

 

 その様子に、挑発で頭に血が昇っていた敵騎兵も思わず冷静さを取り戻すが、駆け出していた馬を急に停止出来る筈もなく、下手に回避行動を取れば攻撃体勢に入っているバルムートに大きな隙を見せるだけだ。 

 つまり、彼ら騎兵はバルムートの変貌に当てられ、唯一の勝機すら失ってしまったのだ。


 そんな騎兵へ、一分の容赦も無く横薙ぎに振り抜かれる渾身の戦斧(バトルアックス)の一撃。

 回避も、防御すらも無駄だった。

 戦斧(バトルアックス)の刃で騎乗していた馬の首ごと三騎の騎兵の胴体を上下に両断したのみならず、戦斧(バトルアックス)が纏ったあまりの風圧で、両断された馬の首や騎兵の身体がバラバラに散らばっていった。


 一瞬で、目の前の三騎の騎兵の胴より上が消えて無くなり、残った馬の胴体と腰より下の兵士の残骸が力なく地面に崩れ落ちる光景。

 それは、集落の住民らを一方的に蹂躙し、勝利とセドリック信仰に酔いしれていた帝国(グランネリア)兵らの熱狂(ねつ)を醒ますには十分な光景だった。

 

『う……うわあああああああああああああ⁉︎』


 急速に戦意を失っていく帝国(グランネリア)兵。

 騎兵をバルムートが、歩兵をユーノが制圧していくが、もちろん二人の手を逃れることに成功し、この場から帝国領土まで退却しようとする兵士も中にはいた。

 ────だが、退却などアタシは許さない。


「……なあ、アンタたち。今さら何処へ行こうって言うんだい?」

 

 兵士らの退路に立ち塞がるのは、アタシ。

 集落に火を放ち、住民を問答無用で殺してきたのだ、アタシと同じ人間が。

 ならばその報復は当然受けなければならない。


 与えるのだ。同じ人間であるこのアタシが。

粉砕する豪腕(ブロワイエル)

肉体と相性の良い地属性の魔力を身体に取り込むことによって、主に上半身の筋肉を膨張させて、膂力(りょりょく)を激的に上昇させる上級魔法(エンシェント)身体強化魔法(ブースト・エンチャント)


ただし使用者は効果時間中、上半身の筋肉が膨れ上がることでその容貌が大きく変化してしまう。その副効果を嫌ってか、使用出来る条件は満たしていても使用を避けたり習得自体を嫌う術者も多い。

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