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17話 神聖グランネリア帝国、動く

 小高い丘で三人が一触即発の馬鹿騒ぎを繰り広げていたのと、ちょうど同じ頃。

 

 その真下に広がる、正式には神聖グランネリア帝国という名の宗教国家。

 この国では、世界で広く信仰されている五柱の神。


 太陽神イェルク。

 月神ヴァルナ。

 戦神ゴゥルン。

 魔術神エスカリボルズ。

 そして、大地母神イスマリア。

 

 いわゆる五大柱神と呼ばれている神ではなく、それ以外の神が信仰されていた。

 言わば、第六の神と呼ぶべき人間を司る神セドリックを信仰している新興国家なのだ。


 その帝都であるネビュラスでは。

 今まさに数えきれない大勢の兵士が集結し、魔族や獣人族(ビースト)らが居住する地域へと攻め込む準備を整えていたのだ。


 そもそも、帝国と自称してはいるが。

 彼らはラグシア大陸での国家間の抗争に敗れ、住む土地を追われた人間らが新天地を探し求めて、この西の魔王領(コーデリア)に辿り着いてから20数年程度しか経っていないのだ。


 最初は住む場所どころか、食糧を確保することすらままならず、上陸した大勢の人間が飢えに苦しみ、ある者たちは島に棲む魔獣や小鬼(ゴブリン)食人鬼(オーガ)らの餌食となり。

 またある者らは厳しい天候に晒され、未知の風土病や嵐、荒れた海によって倒れていった。


 そんな彼らに救いの手を差し伸べたのが。

 何を隠そう、彼らが信仰している人間の神セドリックなのだ、と信じられている……少なくともグランネリア国民の中では。


 その屍を乗り越えて建国した神聖グランネリア帝国という国家は、移り住んだ人間から次の世代、さらにはその次代へとその志を継ぐこととなり。

 最早、住居などの生活環境も整い、飢えに苦しむ者もいないまでに構築され、自分たちの生活が満たされていくと。

 いよいよ以って、魔王領その全土に目を向けるのは当然の流れなのかもしれない。


 しかも、である。

 この地に住んでいるのは、かつて自分らの先代が住んでいたラグシア大陸では忌み嫌われている獣人族(ビースト)という種族と。

 人間という種族の敵でもある魔族なのだ。


 だから、これはただの戦争や侵略ではない。

 異種族に支配されている汚れた土地を、我々人間の手へと奪い返すための。

 ────この戦いは「聖戦」に他ならない。


 よって、集められた兵士らの士気は何よりも高い。それは自分たちが「聖戦」のために剣を振るう事に熱狂し、酔いしれている部分も大きいだろうが。

 

 最大の要因は、兵士らが集結しているその場所。

 アズリアらがこの帝都を見下ろした時に、際立って目立つ都市の中央に建てられていた大きな建造物、それがセドリック大聖堂だ。

 

 この国を統括しているのは確かに皇帝を名乗る存在なのだが、その皇帝が住民らに姿を現したことは今までに一度も存在しなかった。

 代わりに国の政治や政策を担当しているのは、人間神セドリックの代理の役割を担う「巫女」と呼ばれる存在と。「円卓」と呼ばれる、皇帝によって選ばれた数名の人間の集団である。


 普段は神の声を聞くために大聖堂の奥で厳重に保護されていて、顔を見せる事のないセドリックの巫女であるネレイアという少女。

 その巫女ネレイアが聖堂から姿を見せ、兵士らに激励の言葉を投げ掛けるのだから、熱狂が止まらないのは当然と言えば当然なのだが。


「……聞け。セドリックの祝福を受けた兵士たちよ」


 透き通るような綺麗な声がこの場に響き渡る。

 多分、声の拡がる魔法を行使しているのだろう。


 ネレイアの姿は、10代の少女ほどの外見ではあるが、銀色の長髪をなびかせるその人間離れしていた見目麗しさは、どこか冷たい印象を受ける。

 まさに「神々(こうごう)しい」という言葉がしっくりとくる雰囲気と合わせ、通常の魔術師を遥かに凌駕した魔力を纏わせていた。 

 そんな巫女ネレイアが、兵士の前で鼓舞を続ける。


「我々はこれよりこの地に人間の叡智を授けるための聖戦を宣言し、西の魔王を駆逐する」

 

 巫女のそれは、紛れもない開戦の宣言だった。

 だがそれを聞いても、兵士らには一欠片も動揺するような様子は見られなかった。

 そして、巫女はなおも言葉を続ける。


「あの愚か者どもは我々など眼中にないらしく、大陸へと兵力の大半を侵攻させ、そして人間によって全滅させられた……それこそ我らが神、セドリック様の加護であり、慈悲である」


 蠍魔人コピオスが行った大侵攻の代償は、まさにこのようなところにも現れていたのだった。そう考えると、コピオス率いる大侵攻がたとえ成功していたとしても。

 魔王リュカオーンは蠍魔人を許すことなく断罪したのだろう。


「人間の手にこの地を取り戻す絶好の機会が訪れたのだ。その聖戦に、皆の力と。そして生命を貸して貰いたいのだ」


 巫女が言葉を終えた途端に、その場にいた兵士の誰一人の例外無く、腹の底から勝鬨(かちどき)をあげていき、武器を抜いて頭上へと掲げていくと。

 巫女を、皇帝を、そして神セドリックを讃える大合唱が始まる。


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

『ネレイア様に祝福あれ!』

『皇帝陛下の祝福あれ!』

『セドリック様、我らに勝利を!』


 最後に、巫女ネレイアが呪いの言葉を呟くのだが。

 その声は誰にも聞こえはしなかったのだ。


「────くっくっく。人間を脅かす魔王に死を」

 

 

ちなみに余談ですが。

今書いてる五章の登場人物の、以下がイメージCVとなっております。


アズリア……渡辺明乃さん

魔王リュカオーン……岡本信彦さん

アステロペ……巽悠衣子さん

巫女ネレイア……上坂すみれさん


みたいな配役なんで。

想像出来る読者さんは頭の中で声を充てて読んでみて下さい。

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