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44話 アズリア、村の救援に向かう

 負傷した魔族の治療を終え、立ち上がって背中に背負っていた大剣を握ると。

 治癒魔法を目の前で使ったアタシに驚いているバルムート、それにユーノに森の奥を指差して。


「まだ森の中に、他の集落から逃げてきた女子供や老人がアンタらに保護されるのを待ってる。出来ればバルムートたちには、負傷者も含めて城にその連中を連れて行ってやって欲しいんだ」


 アタシからの提案を聞いたバルムートは将の顔に戻り、この場で控えていた30騎程の軍馬に騎乗した魔族と、百を超える食人鬼(オーガ)豚鬼(オーク)ら歩兵らを見渡すと。

 

「確かに、焼け出された難民をそのまま放置はしておけん。帝国兵が途中襲撃してくる可能性を考えたら半分程度は保護に割かねばならんか……」

「いや、保護するなら全軍で頼む」

「ぜ、ぜんいんでって……だ、だってお姉ちゃん?ニンゲンたちがせめてきてるのにっ、ボクらがここからにげたらだれがここをまもるのんだよっ?」


 全軍でオルニスら難民を保護して退却すれば、報告にあった帝国兵をどうするのか?

 ユーノが抱いた疑問は当然のことだろう。その問いに答える前に、慌てるユーノを落ち着かせるために再び頭を撫でてやりながら。


「安心しなよユーノ。集落の救援には……アタシが行く」

「ふえっ?……お、お姉ちゃんが、ひとりで?」

「何とっ⁉︎……い、いや。き、貴殿が如何に強くても、単騎で行かせるなど──」


 心配してくれているのか。それともまだ信用されていないのか、多分に両方なのだろう……二人はアタシの案に抵抗があるみたいだが。

 そんな二人の顔の前に、開いた手のひらを突き出して言葉を制し。


「少なくともアタシが難民連中を城まで護衛するには手が足りない。それに護衛側に何か不測の事態が起きた時にバルムート、アンタみたいな統率力のある指揮官が必要なんだ」


 そうアタシに言われると、バルムートは自分が率いてきた魔族らへと視線を向ける。

 先程、アドニスという気を掛けていた部下の魔族を失った報告を聞いたばかりで「部下を失う」事を不安に思ったのだろう。


 これはあくまで体験から来る推測だが。

 バルムートのような、如何にも武勇を誇る戦士的な思考の持ち主は、自分が傷付くのは何とも思わないが、味方が傷付くのは我慢がならないと考える傾向が強いのだ。


 残るユーノの目線に合わせるように、アタシは屈んでから、片目をパチリと閉じてみせる。


「それとも……アタシはまだ信用ならないかい?」


 その言葉がとどめの説得となった。

 ユーノが強めにブンブンと首を横に振るので、綺麗な金色の(たてがみ)まで大きく振り回されているのが何とも可愛い。


 アタシが魔王様(リュカオーン)率いる魔族らと、グランネリア帝国との争いに首を突っ込むのは余計な世話なのかもしれない。


 だが、オルニス達やバルムートを見て感じたように。

 魔族や獣人族(ビースト)が人間の生活圏から隔離されたここ魔王領(コーデリア)では、彼らは人間に迷惑をかけることなく、普通に集落を形成し、普通に皆で笑って生活していたはずだ。

 それを、同じ人間が蹂躙している現状を黙って見過ごせる程、アタシは出来た人間ではないのだ。


「それじゃユーノ。ちょっと……帝国の連中を向こう側に追い返してくるよ」

「き、きをつけてねっ、アズリアお姉ちゃん!」


 心配して涙目になっているユーノに、アタシは軽く拳を握ってみせる。


 もしかしたら一悶着あるかと思っていたが、バルムートは案外素直にアタシの提案を受け入れてくれたようで。

 早速、配下の魔族らに指示を出してオルニスの案内で森の奥で休養を取っている難民らの保護に向かっていた。

 あの様子ならばオルニスたち難民は大丈夫だろう。

 

 アタシは早速、負傷した魔族が傷だらけで報告してくれた南東の方角へと駆け出して行く。

 もちろん、右眼の魔術文字(ルーン)を発動させ、脚力と速度を上げて。


「いやはや……軍隊に単騎で立ち向かうのはこれで何度目になるのかねぇ……まぁ、以前とは状況が全然違うんだけどさ……」


 アタシはホルハイムでの最終決戦を思い出す。


 とはいえ、前回の単騎突入とは違い、ただ一人で戦うアタシの悲壮感はないに等しかった。

 一度交戦した感触では、白い鎧を纏う帝国(グランネリア)の兵士の練度は……相当低い。

 最初に単騎で立ち向かった故郷の帝国(ドライゼル)の兵士らとは兵士一人一人の熟練度や統率力など、どの要素もまるで比較にならない。

 

 何しろ、弓兵隊に近接した際に、隊長格の指示が飛ばなかったとはいえ。

 隊を前衛と後衛の二つに分割し、前衛に当たる兵士が即座に剣を抜き接敵して距離を保ち、その間に後衛が弓で射る。

 あるいは、直線的なアタシの突撃に隊を左右二つに分割し、射撃を続ける……といった対応策が取れた筈なのだ。

 

 なのに連中は剣を抜く者、弓を構える者と各個がバラバラに行動し、結果として隊全体の混乱をより大きくしたのだ。

 農民らを駆り出した部隊ならともかく、弓という武器は使うためにある程度の練習が必要になるため、即席の兵士にはまず持たせないものだ。

 つまり、あの弓兵隊は帝国(グランネリア)の正規の兵士。もしくは、あまりに正規兵が少ないために即席で雇い入れた人間に持たせたか。


「どちらにせよ……この戦い、背景が重いんだよねぇ。アタシも人間だけど、普通の人間からすりゃ魔族も獣人族(ビースト)も、進んで石を投げるような相手なんだって聞かされてきたし」


 そもそも、この戦いの背景というのが。

 人間によってこの不毛な魔王領(コーデリア)に追放された魔族や獣人族(ビースト)が。

 ここ魔王領(コーデリア)すら人間の領土にするべく大陸からやってきた、グランネリア帝国との確執からなのだが。

 人間にとって獣人族(ビースト)とは、言葉を話す動物程度の扱いだし、魔族に至っては忌むべき敵対種族だというのが、一般的な人間の考え方なのだ。

 そんな異種族の土地など、強引に奪っても構わない。

 ……そう、帝国の人間は考えてるのだろう。


 だが、話を戻すとあの兵の練度だ。このまま散発的な集落の襲撃を続けて嫌がらせ程度にはなるだろうが。

 帝国側の最終的な勝利とは、魔王リュカオーンを打倒することであり。あの程度の戦力ではたとえ頭数だけ揃えたとしても、人間と魔王の圧倒的戦力差を埋めるのは到底無理な話だ。


「そう言えば……アドなんとかっていったっけ?バルムートの配下の名前。あれを()ったのは暗殺者とオルニスが話してたけど、それって──」


 アディーナと名乗った白の修道女(シスター)

 彼女程度なら、魔王様(リュカオーン)には及ぶ程ではないが。


 とある可能性────。

 それは、アディーナと同格、いやそれ以上の実力者が帝国(グランネリア)側の「切り札」として存在している、ということだ。


 つまり、それは……魔王を殺す者(・・・・・・)

 即ち────「英雄」と呼ばれる能力(チカラ)の持ち主が。

 

「ははっ、もしホントに英雄なんてモノがいるとしたら……アタシも一度、剣を交えてみたいもんだねぇ」

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